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2011_08
31
(Wed)19:40

ky100-36 ・5

古代進&森雪100題, shingetsu版

36.古代くん!・1・2・3・4/・5
65. 海へ
78. 温泉

☆オリジナル・キャラクターが登場する話です。こういうお話を好まれない方はお読みにならないでください☆
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

                 ★
 「あの……」
階段の手すりあたりから小さな声がして、リビングの4人は振り返る。
そこに、おずおずと隠れるように、その日の主人公の姿があった。
「守っ――寝てなくていいのか」
「古代くん」
「古代君、あの…あの私」「ごめんなさいっ」
皆がいっせいに声をかけ、彼はびくりとして固まってしまった。
 「守――降りてきたなら、こっちへ来なさい。ほら、ここでいいから」
進は自分の傍らを示し、守はおずおずと近づくと、おびえたような顔をして古代の膝に触れるように椅子に座った。
「わざわざ来ていただいたんだ――何か、言うことはあるかい?」
進が促すと、守は、
「あの……」と言ったまま、うつむいてしまった。だが、小さな声で「どうも……ありがとう」と。
ううん、と彼女は首を振った。
「ごめんなさいっ、私。あなたを苦しめるつもりなんてなかった」
「――」おずっと体を引く守である。
「そ、そんな……別に君のせいじゃ」
守はなんとか体制を立て直そうとした。
 古代が守の背に手を当てて、息子は其処から熱を感じた。
そうだ、僕。逃げてちゃいけないんだ――理由も理屈もわからない。
まだ混乱していたが、目を上げて、はっきり言った。
「――明日から、学校に行きます。だから、気にしないで」
小さな声だが、それはきっぱりしており、また同時に、ある種の拒絶を含んでいた。
 「古代くん?」
びっくりした目をして葵が守を凝視する。
「――僕はあなたたちのこと、よく知らない。なのになんで、好きだのなんだのいうの。考えたらわからなくなった。この間のことなら、ごめんなさい、一緒に遊園地とか行けない」
 その答えで古代進は、告白されて遊びに行こうと誘われたのだと理解した。
 だが、女の子たちにも、もしかしたら深い意味はなかったろう。
もっと仲良くなりたい―― 一緒に遊べたら。見目良い相手にキャァキャァと盛り上がるのはスターに憧れるのとたいして変わらない。女の子同士なら普通のことだ。
だが守にしてみれば、青天の霹靂ともいうことだったのかもしれないのだ。

 「守」
小さくだが父の声に込められた意味に気づいて、守は「ごめんなさい」と言った。
「わざわざ来てくれてありがとう――僕、もう大丈夫だから」
無理をしている、とわからないわけではなかった。だが守にはこの会見を早く切り上げたい。もう構わないでほしいという意思が見える。
 「ね、でも」
このあたりが限界だろうと進は思った。
「――守。わかった、御礼だけ言ったらあとは部屋へ戻っていなさい。皆さんも、今日はわざわざありがとう」

 守は階上へ上がり、3人は立ち上がった。
これ以上、此処にいても仕方ないと思ったからだ。

 玄関を出るときに、葵は古代進を見上げ、問いかけた。
明らかに落ち込み、悩んでいる風を見せている。
「あの……お父様。古代、進さん……」
「なにかな」古代は柔らかく微笑む。
彼女たちの真っ直ぐな気持ちを傷つけたくないと思った。
「――私、いけなかったんでしょうか。でも、古代くんは……」
泣きそうに見えて、泣きはしなかった。だが、少し震えている葵の両肩に、古代は柔らかく手を置いた。
「彼もいまはまだ調子が良くないからね――人が誰かを好きになるのは自由だよ。それがあなたのような人が、うちの息子に、というのは光栄なことだ。ただあいつはまだ子どもで、その気持ちには答えられないらしい。――あなたもね。もっといろいろな人や仲間と、いろんなことを話したりするといい」
「古代さん……」
「これから皆、まだまだいろんなことがあるよ。うちの息子もね、幸せものだ。私からも礼を言わせてもらう、ありがとう」
だがしばらくそっとしておいてやってくれ、とも言い添えるのを忘れなかった。
 「しばらく……しばらくって、どのくらいでしょうか」
「そうだな――ヤツが自分から、貴女に話しかけるまで、かな」
あいつのことだ。放りっぱなしにはしないと思うよ――まだガキだけどね、そういう教育はしていないからね。
少しウインクするように言って、送り出された3人は、ぽぉっとした気分のまま家路へ向かった。官舎の厳しいセキュリティを越えるときも、行きはあれだけ緊張したのに、帰りはいつの間にか通り過ぎていた。

                ★
 その夜。
 遅く帰ってきた森ユキは、息子がすやすやと古代の膝で寝息を立てているのを見つけた。

「おう、ユキ――お疲れ様。すまんな、こういう状態で動けなくって」
お風呂沸いてるよといい、ありがとうとユキが答え。
「どう? 守の様子は」そう横に膝をついて尋ねると、
「ばっちりさ。任務完了も間近だな」とおどけた調子で答えた。

 「今まで、君が何故、俺のことを“古代くん”って呼ぶか、話していたんだよ」
ユキはぽっと赤くなった。
「ま。……いまさら何を――特に何故とか理由なんかないでしょうに」
「ん?」古代は目を細めて笑った。
「まぁ、そうだな」そう言って守の髪に手を置く。
「だけど、君の“古代くん”は、何よりもの薬だったし――時には俺の命を救った」
そうじゃなかったか? と古代はユキをもう一度じっと見つめた。
「そう? そうかしら、ね……そんなこともあったかもね」
うっとりと、古代にだけ向ける笑顔を向けて。

 守はもう大丈夫だ。
 自分の力で殻を抜けて、外へ出てきた。――優しくて、強い子だよ。
 明日はどうやらクラスのお友だちが、朝、お迎えに来てくれるそうよ。
 そうか。仲間にも恵まれてるんだな。――それとも君の采配か?
 まっ。どうかしら?

 ユキは嫣然と微笑むと、守を抱えてベッドにそっと運んだ古代を促し、二人でベッドサイドに寄り添った。
 「大事な、子よ――私たちの、守」
「そうだな」
今日よりも、明日。明日よりも、未来に――より幸せが待っているように。
あぁ。失った命の分も――この地球(ほし)そのものの恵みも。
そうね――本当ね。

 古代くん……。
 古代、くん!?

 ユキが呼ぶ。
 守も、そのうち、そう呼ばれるようになるのだろうか。
愛しい娘の声で。――そうあればいいと思いながら、それはいつのことだろう、もしかすると、ずっと先なのかもしれない、と思う、古代進だった。

【Fin】
――30 Aug, 2011

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2011_08
31
(Wed)01:54

ky100-36 ・4

古代進&森雪100題, shingetsu版

36.古代くん!・1・2・3/・4/・5
65. 海へ
78. 温泉

☆オリジナル・キャラクターが登場する話です。こういうお話を好まれない方はお読みにならないでください☆
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               ☆

 「それで、向山葵さん、でしたね」
「はい」
葵はスラリとして背が高く、大きな瞳が印象的な少女である。きりっとした口元は賢そうで、だが目元に気の強そうな雰囲気を漂わせている。ポニーテールに結んだ髪のリボンが、女の子の意識が強いように進には思われた。
「あとのお2人もお名前をお聞かせ願えるかな?」
葵が目で促すのにおずおずといった調子。先ほどから2人とも返事以外の口を利いていなかった。
「――佐々木美佐(ささき・みさ)です」
「斉藤美保(さいとう・みほ)。あの……妹が古代君のクラスで…」
ん? と進は思った。あぁ、あの斉藤千穂ちゃんのお姉さんか。年子なんだな、と思い至る。

