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2011_09
07
(Wed)01:40

KY100-78・4

古代進&森雪100題, shingetsu版

36.古代君!
65. 海へ
78. 温泉・1・2・3/・4/
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

= 4 =

 翌朝。
 朝風呂を気持ちよく浴びた古代は、昼の弁当を(おにぎりとおかずである)旅館が用意してくれるというのでそれに甘え、早めに旅館を出た。早ければ夕食に南部たちが来るかもしれない。――朝、入っていた携帯メールでは、「どうなるかわからない」と不満げだったが。あいつらのことだ。来なければ来ないでもう一晩一人でゆっくりするか。
 それはちょっと寂しいかもしれない、と珍しく思う古代なのだ。

 朝の光は気持ちよかった。天候も、晴れ。
気になるのは昨日、少年が点検してくれたビスの緩みだったが、なるようにしかならない。あまりふかしすぎないようにし、教えてくれた工場へ立ち寄ってみることにした。

 「おはようございま~す」
朝の光を浴びて木陰にたたずむという雰囲気の小さな工場は、オープンなつくり。店内には何台かのバイクが並べてあるのが外からも眺められた。
古代は声をかけ、「誰かいませんか」と鍵のかかっていない扉を開けた。
 「誰だね」
ひょろりとした爺さんが顔を出して、あん? と言って「お客さんかね、どうぞ」と言われるまま中へ入った。「ミサキ!」と呼ぶ。気づくと土間の床の隅に若者が一人、部品をいじっていた。もっそりと立ち上がり、やってくる。
 「バイク、中へ入れとけ。外、置いとくとだめだ」
「あ、あぁ…」古代のバイクはそれなりに価値のあるものだ。型式がヴィンテージだということもあるだろうが、実際に使えるように改造を重ねてあり、かなり趣味度が高い――古代の趣味、つまり実用的で機動性が良い。古代はこれを、こっそり“地上のコスモ・ゼロ”だと考えていた。――もちろんゼロは官品、このバイクは個人持ちという違いはあるが。
 ミサキと呼ばれた青年が立ち上がって、バイクの横へやってきた。
無愛想な男で、表情も変わらない。だが「触るぞ」と一言断って「どこだ? タケが言ってた車だな」「タケ?」「弟。――会ったんだろ、昨日」
あぁ、これが少年の兄なのかと古代は思い、そういえば彼の名前を聞かなかったなと思った。タケというのがそうで、目の前にいるのが兄か。ミサキというのは名前だろうか。苗字だろうか。
 古代が手で示した場所を見て、ミサキの顔色が変わった。
 昨日、少年もそれを見て表情を変えたのだ。「――そこのビスが緩んでる。錆びが出てるのかもしれない」少年に言われていたのはそのカバーの裏側の部品だった。が、ミサキが……もしかしたら少年も。引っかかったのはそこではなかった。
 「免許証、出しな」
ミサキが言い、古代は一瞬、躊躇した。「何故」と問う。
「あんた、ツーリング行くんだろ」あぁ、と答える。
「――時々いるんだよ、無免許のやつ。機械さえ手に入ればそんなに難しくはないからな、皆、簡単に乗りやがる。それで事故って、あの世行きだ。……うちはそんなやつの整備もしねぇし、部品も出さない」
「――そうだ。だから免許は見せて貰うことにしてんだ」最初の爺がそう言った。やり取りはミサキみ任せて、板の間の帳場でなにやら図面を眺めている。
 古代は仕方なくライダースーツの内側の胸ポケットから1枚のコーティングカードを出した。顔写真入り、シークレットセンサーの付いた特別免許証。
この時代、二輪の免許は普通のエアカーの比ではないほど取得が難しい。だが古代のように軍にいて様々なライセンスを持っている者は、単位を取得後なら講習だけ受ければ免許が出た。一般ライセンスとは色が異なる。見る人が見ればすぐに軍人であり士官だとわかるシロモノなのだ――しかも、いいわけが利かない。当然そこには、「古代 進(森)」と記されてあるからだ。
 AAライセンス所持。その気になればレースに出る資格も持つ(ただしレースは経験値を積まなければコースや大会に出場できないため、古代の免許で出られるわけではない)。運動神経の塊のような古代である。随分若いときに取ったもので、軍務で得た資格ではなく、正規に取得した二輪免許だった(とはいえ、経緯で表示が異なるわけではない)。
 バイク乗りは戦闘機乗り(パイロット)と同じく、力量の上の相手の前では、掛け値なしの敬意を示す。通常なら、これを見れば尊敬の眼差しを向けるか羨ましがるところ、ミサキはひと目見ると、付き返すようにそれを返して寄越した。
 「帰ってくれ!」
急に、無愛想さに拍車がかかる。
「――森、という名前も嘘だな」
「……それは、わけがあって」古代が何か言おうとすると
「そんなことはどうでもいい。あんたにやる整備は無い」
「だが……」
「部品はやる。金も要らない。早く、それを持って出ていってくれ」
「君……」
「早くっ! 塩まくぞ」
 けんもほろろに工場を追い出されるように古代は其処を出た。
言ったように部品だけはくれたので、少し転がしてから自分で替えるしかなかった。