 カタリと音がして「よくいらっしゃいましたわね」温かいものでもどうぞ、とユキが部屋に入ってきた。
その途端、空気が変わるような気がして、3人は固まったらしい。ユキの美貌は、同性の目から見るとある種の気持ちを起こさせる。特に年若い少女なら尚更だろう。
 キッチンのダイニングテーブルに座っている(ソファだと沈み込みそうだったので)3人はそれぞれの反応を見せ、ユキは微笑むと。
「ごゆっくり……お話は父親がさせていただきますから。わざわざいらしていただいたのにご免なさい」
私はこれから出かけなければなりませんから、と言い、進に目で合図した。進は微かにうなずく。
 そうだな。君(ゆき)の存在は俺より強烈だ――改めてそう思う進である。
 時折こういうこともあった。緊急、というほどではないが夕方から仕事ということもユキの職業上、ないわけではない。守のために極力避けてきたユキだが、古代が帰還している時は出て行くこともある。
――現在、長官秘書室を統べ、広報も統括するユキには、その程度には重要な事柄もあったからだ。

 わざわざ済まないね。
 守は少し具合が悪いみたいでお会いできなくて申し訳ないが――息子の学校での様子などお話してもらえないかな。
ご存知だと思うが、私はずっと宇宙に出ていることが多くてね、なかなか学校へ行ったりもできないから。
君たちは息子とは仲良くしていただいているんだろう? 息子は学校ではどうなんだろうね。
 柔らかな口調で、優しい目をして言う目の前の古代に、少女たちは少しずつ緊張がほぐれていったようだった。

                   ★
 彼女たちが古代家を訪ねてきたのは、やはり葵の発案によるものらしい。
守のクラスの子たちも宿題を知らせてきたり(メールで済むというのに)、休み中のノートを持ってきたり、3日めを過ぎる頃から頻繁だとユキは言った。だが会いたくないと本人が言うため、家にまで上げたのは葵たちが初めてだった。
 古代進が在宅していたから――なのだろう。

 葵たちの目から見た古代守は、利発な少年、というイメージなのだという。
校庭で遊んでいるところを遠めに眺めたり、教室移動を待ち伏せたりしたが、本人に迷惑をかけるようなことはしていない、と言う。
主な情報源は斉藤千穂の姉・美保で、守の“ファン”たちにクラスの状況などを報告していたらしい。
「人気、あるのかな、守は」
はい、それはもうっ。と三人は異口同音に頷いた。
 「でも……でもっ。私たち、追い掛け回したりしていません。本当です」
まるで“追っかけ”のような印象を、このとてつもなく感じの良い父親にもたれては困ると思った葵は、真剣にそう言った。
「声、声かけたのも、この間が初めてで。……それで、ちゃんとお返事して貰えなかったので、それで。呼び止めただけなんです」
そうなのかな? と古代が2人に訊ねると、2人も、はい。そうなんですっ、いじめたりもしていません、と言った。

 ふぅ、と古代は内心、ため息を付く。
 守は生来、人の気配に敏感だ。
大らかで人と交わるのを怖がらないのだから、神経質、というわけではないが、それでも神経質にならざるを得ない環境や事情もあった。
現在も遠巻きに付いているSPは存在し、人の目のない処でもセキュリティに護られている。
それをまったく意識しない暮らしは不可能で、そういった意味では、つらい想いをさせているという思いが進にはあった。
 女の子の一途な好意、というのが。あのくらいの年頃の男の子にとって、どんなものなのか。
進には正直わからないところがある。
(俺は結構、女の子と遊ぶのも好きだったし甘ったれだったからな……)
自分の子どもの頃。年の離れた兄を持つ次男坊と――離れて暮らしているとはいえ弟妹がいて、幼馴染たちの間では、“ヤマト子弟の長男坊”としての意識の強い息子。その違いか、と彼は思った。

続く
2011_08
29
(Mon)00:13

ky100-36 ・3

古代進&森雪100題, shingetsu版

36.古代くん!・1・2/・3/・4/・5
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= 3 =

 「名前が、イヤ?」うん、そうなの。と守は言った。いっそ僕。お母さんの名前にしちゃうか、お婿にいっちゃうっていうの、どうだろう? とごく真面目な顔で言った。
「古代君。って誰も彼もがなんだか……怖い。僕、そう呼ばれると気持ちが悪くなるの」
「――もうじきバレンタインだしな」
うわーん、と守は顔を古代の胸に伏せた。「それ、言わないで。そんな日、無くなっちゃえばいいんだっ!」
 おやおや。
 女の子は、守は嫌いかな?
こくりと頷く感じがした。本当か? 意地悪だったり、困らせたりするのかな?
ううん、と腕の中で彼は少し動いた。――そんなこと、ない。ただみんな。言うんだ。
 ぐずぐずと古代の胸に顔を押し付けて、彼はその柔らかな子どもの感触に、本人にはわからないようにこっそりと微笑んだ。大きな手で髪を撫で、背中をぽんぽん、と叩くと、息子は少し落ち着いたようだ。ぐったり、というように古代に体を預け、ぼそりと言った。
「……なんだか、頭の上にぐるぐるする、かんじなの……」
 圧迫感、を感じているのかな。精神的なものだったら、少しまずいかもしれない。
「耳がうわんうわんしたり、声が聞こえたりするのか?」ううん、と守は首を振る。ただちょっと胸のあたりがギュン、となるんだよ、と。朝、頭が重くて、なんだか外に出たくないの。――あれだけ学校や、お友だちの好きな子なのにな。
 う~ん、と古代は考えた。
 これは、学校の先生に相談するか、医者へ連れていった方が良いのかもしれない。……この(少し大人しいが)利発で明るい子が、1週間も不登校だなんて…。
 もう少し楽観していた古代進は、少しリラックスした顔になって自分の膝で丸くなっている息子を見た。

               ☆
 リンゴーン!
 玄関のベルが鳴った。
「はぁい?」ユキの答える声が聞こえ、セキュリティロックの解除される気配があると、玄関に誰か訪ねてきた様子だった。
 内線のインターホンが鳴り、古代はそれを取り上げた。
 『あなた。学校のお友だちが……』
「ん? ……あぁ、俺が出る」
ありがたい。こちらから訪ねようかと思ったところだった。
 守はまた緊張がよみがえったのか、少し怯えた様子で身体を硬くした。そのままベッドの片隅に貼りつく。
「ちょっと、待っててな、守」
こくりと頷く息子の頭を、古代はもう一度撫でてやった。

 「向山、葵といいます」
ランドセルを背負ったまま、玄関に立っていたのは、3人の少女たちだった。

 古代進が突然現れたので3人ともとても緊張しているのだろう。
先頭にいた美少女といえる葵は、少し紅潮した頬をして、それでも物怖じせずはっきりと古代を見上げた。
「――私たち……わたし。古代守くんが学校に来ないので……それで。あの……」
「心配して来てくれた、というわけかな。ありがとう」
古代進はくつろいだ様子でいたが、人を取り込むような柔らかな笑顔を少女たちに見せて言い、彼女たちはあきらかにホッとした表情になって、だがまだ顔は赤いままでいる。
「そ、それで。古代くん、あの。私たちの所為で来なくなっちゃったんじゃないかって、あの」
「――誰かにそう言われたのかな?」
古代は柔らかく微笑んだまま、少女たちを見返した。
その笑顔にはどぎまぎしたものの、この大人はわかってくれている、という気持ちを起こさせたのだろう。
「私、私の所為じゃないって思いたいんですけど。で、でも、それだけじゃなくって。やっぱり来ないと心配で……クラスも学年も違うんで、図々しいかなとは思ったんですけど。でもやっぱり…」
 いくら気丈でもまだ8歳。理路整然と話したい気持ちと、自分の所為じゃないといいたい気持ちと。真剣に守自身を心配している気持ちもあってまとまらなく、それは古代進という人物と相対していることもあったのかもしれなかった。