 (免許――? 軍人嫌いか? それとも)
古代は突然、はっと気づいた。
(俺の、名前? ――コダイススム、に何か思うところがあったのか?)
考えてもわかりはしなかった。少年は何も言ってなかったではないか。
 気にしていても始まらなかった。
地図はあり、部品も完璧だ。弁当も持っている(宿で握り飯を作ってくれたのだ)。宿へ戻ったらまた少年をつかまえて訊ねてみよう。そう思い、その日の山上りに向かう古代だった。日が随分、高くなってきた時刻である。

(= 5 = へ続く)
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2011_09
05
(Mon)00:04

KY100-78・3

古代進&森雪100題, shingetsu版

36.古代君!
65. 海へ
78. 温泉・1・2/・3/
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

= 3 =

 『だぁからぁ、古代さん。済みませんってば――』

 画面に映っている南部の顔は小さいが態度は慇懃なだけで相変わらず大きい。
自分から誘っておいて、ひどいじゃないか、と古代が文句を言うと、
『俺だって休みたかったんですよぅ。でも親父さんから珍しくSOSなぞあって、ですねぇ。どうにも出かけられなくなっちまいまして……』
「相原は」
『――長官がらみだそうです』
 はぁそうですか、と古代は内心ため息を付く。
どちらもそれ相応の“家”なのだ。
仕事が抜けられると思えば、そっちかと思うと、そういった係累の無い自分は、それはそれで想像するしかない。
 わかった、と言う古代に、キャンセル料その他はこっちで持ちますからゆっくりしてらしてください、と気配りを見せる南部。
『たまには一人でのんびりされるのも良いんじゃないですか――それとも』
そのあとは言わなくてもわかった。どうせ、
「ユキさんや俺たちが居ないと寂しいですか?」とでもからかいにくるに決まっているからだ。
お言葉に甘えることにした古代である。一人なら一人の楽しみ方もあるというものだ。
 “地球に帰ればご家庭優先”の典型だった古代進であるが、久々にバイクを引っ張り出したのもその思いつきの一つ。
たまにはこんなのもいいなと思えるのも、家族あってのことなのかもしれないと思うのだ。
幸せなんだろうな、と思う。

 そんなわけで自宅には戻らず、セキュリティハウスから直行してしまった古代である。
南部たちは後から追っかけてくると言っていた。果たして3泊4日のうちに来れるのかどうかはわからないが。
古代はそれには構わず、このあたりの山道をツーリングしてみようと思っている。
調べてみたらこのあたりには、そういったコースがあるらしく、以前から来てみたいとも思っていたのだ。
――もちろん、再生された地球での新しい山野に、ということだが。
 水惑星アクエリアスは、瓦礫と再生区のまだらだった地表に、多くの水を作った。
必ずしもそれは天然にうまくいったものばかりではなく、一度は削られ、二度の熱で粘土のように固まってしまった地表は掘り起こしても元の地層を残している地域ばかりではない。
だが中には湖や川として再生したもの、地下に注いで源泉を作ったものもある。
地球は三度痛めつけられたが、まだ命を失ってはいなかったのだ。
――中でも幸いにして、日本列島は地力が強かったのか、比較的新しい層だったためか、地力そのものを取り戻しつつあり、それに注がれた水が、元の“列島”の自然を復活させるのに役立っている。
もちろん相当に人工的な手を入れなければならなかったのは当然である。