 古代は柔らかく微笑むと、
「息子も良い友人を持って幸せです。お嬢さんたち、ともかく玄関先ではなんだから。おあがりください。……守は少し気分が悪くてお会いできるかどうかわからないが。それでもよろしければ」
大人――しかもすこぶるつきの有名人――に、まるで大人に言われるように丁寧に対されて
「えっ」「は、はい」「で、でも…」
3人3様の反応をしたが、一瞬顔を見合わせて、葵がきっと目を上げると。
「はい、お邪魔します。ごめんなさい」と言った。

続く
2011_08
28
(Sun)00:15

ky100-36・2

古代進&森雪100題, shingetsu版

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78. 温泉

☆オリジナル・キャラクターが登場する話です。こういうお話を好まれない方はお読みにならないでください☆
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                ★
 「守がそんなことを?」

 部屋着に着替え、くつろいでソファに体を投げ出しながら帰宅した古代進は言った。
しばらく訓練学校の冬期講習・臨時教官を引き受けて地上勤務である。
毎日、早くはないが遅くもない時間に自宅へ戻り、遅い夕食を摂っている。
平和な時期で、古代は毎日、息子の顔を見て学校の報告を聞くのをとても楽しみにしている――いま、手許に置くことのできない2人の子どもたちの分も。
 「えぇ」
 はい、アイスティ。と渡してくれたグラスから一気にそれを飲み干した夫にユキは答えて言った。
「――珍しい苗字で皆が知ってて窮屈、なんですってよ?」
くすりと笑う様子は、深刻な悩みというわけではないらしいと古代は思う。
「まぁなぁ……確かに俺たちの所為で多少、窮屈な思いはさせることになるよなぁ」
それも一生、と、ちょっとかげりのある表情を見せて、それからふい、と腕を伸ばすとソファの横に立っていたユキの首を抱え込んで、ちゅ、とキスした。
んっ。――まぁ。進さんたら。
 えてして子どもの悩みの深刻さと大人の価値基準というものは食い違うものらしい。

 そうして、古代進はまた、艦上の者(ひと)となった。


= 2 =

 日々は平和に続いていくはず、だった。

「え? 守が?」
帰還した途端、ユキの困った表情に迎えられて、古代進はお茶、と差し出しかけた手を止めた。
「えぇ……学校に行きたくないって。――ごめんなさい。今回は短いのだから、あまり心配かけたくなかったんだけど…」
 年が明けてそろそろ節目にかかろうという時期になっていた。
新年度は何故か(この23世紀でも)4月からだったりしたので、古代の艦隊にも若干の人員入れ替えがあり、そのための一時帰還であった。現在、古代の艦隊はガニメデ就航へ戻り、自宅へ戻れる時期は短い。

 「もう、長く行ってないのか?」
ううん、とユキは首を振った。
「ここのところ……1週間になるか、というところ」
「――何故、知らせないんだ? 星間通信でも、基地への伝言でもできるだろ?」
古代は一瞬、感情的になって“らしくない”癇癪を起こしてみせたが、次の瞬間、は、と気づいて眉間の皺を解いた。
「――ごめん。ユキだって忙しいのにな」
ううん、と妻はまた首を振った。
「そういうこと、じゃなくて…」
 微妙なことを通信でいちいち報告するのは気が引ける。
子育て期間中であり、古代が守をこよなく愛している――思った以上に子煩悩でユキの方がびっくりしたほどだ――とはいえ、“宇宙の男”である古代は、星の海へ出てしまえば“便りのないのが良い便り”と思うことにしている……というのが、戦艦勤務の士官を連れ合いに持った者たちの処世術である。
 たまたまユキは防衛軍秘書室、などというところにあり、航路管理も業務の一環で、そのデータも扱う。
だから夫の航行する旅の行く先や、その任務のおおよそまで見当が付く。
本来なら、どこで何をしているかすら、機密の対象となるため、「これから帰る」という連絡を自宅へ入れることもタブーな場合が多いのである。
 そんな“宇宙の出先”へ、家庭のこまごましたことなど通信できるはずもない。
ましてや戦艦乗り。拠点をかすめるタイミングを見計らうのも、ほとんどユキの場合は“職業特権”なのだ。
多くの者たちがそれ無しになんとかしている宇宙時代なのである。

 夕食にも降りてこようとしない息子に、古代は眉間の皺を深くした。
家に戻り、妻と子の顔を見るのを何よりもの喜びとしている古代でもある。
だから、違和感――これであった。
 「原因は?」
ううん、とまたユキは首を振る。
「わかった……俺が話してみよう」
古代は立ち上がり、2階への階段を上っていった。

             ☆
 「守――守。父さんが帰ったぞ。どうした、『おかえりなさい』は言ってくれないのか」
なるべく普段どおりに声をかけ、部屋の中でごそごそと動く気配があった。
 教育方針もあって完全な個室ではない。その気になれば半分だけのパテーションを超えて中に入ることもできたが、そこは古代である。
「守――父さん、寂しいな。出てこないか」
少し柔らかく声をかけると、かすかに小さな声がした。
 「……お帰りなさい。お迎えに、行きたいけど。だめなの。……なんだか、だめなの」
耳をつけてみると、様子が妙だった。
「守! 入るぞ」
緊急対応(エマージェンシー)であると、古代は判断した。

 わしわしと境目を踏み越えると、守のプライヴァシー・エリアを見……そこに、ベッドの上に膝を抱え、壁に背をつけて蒼い顔をした自分の息子を見つけた。
「父さんっ!」
わし、っとしがみつくように飛び掛られて、それを抱きかかえる古代である。
 どうした? お母さんには言えないことか?
ぱふぱふと背中を大きな手でさすり、撫でてやると少し落ち着いて、古代の膝の間で丸くなった。
――幼い頃はよくこうして古代の膝で遊ぶのが好きだったが、大きくなってからはもうしなくなったと思っていたのに。……何か、不安定になっているのだと古代は思う。
なんとなく、わかるのだった。

(続く)
2011_08
27
(Sat)14:49

訓練学校時代への想像

 ご興味のない方はスルーしてください。

 新月で書いた、「訓練学校時代の話」について話すには、ヤマト本編について思ったことを書かなければなりません。どうしてそれが“大変” なのか。彼らの若い頃の話、だけではすまないこと。

                  ・・・

 まずは、コメントいただいた某さま。ありがとうございました。

 「夜明け前」は、お好きな方はお好きな話みたいですね。ありがたいことですが、実は、読みたいという声をけっこういただいていたにも関わらず、手をつけたのは一番、最後の最後。かなり躊躇したのちのことでした。しかも「実験的に」と書いて、サイトの隅っこに、、、つまり相当、ご興味の強い方でないとたどり着けないように、(わざと)してあったんです。

 理由は。
 訓練学校時代のことを書くのは大変なのです。
 前のアーティクルに「書かれたサイトの物語はどれも力がこもった力作だった」と申し上げましたが、それぞれ皆さん、想像を駆使して設定を考えておられたわけです。

 
 何故、「たいへん」か。
 おわかりでしょうか?

 ヤマト世界そのものの構築を読み取って、その隙間を書かなければならないからでしょう。
 「どんな世界だったか」
 「どんな風に地球は滅亡していこうとしていたのか」
 「どんな風に、少年宇宙戦士訓練学校は作られ、古代や島はどう育てられようとしていたのか」
 
 つまり、当時の政府機構や、地球のシステム、宇宙軍の位置づけ、それすべてを“ヤマトの位置づけ”から想像していかなければならない。→→→まるきり1本SF書くのとおんなじ

 なのです。

 「Space Battleship ヤマト」は、そこらへんをとても丁寧に描いていた。それは、監督も脚本家も、もともとがSF畑の方だったこともあるでしょうし。「どんな地球だったか」という物語は、暗く、辛く、だからこそのヤマト、ということを根本的に突きつけられる話だと、ワタシは解釈している。

 少年の頃の古代くんや島くん。

 そんな簡単な話ではない。
 あどけなさを残したまま、だけど復讐と再生の意図を持って。ヤマトに乗るまでの彼らを描く。
 それは魅力のあることではあるけれども、たいへんに苦しくて難しい。

 また、個人的に実験もしてみました。
 最近はそうでもないのですが、当時、サイトで書いていたころ、短い文章が苦手でしたね。長い方が楽なんです。あっという間に、10ページくらいになってしまう。
 そうでない書き方をしてみようか。
 となると、文の1文1文を検証し、工夫し、練っていかなければならない。

 ですから、「夜明け前」に上がっているいくつかの話は、ほかのどれよりも時間がかかっています。

                   ・・・
 リンクがしていないものは、未作成の物語です。
 この話は、ともかく作るのがしんどいので、実験的に書きながら、ポツリポツリとできるところから埋めていこうと思い、ざっとした全体構成を作ったものです。

 書きたいエピソードはいくつかあって、そこから書きました。

 生まれてきたものもあれば、頑張って作ったものもあります。

 リンクされているけれどつながっていないものは、「お見せできないもの」です。いろいろな理由です。残虐だったり公序良俗としてどうよ、だったり、現在、お読みいただいている方々にはキツいだろうと思われるものまで。……ワタシは、主人公だろうが、ファンの多いキャラだろうが、手加減はしません。こういうこともあっただろうな、と思えば書いてしまうし、またそれをどう乗り越えるか、という方に魅力を感じます。
 ただ、これすべて、書き手の想像でしかありませんから。
 本編でそんなこと書かれていませんしね。

 だから、「出していません」し、これからblog連載にしていっても、読みたいと仰る方にしか紹介しないと思います。(公開はしないという意味)
 なので、現在、目次に置かれているものが全部埋まることはないでしょうきっと。

 ただ、しんどいしんどいといっていても進まないし、私も少年時代の彼らをとても好きだし、そこにだけ出てくるキャラクターで、のちの話に登場したりした人々もすでに沢山いるわけですから、(新月読本にも何人も出ています。同期ですから当たり前ですね)、何かの機会に、進めたいなとも思っていました。

 だから、まぁ。来月くらいからスタートできますかねぇ。
 という感じです。

 秋には【宇宙図書館】の久々のブックフェアも控えていることだし。新月読本06もまだまだ残っているし。
 そんな感じでぼちぼち行きたいですね~。

 改めて読み直してみたのですが、私にとって、古代と島を考える上で、とても大切な物語であることは確かです。

2011_08
23
(Tue)12:27

拍手コメント&メール御礼・2

さて、新月作品方面へのお返事と説明とお答え(?)(のつもり)です。

個別にメールでお返事申し上げた方もいらっしゃいますが、当面、先般簡単にご説明した「新月ワールドの、この時代」。ご好評いただいて嬉しいです。
そのうち、リンクに「全体の流れ」くらいは置いておくつもりです。昔は作ったのですが、どっかやっちゃったんだなか、これが(笑)。

                      ・・・
まずは【blog連載:昔と変わらずお莫迦な古代進】(<テーマは違うはずだぁ)へのご感想もありがとうございました。

包帯大王にならなくて心残り? でも活躍すればいいという方も、「おばかな古代くんが好き」という方も。
でも、某××シーンにはどきどきされた方も多かったご様子です。もっとやれ? あら、同志ね(^_^)。
あと、「息子に怒られるシーン」を期待してくださった方もいらっしゃいましたが、ご期待通りでございました。う~ん、、、読みやすい親子だ。

>エピローグのデスラーとの会話の中でいろんなお話が一気につながりました
>
こう言っていただいた方は複数いらっしゃって、ありがとうございます。
いや、自分の中では自明の理、またはリアルタイムでアップされたと同時に読んできていただいた方には、見えていたことなんです。なるほど、そういう観点もありなのね、と気づかせていただきました。

>留学生のことや、次世代の子達を銀河中央域に派遣するようになった経緯

そうなんですよ。古代くんは、地位はたいしたことないけど、防衛線の盟約の要でして。日本が安保を結ぼうとした時に、暗殺や未遂が跋扈したのと似てる、、、という風に考えていただければ(わかんない人は近代史おべんきょしてください)。ですから、「地球にいるときは(の方が)拉致や命の危険が一杯だった」わけです。
これは、子弟たちも同じです。
そのあたりの詳細は、相原祐子の話で間接的に出てきますが、彼女は私のキャラの中では比較的地味だということと、大輔との関係の所為かあまり人気がなく、、、シリーズは完結していません。書くのは大変なんで。

【副長の眞南さん】について。
ご興味持っていただいた方、ありがとうございます。
この方、穏やかな官僚風の部下さん(古代くんより年上)で、わりと長い付き合いのようですが、私にも詳細はわかりません。ただ、古代くんを見守ってる系の部下さんですねぇ。
加藤四郎にも四之宮という部下がいまして、こちらはきっぱり物語がありますが、眞南さんは私もよくわかりませんです。でも、作者も好きなキャラなので、ご興味持っていただいてありがとうございます。

【ガルマン=ガミラスに同盟に行く話】
これは、直接には書いていません。ただ、「往き:準備」と「帰り:地球帰還」の話はあります。
この話は、佐々葉子と加藤四郎・・・息子・大輔が生まれるエピソードとして書きました。「佐々葉子index」からお読みになれます。直接「同盟の話」じゃなくて、どちらかというと「ご家庭の」「Love話」ですね(^_^)(<どんなんや)★
 「陽だまり」→「有明の月」:出発前/「放課後」:留守中の地球/「Спасибо(ありがとう)」:地球への帰還&大輔誕生

です。佐々葉子(戦闘機隊員)にご興味のない方は、読んでも面白くないと思いますが、彼女について知りたい方は、NOVELの「宙駆ける魚」シリーズをお読みください。…このハナシが、もともとの[新月の館]の発祥です。
少し長い(&ヘビー)ですが。。。ヤマトの完全なサイドストーリーですが、古代進は主人公じゃありません。あとは、「虎たちの前夜」(<ヤマト以前・直前の話=2198年ごろ)でしょうか。

う~んでも。
この「真田長官を総代に、古代進が護衛艦長・加藤四郎が副長としてガルマン=ガミラスまで遠征する話」は、書いてもいいなぁと思っていました。たいへんなので、そのうちね。半年かかってますし。まるきりイスカンダル往復みたいな話になっちゃいそうなので。

                 ・・・
【blog連載について】
リクエストもいただきました(^_^)★

 とりあえずは「古代進&森雪100題」の残り、ということで行きます。でも、これは“つなぎ”です。
 その次の“つなぎ”として(<をい)、「甘い二十之御題」を1本、blogに置きます。御題18、です。理由は、お読みいただけばわかります(爆)。

さて、本格的に連載はどうしよっかなと思っていましたら、「訓練学校時代=“夜明け前”を完結してください」、というリクエストをいただきました。なぁるほど。
この話、こっそり置いておいたんですが、けっこうリクエストいただきます。甘い二十とか、いろんなところに、彼らの訓練学校時代のエピソードはちょこちょこ出していくようにしたんですが、この「夜明け前」は、少々特殊な文体と決まりのもとに書いていますので、表に出すのに躊躇する部分があります。