 この地域(エリア)は“日本の山野”らしきものが早くから再生されていたそうだ。
特別区に指定を受け、熱水鉱床も再生し温泉としてよみがえった。
浄化や再生のため、古い日本の風景に見せながら、地域には最新の技術が導入されているに違いないのだ。
そうまでしても、大和民族は、元の“自然”を取り戻したかった――それは古代らだけでなく人々の共通の思いだったのだろう。

                 ☆
 風呂を終えて夕食までには時間があったので、そろそろ来ればいいがと思いながら預けてある格納庫の方へ行こうと立ち上がったところで少年と会った。
「終わったのかい?」古代が訊ねると、こくりと頷く。
「じゃぁ、見に来るか?」そう問うと、
「本当にいいんですか?」言い、嬉しそうに先に立って前庭にある格納庫へ行った。
馬小屋の横にある倉庫の鍵を開けて其処に大事に止められているバイクを見る。
 「2201年式――」
「あぁ」と古代。もうだいぶん古いものだが、型式そのものは2193年製で、それのレプリカなのだと聞いている。ただ、訓練学校生の頃から自分でチューニングしたりもしたため、排気量その他、規定ぎりぎりの改造ぶりだ。
 「見ても、いいですか?」
おずっと、だが目を輝かせて言う少年に、あぁ、と古代は笑って頷いた。
メカ好きの目をしている。
こういう男になら、いじらせても大丈夫だろうと思う。
 バイク自体は量産品というわけではないので中古(なのだ、古代のものは)でもそこそこの値が付くが、乗る機会がひどく少ない割りに錆びも無く、管理は行き届いていた。

 「すっごいですね~。初めて見ます、本物!」
兄の工場ではそういうレプリカやヴィンテージの好事家たちも集まるため、実際に転がすための二輪も見てはいたが、これだけ乗り込んだものは久しぶりだと言った。
 見て飽かず、古代もあちこちを示しながら、特にエンジン周りには興味が共通しているらしかった。
そのカバーのウラを覗き込んでいた少年の目が、え、と1点で留まる。
だが気にしない風を装って、どうかしたか? という古代をやり過ごした。

 「森さん――でしたよね」
記憶力は良いらしい。
「あぁ――進(シン)っていう」
古代の名を音(おん)読みにした、バイク仲間での呼び名である。
「……ここ、ちょっと。磨耗しているみたいです」
ビスの一つを差して、言った。
「明日、ツーリングとか行かれますか?」と問い、あぁと答えると、
「交換しないと抜けたら危険かも」。
 整備はきっちりしていたつもりだったが、飛び出す時に気が急いていたかもしれない。
せめて旅館に着いてからきちんと調べてみればよかった――予備の部品も持ってきていない。
この時間では、整備工場を探すのも難しいだろうと古代は思った。
「――今日、兄に言っておきます。朝、工場に寄ってってください。どうせこの裏山のコースに行かれるんでしょう?」
そのために集まってくるバイク仲間の溜まり場でもあるらしい。
「……ん、と――」部品を仔細にチェックしはじめた彼は、
「たぶん。このサイズならうちにあるので間に合うと思いますから。場所は、此処――」
紙に簡単な地図を書いてみせた。
車で10分くらいです。僕は自転車で通っているので、と彼は言い、目の保養をありがとうございました、と言った。
 いい子だな――。
古代は例を言うと、
「裏山のコース地図は、帳場にありますので。必ず持っていってくださいね。迷った時の連絡先なんかもありますから」
山を舐めると怖いですよ、と言われ、そうだなと古代は思った。
――宇宙は危険で、予測ができない。だがそう思って地上を舐めてかかると……こんな低い山でも遭難したり事故死する宇宙生活者はいるのだ。――気をつけよう、と思うのだ。