 とても「完結」は無理ですが、少しずつ、落ちていた部分を書いていってもいいなとも思います。
 ただし、かなり、“怖い”です。当然、ただ、絶望へ向かい放射能に侵されていく地下での生活、しかも生き残る可能性の低い戦闘へ向かう若者たちを育てている時期。甘い感傷などあるわけがなく、、、この時期、いろいろな方が書き起こしておられるのを、ひところむさぼるように読みましたが、どのお話も胸に痛い、しかし力のあるものでした。現在はほとんどが読めなくなってしまっていますが…。
 表に出せないエピソードも多く、地下に潜ったままです。
 それ「以外」で書けるものがあるかどうか、考えてみます。連載というよりも、短編をぽそぽそと上げていく感じになるのでしょうね。

 あとは、久々に、佐々&加藤四郎コンビで。ヤマト水没後の数年のエピソードが、未完のものがいくつかありますので、それを。

 コダイススムもの? なんかありましたっけ。あるにはありますが、むっちゃ怪しい話になり、読者の方々にはお気に染まないのではないかと思われます(笑)。いぢめまくりだしなー、私。

 ではとりあえず、このあたりで、お礼まで(_ _)。
2011_08
23
(Tue)03:37

拍手コメント&メール御礼・1

 いろいろ御礼を申し上げます。
 仕事の「山」はとりあえず抜けまして、、、今回の山は、高かったなぁ。バッハなんぞに挑むからいかんのですなぁ。いや、挑み甲斐のある山ですから、いいんですけどね。至高の音楽。一生、演奏し続けるんだろうなぁ、一級のプロも。私のような末端のアマチュアも。

 さて、それはそれとして。

 『新月本06』お買い上げいただいた方、ありがとうございました。
 新しい方が多かったためか、『01』『05』もご好評いただきまして、とても嬉しいです。
 おかげさまで、『01』は増刷分も完売いたしました。またリクエストが多ければ、『02』を作るときに、刷り増しするかもしれませんが、当面は、流通在庫ゼロ(<あたりまえぢゃ、同人誌だもん)ということで、ご勘案くださいませ。
 本当に、本当にありがとうございました。

 ちなみに、『06』はまだ60部くらい、あります(とほほ)。
 これから、お配りしてく感じなんですよね~~。2年くらいで在庫がなくなればいいな♪ ヤマパがあれば、もっといいな。

                   ・・・

まずは、ご機嫌伺い&エールを送っていただきました皆々さま。

>>倒れるまでがんばっちゃいそう と仰っていただきました某さま(_ _)。
「そういうところ古代くんと一緒」と言っていただけて、ちょー嬉しいです♪

が。いやいや、そんなこたありません。一応、これでも一隊率いてる身分ですので、しかも、限りなくフリーに近い状況。会社員なら、交代に休めばいいんでしょうけどね、代理やれる人がいないので(仕事は分散しているつもりですが)、身体壊さないようにするのも務めでございまして。
無理にならないように、それなりにコントロールしておりますですよ。はい、それは若い頃よりは。
だから飲みに行く回数が激減するんだな~~~。遊んでくれる人も少ないし(;_;)
(ってこの歳になれば当然か、と思いますが、若い人と飲めばいんだよ、そうだよ、うん<自己肯定)

>>二十数年ぶりにヤマトに目覚めて… と最近、メールやコメントをくださる、某さま。

そうですね。
私としても、自分が読みに行くようになって夢中になった先輩サイト様が更新されなくなったり閉鎖になったのはとてもさびしいです。それでも、開いている間は読みに通い、初心(なんのや?)を忘れずにいたいなと思うんですよぅ。…でも新しい方々もいらっしゃいますからね。そういう意味では、「復活篇」「SBヤマト」も良かったですよね。

>>「ベッドは眠るためにあったんだなぁ」--はい、そうですね、ヤン提督の科白ではなかったかと。あれ聞いたときに、「どんな商売でもおんなしだよなぁ」と思いましたが、お仕事柄、某さまも忙しい時は、そうなのでは?

今の仕事よりもIT系に居たときの方が私はひどかったですねぇ。今はまだ自分のベッドで寝られますからね。
…当時? 若かったこともありますが(といっても30代すよ)、寝袋か机の下に敷いたダンボールの上。または会議室の椅子を並べてってとこでしたでしょうかねぇ。。。あんなことするから体壊すんだよね。(仕方ねーけど)

>>あと。shingetsu本の発行やblog連載を機に、これまで黙ってお読みいただいていた方にお声をかけていただけるようになってとても嬉しかったです。少しは続けていても意味があるんだなぁ、と思いまして。
いやまぁ、自分の話を読むのは好きですからそれはそれなりに上げておきますけれども、思わぬ作品を評価いただいていて、それはとっても嬉しかったり、反応がなかったから下げてしまったものに興味を持っていただいたり。あとは意外な視点のご感想とかいただくとね。さすがにネットの海は広いなぁと思います。嬉しいです♪

                     ・・・
作品関係のお問い合わせについて。
これ、しゃべらせとくと一晩でも書いてますから(笑)、別のアーティクルにしますね★
2011_08
22
(Mon)20:10

ky100-36・1

【古代進と森雪100題-shingetsu版-】 御題 by 古代君と雪のページ

36. 古代君!
58. さよなら
65. 海へ
75. 旅行
78. 温泉

目次です。実は残りはこれだけなのですが、このうち「さよなら」「旅行」は、パラレルAなので(しかも少々問題ありあり)此処には掲載いたしません。

まずは、「古代君!」からスタートです(あとらんだむです)。
短いですが連載になる予定です。

★オリジナル・キャラクターが登場します。お厭な方はお読みにならないで飛ばしてください★
              ・・・
【36. 古代君!】

= 1 =

 「こだいくんっ!」
大きな声で道の向こうから呼ぶ声がして、わりあい急いで前を向き、歩いていた彼は立ち止まった。
ちょっと、いやだなぁ。いつも思うこと。
「……古代くんってば」
たった、と駆けてきて、横断歩道を渡って近寄ってきた少女は、そう呼ばれた少年より少し背が大きい、いわゆるちょっと早熟な美少女だといえるだろう。
 くるり、と呼ばれた彼――古代守、は向き直って相対した。
「なに。向山(むこうやま)さん――僕、急ぐんですけど」
その物言いは生意気といえないわけではないが、だいたい、塾に行くため急いでいるのを呼び止める方がいけないんだ、と彼は口をへの字に結んで見返した。

 少女の方――向山葵は、古代守より1級上の小学校4年生。
目立つグループの1人で、この向山含めた3人組は、上級生からも人気がある。
だが彼女は廊下を挟んで隣の教室に当たる3年F組の古代守が気に入っている――興味をもっている。
端的に言えば、小学生なりの感覚だが、“好き”なのである。8歳――守はまだ7歳になったばかり。
育った環境から年齢よりは少し大人びた子どもだったが、それでもまだ女の子に興味などない。
 だが――それはこの葵だけではなく、上級生同級生を問わず、注目を集めてしまうのが仕方なかったといえる。
地球の大きな危機が去り、地軸のゆがみも矯正されつつある現在だ。
もともと愛くるしい子ではあったが、今年になって急激に目鼻立ちが整ってきた。
両親の美質を受け継ぎ、特に“ヤマトの女神”と呼ばれ、地球を植民地化しようとした敵将校まで虜にしたといわれる母親に似た容姿は、十分に美少年で通る。
ただ、やんちゃ好きで元気――そして優等生の彼は。
そういう呼称を許さなかった。
――男らしくありたい。
それが、ヤマトの英雄・古代進の長男として生まれてしまった彼が自覚的に持っているすべての基準でもある。

 それに彼は。

 「古代くんって呼ばれない方法は、ないの?」
 ある日、リビングでおやつをいただきながら、一緒に紅茶を飲んでいた母親に、伸び上がって守はそう聞いた。
母は楽しそうに首を傾げながら、
「あら。どうしてそう思うの?」
 母親――便宜上仕事では森ユキを通している彼女は、自分が長らく結婚しても夫のことを“古代くん”と呼んでいた。
稀に現在でも、何かの時は“古代くん”と言うことがあり、そんな時は夫は目を細めるようにして、懐かしげに微笑むのが常だ。
――そんな様子でも聞いてたかしら? ユキは息子の深刻な悩みに気づいていない。

 「古代――って苗字、珍しいでしょう?」
守がそう言って、やっとユキは、ははぁ、と頷いた。
「誰でも知ってるみたいで――なんだか。あの、きゅう? くつなの…」
そうか……そうよね。
ユキは少し困った顔をして、息子をみやった。
テーブルの上のクッキーをつまみ、口に放り込むと彼は、一人前の動作をして。
「まぁ、気にしないって思ってるの。でもね――やっぱり」
 古代守です、って言うと。皆が、いろんな顔をする。
「あぁ、あの…」
って言う人もいる。
父さんがその辺の芸能人なんてメじゃないくらい、地球的に有名な人なのは知ってるし。
僕だって宇宙戦艦ヤマトのことも知ってる。
僕はその子どもなんだから仕方ないって思う――父さんは大好きだし。でもね…。
やっぱり、イヤだなぁって思うの。
「知らない人から、知ってるみたいに思われるの? なんか気持ち悪くない?」
 上級生の女の子とかから声をかけられたり、今日みたいに待ち伏せされたりするのは、自分自身の人気もある、なんていうことに気づいてはいなかった。
ユキはそう思い至ると微笑ましくなって、
「私は、好きよ?」と息子に言った。
「好きって?」
「“古代”、って苗字のこと」
うふふ、と少女のように笑う母である。
――それにどんな意味が含まれているのか。幼い息子にはまだ理解できていない。

(続く)
2011_08
19
(Fri)21:13

とりあえずの乱丁

 『新月読本06』。

 お騒がせしておりますが、とりあえずの乱丁は、いまのところほかにお申し出がありません。
 少しホッとしております。
 その本を拝見しますと、24ページから42ページが面付けが逆になっている。
 印刷所は慌てて調べたらしいのですが、原因は複雑なレイアウトにしたためのようです。
ここんちは仕事が丁寧で、1ページ1ページ、製本やらなんやら半分手作業なんだそうな。もちろん機械は使っていますが、「第18話特集」を、私がケイ囲みのレイアウトにしてしまったがために、版面から文字部分がギリギリになってしまったり、あとは画像がきちきちに入ってしまったり…と、印刷やさんにとっては、けっこうキツいことになったそうな。
 それで、そこらへん、なんと「手作業で貼り込んだ」そうです。
 うう申し訳ない。

 なので、ロット単位で発生するはずの乱丁は、数冊あるかないか、というところになりました。まだ残りの検品ができるような状況ではないのですが、60冊近く出ていった本については、いまのところほかにご申告は無い模様ですので、少し安心しています。

 もし、そういう方がいらっしゃいましたら、即効でご連絡くださいね。
 すぐに、お持ちのものと引き換えに代替商品をお送りいたしますので、よろしくお願いします。

                   ・・・
 ところで、ワタクシ。現在、なぁんとなく朦朧としております。
 こんな早い時間だというのに、何故そうかといいますと、ここんとこ、仕事の山場で。

 連日、毎朝10時半には仕事場に行き、帰宅が26時、27時、28時なのでございます。
 昨夜(?)なんぞは、鳥が鳴いておったわ(要するに夜明けですな)。いやいまは夜なんて5時ごろには明けますからねぇ。それよりもっと遅かったような。。。もう覚えていません。

 本当なら、昨日終わって、今日は少し残務整理をし、明日から気持ちよく「関西で夏休み!」のはずだったんですけどねぇ。宿を取るのも時間がなくて、だし、新幹線のチケットも取れていない。まだ会社を離れられないので、駅へ行く時間が無い(この会社の周りは、なんと、「JRの駅」というものが存在しない。地下鉄はいっぱいあるのに(>_<))。

 あぁぁ。
 ゆっくり休んで、森林浴か、温泉に行きたいなぁ。
2011_08
16
(Tue)04:32

都内のガランとした夜。

 実は、さきほど家に帰ってきたばかりです。
 …というようなことが連日で、最近は25時か26時より前に家に帰り着いたことがありません。土日も、です。お盆とか、って。どこ行ったのか? という感じです。20日から休みを取ることにしているのですが、果たして本当に終わるのかどうかも不明。

 ひとつには、客先が交代に休んでくれるので、いろいろなもののチェックとアポイントが「パズル状態」。すべてそれに合わせて対応しなければならないので、神経が疲れる上に三倍しんどい。
 それでも「連絡取れませんからだめです」なんて方々は昨今いらっしゃらなくて、海外にいようが、バカンス中だろうが、電話来たりメール送ってくるので、こちらも恐縮しちゃいます。今日なんか「××さんという方から電話です」「ん??? ××さんて…」誰だ? いっぱいいる苗字の人です。「もしもし、、、あら」ドイツからでした(笑)。いいのか!? 国際電話。…最近、みんな、すかいぷなんだけどなぁ。

 日曜日、ようやく半日休みました。ちょっと(頭の)疲れが取れたかなと思ったけど、結局また深夜まで作業をしたので一日でバッファは使い果たした感じだなぁ(笑)。
 体はとってもとっても元気なのですが、頭と脳みそが疲れて、かなりヤバいかと思っています。わかるかしらん、ヤバい感じ。。。救急車で済まないぞ?

                       ・・・
 忙しい、という単語の嫌いなワタクシですが、さすがにこう続くと参りますねぇ。
 交代できない、というのも困りますねぇ。
 私がやる程度の仕事、誰でもできると思うんですが。やる気がないだけだろう、、、あと、注意力とか(笑)。ミスが多いと手間は三倍。人間関係にも支障。私もたいがいどぢだと思ったけど、、、違ったのね(^_^;)。外注さんから文句言われてまつ。言っていただけるうちに何とかしなけりゃ。

                      ・・・

 blog連載が終わっちまってツマラナイですねぇ。
 で、本当はやりたいネタはたんまりあるし、blogという形式にはとっても合ってる話たちなんですが、、、よく考えてみました。

 古代進の××シーンですら、あんなに気を使ったんだぞ。
 ましてや、エロ・グロ・殺伐とした戦闘シーンやら、裏駆け引きやら、夜の××やら、表に出せるかいっ!! ということに気づきまして。。。あらあら。そうしたら艦載機隊組、皆さん、失格ぅ~~★ 宮本くんも古河くんも、吉岡くんも、だめじゃん。加藤四郎&佐々葉子もダメだし。。。

 そうか。それでみな、古代くんばっかになるんだ。
 某サイト様のように、素直に書いても絶対に「そっち」へ行かない物語群なら、え~ですけど。私は放っておくとすぐ“境界領域”まで行っちゃう。何故なら、そのへんでうろついてる精神状態がすきなんだよぅ。だからいろんな事件やら人間関係が起こるのね。。。
 あぁ純粋な頃に還りたい(<わけねーだろ・笑)。。。なんてって、困りました。まじです。