= 4 = へ続く)
2011_09
04
(Sun)00:14

KY100-78・2

古代進&森雪100題, shingetsu版

36.古代君!
65. 海へ
78. 温泉・1/・2

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

= 2 =

 「こんばんはぁ」
ガラリと昔風の玄関を開けて、古代進は帳場の先から声をかけた。
「はい、いらっしゃいませ」いかにも客商売、といった腰の低い番頭さんが出てきて、
「ご予約ですか?」と訊ねた。彼は頷くと、
「森、といいます。3人なんだけど、連れが今日は来られなくなったそうで、1人に変更可能ですか?」
と訊ねた。
キャンセル料が必要なら、払ってもよい――まったくもう、あいつらから呼び出しておいて、という古代進である。

 古代が久しぶりに地球へ戻ってくる。しかもユキさんは仕事で火星から戻れず、守くんも一緒に行ってしまっている、という情報を(どこでかは知らないが)聞きつけて、相原から連絡があったのは、その前に寄航した衛星基地だった。
 『――南部さんが、久しぶりに飲まないかって。良い温泉宿知ってますから、そこでいかがっすか、と言ってましたよ』もちろんいらっしゃいますよね、という口調の元・部下&今でも時々部下の相原義一である。太田は相変わらずガニメデですから、ヤツには申し訳ないんっすけど、3人で飲りましょうよ、と言っても相原は下戸ではあるが。
 古代の下船に合わせて南部が予約した。
3人で――3人とも有名すぎるので、名前は「森」にしたといっていたな。
――“森”もそれなりに有名だと思うのだが、我々の名よりはあちこちにあるからいいのだそうだ。

 ほう、と浴衣に着替えて部屋にくつろぐと、作務衣の若い男性がお茶を淹れに来た。
窓際にくつろいで風を仰いでいた古代は、
「お世話になります――」と言ってありがたく茶を啜ってから、「男性の仲居さんは珍しいですね」と言った。
 自分に声をかけられたと知って、驚いたのか、少しはにかみながらおずおずと顔を上げたのは、まだ少年という年齢を少し出たくらいの年の若者である。
実直そうな瞳と、大人しやかな所作が、旅館の下働きなのかなとも思わせる。
「はい……あの」口ごもるようすに、古代は
「連れがいるわけじゃない。少し話していきませんか」と(珍しくも)声をかけた。
 「あの……お客さんが乗ってらした――あれ」
「あぁ、バイク? 好きなの」
こくりと頷く。興味深そうに見ていたから、それなら茶を持っていけと番頭さんに言われたのだと彼は言った。
「――趣味なんです。自分で作ったりする方ですけど」
恥ずかしそうに言うのに、古代の方がへぇと興味を持った。
 大人しいが暗い子ではない。想像したとおり、ときどき旅館の下働きをしながらお小遣い程度を貰っているといい、この付近に住んでいるのだといった。機械いじりが好きで、自分で部品を集めて動くものを作ったりするのだという。一種の才能もあるようで、若年層部門のロボット製作で賞を取ったこともあるんだそうだ。
(真田さんが小さい頃ってこんなだったのかな――)
古代は微笑ましい想いで目を輝かせてそんなことを語る少年を見ていた。
「お兄さんがいるのかい? 仲がいいんだね」
ううん、とはにかみながら首を振ったが、その様子は兄をとても慕っていると見えた。兄弟も機械が好きでそういった店に勤めているのだそうだ。時々整備を教えてもらうという。
休憩時間になったらおいで、見たければいいよと古代が言うと、
「お許し貰ってから。でも、ありがとうございますっ」と本当に嬉しそうに辞していった。