 艦載機隊下っ端物語、でも書こうかしら。でも半分はアブナイ人たちだし(笑)。う~む。。。



 ▼
 ▼
 ▼

ということで、しばらくは、「古代進と森雪100題」の、残りコンプリートを上げてみようと思います。全部途中まで書きかけなので、此処に書けば仕上がるでしょう。秋くらいまでには百、行くかなぁ(爆)。
 たださ。
 いま書きかけので、「パラレルA」は、此処に出していいのか? う~む。。。外へ逃げるかなぁ。

 とりあえず、最初は「古代君!」からの予定です。3回連載とか、そんな感じ。次の「海へ…」は少し連載らしい連載の予定。だってまだ3分の1くらいしか書いてないんだもん♪

 その前に、「二十の御題」をこっちでやっちゃう、という手もありますね。此処で書いてからwebへ飛ばす。なにせ、「背景を選んでページを作る」のがとても大変で。。。とりあえずはblogなら楽ですから~。
 と、いろいろ考えているうちに、ようやく汗も引いてきたので、寝ます。。。いったい何時間睡眠だ(>_<)。
2011_08
15
(Mon)10:31

【新月本ご購入の方へ】

 お騒がせいたします。

 本来ならメールでお送りすべきところ、この場を借りて申し上げますことお許しください。

 新月読本06をご購入いただいた方にお知らせです。
 すでに「全部読んじゃったよ~」という方は問題ないのですが、ご多忙中の皆さまのこと、楽しみに取っておこうとか、余分にお買い上げいただいた、とかいう方は特にご確認いただきたいのですが。

 一部の本に、乱丁が発見されました。

 まだ手元にないのでどういう状況かは未確認ですが、1冊だけということは考えづらいので、お手元の本を調べていただけないでしょうか。もし、24ページあたりから面付けがおかしい(綴じが逆になっているようで、そのためページがおかしなことになっている)ということでした。

 もし、お手元の本が乱丁でしたら至急、メールでご連絡いただけますか?
 お手数&ご迷惑をおかけいたしますが、よろしくお願いいたします。

2011_08
14
(Sun)18:09

tit:龍の棲む30 [あとがき:新月の時系列]

 龍の棲む 【回天-開戦前夜】
= 0 = 序章
= 1 = 戦闘空域へ
= 2 = ワープアウト
= 3 = 初陣
= 4 = 邂逅
= 5 = 救出・1
= 6 = 拉致
= 7 = 救出・2
= 8 = 救出・3
= 9 = 再び
= 10 = 作戦始動
= 11 = 合流
= 12 = 怪我
= 13 = 隠された宙港
= 14 = 潜行
= 15 = 突入

= 16 = 占拠
= 17 = 過去
= 18 = 戦闘開始!
= 19 = 入電
= 20 = 回天
= Epilogue =
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

[あとがき]です。

長い間お読みいただき、ありがとございました。
最初のアーティクルを見てみると、4月にスタートしていますから、私にしてもとても長い連載になったと思います(もっと長いのはあるのですが、これは紙ベースでした)。

 blog連載というのは面白い手法で、これはインタラクティヴなんだなぁと思います。
 読者の皆さまと、やり取りしながら進めていくのが楽しい。もちろん、それゆえの不備もあり、あとから直したり(こっそり)もしていますし、こっそり「××は…」とお知らせしてくださる方もいらっしゃる。感謝感謝です。

 アップするたびに数人の方々から拍手コメントをいただくのも楽しかったし。
 実は、まぁそのおかげで完成したようなものですな。細かいエピソードなどは、少しすっ飛ばしたものもあります(臨場感を出すためと、「説明」しても仕方ないでしょ。<これは私の物語作りの基本方針)。「全編版」を出すのはまた紙かなんかに落とす時にして、これはこのまま完結としたいと思います。

                    ・・・
 さて、いただいたコメントにもありましたが、最近、お読みになるようになった方たち(ここ1年ほど)には、新月の、複雑に絡まった物語群はわかりにくいのかもしれません。
 たいていの人には興味がないだろうと、ワタクシ、勝手に思っていたのですが、案外に好評だったり、尋ねられたり怒られることも多くて(^_^;)(<これは実際にお逢いする人ね)、ここで少し簡単にご説明しておこうと思います。
 前の「続きを読む」では、【この物語時点での現状】をお知らせしましたが。
 コメントいただいた某さまも仰っていたように、この「エピローグ」との古代とデスラーの会話は、今後の銀河を占う試金石なんですよ。

 コダイススムは盟約の要にいる

 これは、『ヤマト3』において、古代とデスラーの、ある種の友情というものが決定的になった。それを示唆したのは、『完結編』で、重水を積んでふらふらになったヤマトの前に、「戦闘は引き受けた、ヤマトはヤマトの仕事をしろ」(そう言ったわけではありませんが)とデスラーが立ちふさがる…この時点で、彼は地球を二度、(実際は三度なのですが)救っている。
 かつて自分がツブそうとした相手を、です。
 それは、古代進と、亡き沖田や自分の懐にいたドメル、そうしてヤマトの面々やスターシャ故なんでしょうね。

 それがヒントでした。
 それ「だけ」が、といってもいいかもしれませんが。

 さて、生き残って『艦載機隊の長』となり、月基地=地球の最終防衛線を統括している加藤四郎と、うちのキャラクターでヒロインである佐々葉子は、2208年、本当に本当の意味で結ばれます。つまり、葉子が「四郎の子ども生んじゃおっかな~♪」という決心をし、勝手に手配して(だまくらかすともいう)妊娠しちゃうわけですね。これが、加藤大輔という長男坊。
 新月worldでは、次世代の主役の1人で、もう1人の主役は、長男・古代守ではなく、次男坊・古代聖樹(こだい・せいじゅ)です。よりオリジナル度の強い話で、次世代以降はもはや、「ヤマトをベースにした世界の中にあるオリジナルの物語」ともいえるんですが、ただし、実際、この世界からヤマトを取ったら何も成立しない、という矛盾を抱えています。

 この戦後の世界、「島大介を失った古代進」の物語であり、
 「加藤三郎を失った佐々葉子」の物語
 だからです。

 思えば、暗い(^_^;)。

 加藤大輔の名前は、もちろん、佐々の親友であり大切な男だった「島大介」から貰っています。どう“大切”だったかは、本編読んでください。わかりにくいです。でも、男女の恋愛じゃありません。しかも、その「名前をくれないか」と言った相手は古代進です。守はすでに生まれていましたから、もしかしたら次男坊の名前は本当は「大介」にしようと思っていたのか、、、それとも。いや私は古代は自分の息子にはその名は付けなかったと思っているんですよ。男の子三人居たら、三人目は「三郎」だったかもしれませんけどね(笑)。

 2208年に加藤大輔が生まれ、この頃、加藤四郎は月基地の若い総司令を任命されます。この年は出産ラッシュで、南部家に南部勇人が、相原家に相原祐子が生まれて、三人は同級生として育つ設定です。
 同じ年、2208年から2209年にかけて、本文中で出てくる『新・ガルマン=ガミラスへの大遠征』が行われます。これは、真田志郎を遠征隊長に、古代進が護衛隊長に、地球連邦政府から正式の通商条約開通への使者で、ここで“対等条約”を結んで古代らは帰還する。
 このときの条約が、「日米安保条約」と貿易条約を足したみたいな条約なんですな。

 銀河系中央域での星間帝国間の争いは、地球-テラ系を含む“オリオン腕”には手を出さない。その場合はガルマン=ガミラス帝国の艦隊をもって阻止する。
 その代わり、一定の自由貿易を許可する。