 湯に行こうと渡り廊下を歩いていると先ほどの番頭さんとすれ違った。
「すみませんね、お客さん。長居しないようにって言ったんですけど」
構いませんよと古代は言った。引き留めたのは自分だから叱らないでやってください、と言って仕事が終わったらの許可もついでに貰ってやった。
 すると、いえね、と話し好きらしい番頭さんは少し寄って、あの兄弟は親がおりませんで、と言う。やはり四度の地球侵攻戦役の犠牲者で――と、あとは言葉を濁した。単なる戦災死ではないのか? と古代が怪訝な顔をしたのだろう。気を取り直したように番頭さんは、「考えてみれば可哀想なんですよ。あの子は素直ないい子ですけど、兄さんの方は。今は真面目に働いていますけどね、まぁいろいろありました」あとは少し笑うと首を振った。
 どこにでも悲劇は転がっている――古代は番頭さんと並んで静かに流れるせせらぎの音を聞きながら、木陰に見える蒔小屋の隅で用具を片付けている少年に目をやった。

= 3 = へ続く)
2011_09
02
(Fri)00:18

KY100-78・1

古代進&森雪100題, shingetsu版

36.古代くん!
65. 海へ
78. 温泉

・・・・・
【78. 温泉】

= 1 =

 古代進は久しぶりに地球へ帰還した。
 ハンディケースを持ち、いくらかの雑務をこなして最後に一通りの報告事項に目を通すと、艦長室を後にする。――この瞬間の気持ちというのはなんともいえない。
 ほっとするというのでも、名残惜しいというのでもないが。繰り返し、繰り返し……何年経っても、慣れるわけではないのだろうとも思う。

 「艦長、お先に」
「よい休暇を!」
「……失礼します」「お疲れさまでした」
すれ違う部下たちが、敬礼し、だが声をかけていくのは古代艦の特徴でもあったろうか。
(貫禄、足りないのかな…)
と時に思わないでもないが、いつもむっつり難しい顔をして、雲の上に居るだけが艦長のスタイルでもあるまい、とこのごろは古代も割り切っている。
副官や艦橋要員よりも若くて、現場の戦闘員たちと同年代で。からかわれたり笑い合いながら宇宙を飛ぶ艦長がいたっていいだろう――なんてな。言い訳かな。
 上の世代が地球存亡の戦いで失われて久しい――だから、各基地や現場の責任者は同世代前後も多くて――
「古代!」「よぉ、久しぶりだな」……気軽に声をかけあい、呼び捨てにする仲の者も多いのだ。
訓練学校のつながりもあるし。
――いざ事が起これば皆、瞬時に従い、古代ならなんとかしてくれるだろうと信望されるカリスマ……そんな自覚がないのも古代進本人だけであろう。

 「艦長――お疲れさまでした」
 そう言いながら隣に並んでくるヤツがいた。
ここまで図々しいのはさほど多くない。今回、借り出されて戦闘機隊長を務めた加藤四郎である。
「珍しいですね、このまま休暇ってのは」
「あぁ――ちょっとな」
本部勤めを3日、次の出航の手当てをし、その準備までの間を休暇に当てる。
それが古代艦長の通常のスタイルだが――今回は、降りてそのまま休暇に入る。
 「ユキさんと、デートですか?」
ん? と見る顔が笑っている。
「あ?……阿呆。あいつらは火星。しばらく戻って来んさ」
地球へ戻る楽しみといえば、家族と過ごすことが一番であるのは宇宙の男とて例外ではない。
ましてや幾つになっても“究極のカップル”という印象から逃れられない古代進とユキ夫妻。
1子に恵まれてもそのお熱さは噂を呼ぶ――ほどである。
 それに憧れる女子たちも、ただし“めったに会えない”という“宇宙戦士との恋の成就”という現実に目覚めると躊躇するのがほとんどではあるのだが――。なかなか難しい時代になったものだ。

 加藤も恋人と小旅行に出ると言っていた。めったにないことだが休みがぴったり合ったそうで、さらに珍しいことに“恋人からのお誘い”なのだそうだ。ヤツがすっ飛んでいくのも仕方ないというものだろう。
(あいつらこそ、“宇宙一ラブラブってやつ”じゃないか?)と古代はこっそり思うのだが。

                  ★
 古代進はそのまま宙港前からエアタクシーを拾うと、さほど遠くないセキュリティハウスの前へ付けた。
そこで制服を脱ぎ、ラフな格好に着替えると用意してあったらしいバッグを肩にかけ、バイクにまたがる。
 (久しぶりだな――〔これ〕に乗るのも)
バイクといってもエアーバイクではない。昔ながらの、車輪で走るものだ。
古代はこれが趣味で、同じように“オタク”といわれながらいじるのも乗るのも好きだった故・加藤三郎と一緒に、けっこう話し合ったり飛び回ったものである。

 風を受ける感じが気持ちよかった――。

 そのまま東京メガロポリスを外に回り、海岸沿いへ出ると、一気に西下していった。
列島の形は変わってしまった、とはいえ、日本の山野は再生され、また元の南北に長い、民族の土地として栄えている。そこを彼は西へ向かい、ひた走っていく。

 道行く人々が、気づけば振り返った。

 ヘルメットの下の顔にまでは思い至らないが、いまどきガソリンと車輪で走るバイクは、音も小さくない。
エコロジカルではない――といわれてはいるが、なにせ存在自体が珍しいから、問題にされることもなかった。
ただし注目されるのは仕方ない、と諦めている。
ガソリンを手に入れるのが大変なのとコストが高くなること、故障でもした日には自分で治さなければならない、という面倒はあるにせよ――そうした“手間ヒマ”もまた楽しい古代なのである。

= 2 = へ続く)
2011_08
31
(Wed)19:40

ky100-36 ・5

古代進&森雪100題, shingetsu版

36.古代くん!・1・2・3・4/・5
65. 海へ
78. 温泉

☆オリジナル・キャラクターが登場する話です。こういうお話を好まれない方はお読みにならないでください☆
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

                 ★
 「あの……」
階段の手すりあたりから小さな声がして、リビングの4人は振り返る。
そこに、おずおずと隠れるように、その日の主人公の姿があった。
「守っ――寝てなくていいのか」
「古代くん」
「古代君、あの…あの私」「ごめんなさいっ」
皆がいっせいに声をかけ、彼はびくりとして固まってしまった。
 「守――降りてきたなら、こっちへ来なさい。ほら、ここでいいから」
進は自分の傍らを示し、守はおずおずと近づくと、おびえたような顔をして古代の膝に触れるように椅子に座った。
「わざわざ来ていただいたんだ――何か、言うことはあるかい?」
進が促すと、守は、
「あの……」と言ったまま、うつむいてしまった。だが、小さな声で「どうも……ありがとう」と。
ううん、と彼女は首を振った。
「ごめんなさいっ、私。あなたを苦しめるつもりなんてなかった」
「――」おずっと体を引く守である。
「そ、そんな……別に君のせいじゃ」
守はなんとか体制を立て直そうとした。
 古代が守の背に手を当てて、息子は其処から熱を感じた。
そうだ、僕。逃げてちゃいけないんだ――理由も理屈もわからない。
まだ混乱していたが、目を上げて、はっきり言った。
「――明日から、学校に行きます。だから、気にしないで」
小さな声だが、それはきっぱりしており、また同時に、ある種の拒絶を含んでいた。
 「古代くん?」
びっくりした目をして葵が守を凝視する。
「――僕はあなたたちのこと、よく知らない。なのになんで、好きだのなんだのいうの。考えたらわからなくなった。この間のことなら、ごめんなさい、一緒に遊園地とか行けない」
 その答えで古代進は、告白されて遊びに行こうと誘われたのだと理解した。
 だが、女の子たちにも、もしかしたら深い意味はなかったろう。
もっと仲良くなりたい―― 一緒に遊べたら。見目良い相手にキャァキャァと盛り上がるのはスターに憧れるのとたいして変わらない。女の子同士なら普通のことだ。
だが守にしてみれば、青天の霹靂ともいうことだったのかもしれないのだ。

 「守」
小さくだが父の声に込められた意味に気づいて、守は「ごめんなさい」と言った。
「わざわざ来てくれてありがとう――僕、もう大丈夫だから」
無理をしている、とわからないわけではなかった。だが守にはこの会見を早く切り上げたい。もう構わないでほしいという意思が見える。
 「ね、でも」
このあたりが限界だろうと進は思った。
「――守。わかった、御礼だけ言ったらあとは部屋へ戻っていなさい。皆さんも、今日はわざわざありがとう」

 守は階上へ上がり、3人は立ち上がった。
これ以上、此処にいても仕方ないと思ったからだ。

 玄関を出るときに、葵は古代進を見上げ、問いかけた。
明らかに落ち込み、悩んでいる風を見せている。
「あの……お父様。古代、進さん……」
「なにかな」古代は柔らかく微笑む。
彼女たちの真っ直ぐな気持ちを傷つけたくないと思った。
「――私、いけなかったんでしょうか。でも、古代くんは……」
泣きそうに見えて、泣きはしなかった。だが、少し震えている葵の両肩に、古代は柔らかく手を置いた。
「彼もいまはまだ調子が良くないからね――人が誰かを好きになるのは自由だよ。それがあなたのような人が、うちの息子に、というのは光栄なことだ。ただあいつはまだ子どもで、その気持ちには答えられないらしい。――あなたもね。もっといろいろな人や仲間と、いろんなことを話したりするといい」
「古代さん……」
「これから皆、まだまだいろんなことがあるよ。うちの息子もね、幸せものだ。私からも礼を言わせてもらう、ありがとう」
だがしばらくそっとしておいてやってくれ、とも言い添えるのを忘れなかった。
 「しばらく……しばらくって、どのくらいでしょうか」
「そうだな――ヤツが自分から、貴女に話しかけるまで、かな」
あいつのことだ。放りっぱなしにはしないと思うよ――まだガキだけどね、そういう教育はしていないからね。
少しウインクするように言って、送り出された3人は、ぽぉっとした気分のまま家路へ向かった。官舎の厳しいセキュリティを越えるときも、行きはあれだけ緊張したのに、帰りはいつの間にか通り過ぎていた。

                ★
 その夜。
 遅く帰ってきた森ユキは、息子がすやすやと古代の膝で寝息を立てているのを見つけた。

「おう、ユキ――お疲れ様。すまんな、こういう状態で動けなくって」
お風呂沸いてるよといい、ありがとうとユキが答え。
「どう? 守の様子は」そう横に膝をついて尋ねると、
「ばっちりさ。任務完了も間近だな」とおどけた調子で答えた。

 「今まで、君が何故、俺のことを“古代くん”って呼ぶか、話していたんだよ」
ユキはぽっと赤くなった。
「ま。……いまさら何を――特に何故とか理由なんかないでしょうに」
「ん?」古代は目を細めて笑った。
「まぁ、そうだな」そう言って守の髪に手を置く。
「だけど、君の“古代くん”は、何よりもの薬だったし――時には俺の命を救った」
そうじゃなかったか? と古代はユキをもう一度じっと見つめた。
「そう? そうかしら、ね……そんなこともあったかもね」
うっとりと、古代にだけ向ける笑顔を向けて。

 守はもう大丈夫だ。
 自分の力で殻を抜けて、外へ出てきた。――優しくて、強い子だよ。
 明日はどうやらクラスのお友だちが、朝、お迎えに来てくれるそうよ。
 そうか。仲間にも恵まれてるんだな。――それとも君の采配か?
 まっ。どうかしら?

 ユキは嫣然と微笑むと、守を抱えてベッドにそっと運んだ古代を促し、二人でベッドサイドに寄り添った。
 「大事な、子よ――私たちの、守」
「そうだな」
今日よりも、明日。明日よりも、未来に――より幸せが待っているように。
あぁ。失った命の分も――この地球(ほし)そのものの恵みも。
そうね――本当ね。

 古代くん……。
 古代、くん!?

 ユキが呼ぶ。
 守も、そのうち、そう呼ばれるようになるのだろうか。
愛しい娘の声で。――そうあればいいと思いながら、それはいつのことだろう、もしかすると、ずっと先なのかもしれない、と思う、古代進だった。

【Fin】
――30 Aug, 2011

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