 ・・・果たしてこれが対等条約なのかどうかは、距離があまりに遠いので現場判断に任せるしかないのですが、これにまつわるいろいろな話も、作ろうと思えばできますって、はい。現に古河くんとかが…(むにゃむにゃ)
 
 2209年、古代聖樹誕生。
 2210年-2211年は、古代・相原・真田・島次郎その他何人かの元ヤマト隊員とその弟妹たちがアンドロメダへ長征を行う、、、というプチ長編が挿入されます。新月worldの最も古い物語、ベースになった1979年ごろ書いたもので、「完結編」以前ですから島大介が生きていまして。外には出せませんでした。リライトして連載にする手もあるのですが、、、ちょっとまぁ考えさせてください。完璧に「70年代SF」してます(<あうあう)。土門竜介みたいなヤツが出てくるし、徳川愛子ちゃんも大活躍する(16歳設定)。時々、わがwoldに名前の出てくる聖樹の艦隊の長・東克彦は、この時の主人公で、島次郎の親友です。
 
 そうして、古代守・聖樹の2人、加藤大輔・飛鳥の兄妹、南部の末娘・瑞希、相原の長兄・航(わたる)、太田の三姉妹のうち次女。物凄い割合ですが、次世代を次ぐ者として地球防衛軍に入隊します。もちろん全員が戦闘員ではなく、相原航と太田詩織は航行部ですけれども。
 「留学」が実現するのは、関係者の間では遅いです。真田の家の双子の男の子の方、太田の娘のうちの1人。ただしここらへんは「三日月設定」なので、直接私は書いていません(その「出発」の話は発表済み。三日月小箱の中に掲載してあります。相当に後の話ですね)。あと、南部瑞希はガミラスへ行き、数奇な運命を辿ります。

 古代聖樹加藤大輔は、名コンビとして知られるようになり、「防衛軍の若鷹たち」と呼ばれて大人気…という短編はいくつか書きましたっけ。その中心になった話は、NOVELに置いてあります 「時空の果て」 です。
 このとき、彼らはすでに「第三次星間戦争」に加わっていまして、ガルマン=ガミラス艦隊と共闘して敵に当たっている様子がちらりと書いてあります(この作品書いたのって2006年ですからねぇ。最初から設定済み)。

 星間戦争が起こる顛末は、間接的にですが、相原祐子のGrowing Upに書いてあるのですが、ちょっと探してみたところ、リンク切れしているようです。読みたい方がいらっしゃれば、またアップいたしますので、どうぞ。
「タイムアウト」「風が吹く」とかそのあたりです。祐子のLoveものですから、あまり人気はなかったんで、下げちゃったかな。
 ところで、先にオチを言ってしまって申し訳ないですが、祐子というのは時空の間にぽつ、ぽつとしか登場しません。彼女を主役にした話はもちろん多くないです。しかし時代の変わり目にいる。なぜなら、彼女はその先、従軍記者となって、戦場に行き、かつて父が「見て・その中にいた」戦場を、第三者の目で見続けるからです。

 星間戦争勃発は2229年。
 そういうことになっています。

 古代進は不思議な立場にいる。地球の中枢で偉くなっていくには、あまりにも複雑な背景を持っているのでしょう。ずっと宇宙へ出ている。下手すりゃ前線に立っている。ただし、2229年以降しばらくは地球にいて、采配を振るいます。
 この「星間戦争」には、古代自身は戦いに行きません。ね? 斬新でしょ?(笑)
 そのかわり、息子たちが戦うんです。こりゃ辛いですわよね。守も、航も、聖樹も、大輔も、飛鳥も。瑞希は遠くまで行かない部隊なので行きませんが(南部のとーちゃんが裏で手を回した説あり)。

 デスラーたちは努力したが、10年はもたなかった。
 こうして古代守や加藤大輔らの成長に従って、銀河は再び戦乱に巻き込まれていく。。。あぁ、暗い(^_^;)。

 ところで、守くんが大人になってからの主役の話は、これでおしまいです。
 うち的には彼は「子ども」「少年」時代は主役を張りますが、あくまでもそれ、「古代とユキの息子」役だったり、「子どもたちのお兄さん・長男」的役割だからです。
 もう1本だけ、相棒である相原航との士官候補生時代のエピソードがありますが、それだけです。
 こんなに働かせる予定じゃなかったのに(笑)。

 その分、次男坊と古代・父は凄いことになっとりますが、、、それはまたどこかの時空でってことにいたしましょう。

 どうも、お読みいただいてありがとうございました。
 こぉんな長い「あとがき」を書くのも、blogだということで、お許しください。ではでは(_ _)★
2011_08
12
(Fri)16:51

お蔭様で(_ _)×2つ

 お蔭様で。

▼その1

 長~ぁい連載も、あとは「あとがき」を残すだけになりました。
 なぁんだか、われながら力作になっちゃいましたが……みぃんな、あの親父がいけません(笑)。でも、ついつい楽しくてね(^_^)書いちゃいますね。それに、一つ発生すると、そこからいろいろ派生してしまいます。巻き込まれる方も「えぇめーわく」ですが、敵(?)とのやりとりは、実はワクワクしていました。
 まぁオチはたいしたこたない、、、かもしれませんけど。
 がんばったんだよぅ。

 皆さんの反応もとても楽しかったです。本当に、愛されてるのね~>コダイススム (*^_^*)。
 んぢゃ、次は島くんで(…って、あぁいうの書けないんですよ、彼だと。ERIちゃんとこ読んでね♪)

 ともあれ、応援してくださった皆さま、ありがとうございます。

 さて次は、なににしようかな♪ この話はもともと、ある読者の方のリクエストから始まったものです。リクエストがあれば、受け付けます(ネタがあるものと、途中になっているものに限りますけど、、、これがまた、山ほどありますねぇ)。
 久々に、葉子を書こうかとも思っています。

 しばらく、「夏休み」。旅に行きたいなぁぁ。


▼その2

 『新月読本』へのお申し込み、ありがとうございます。

 おかげさまをもちまして、『新月読本01/パラレルAの世界』が、増刷分在庫、完売いたしました。

 メールをいただいた方で、本日ご注文いただいた分は、受け付けておりますので。その先は受け付けられませんという意味です。これをもって、受付終了とさせていただきます。
 さらに増刷するかどうかは、、、8部注文があったら増刷しようかなと思いますが(10部からなのね)、たぶんコストは1,500円じゃ無理かと。ここで平和に終わった方がいいかもしれません(笑)。

 『06』の方は、まだたくさんあります。
  これまでやり取りのあった方には、これからDMが行くかもしれません。

 『05』もまだ20冊くらいはあります(<ってけっこうよくはけましたね、はい)。

お申し込み、お待ちしておりますわん(^_^)♪
ではではまた。

夜になったら、「あとがき」を上げたいと思います。

…金曜日は忙しい。(<?)
2011_08
11
(Thu)09:50

tit:龍の棲む29 [回天-開戦前夜]

 龍の棲む 【回天-開戦前夜】
= 0 = 序章
= 1 = 戦闘空域へ
= 2 = ワープアウト
= 3 = 初陣
= 4 = 邂逅
= 5 = 救出・1
= 6 = 拉致
= 7 = 救出・2
= 8 = 救出・3
= 9 = 再び
= 10 = 作戦始動
= 11 = 合流
= 12 = 怪我
= 13 = 隠された宙港
= 14 = 潜行
= 15 = 突入

= 16 = 占拠
= 17 = 過去
= 18 = 戦闘開始!
= 19 = 入電
= 20 = 回天
= Epilogue =

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

= Epilogue =

 古代進は戦艦アクエリアスの艦長室に居た。
 基地のドッグに出発を待つ艦(ふね)は静かで、現在はまだ人の気配もない――。
全天ドームの向こうに土星の輪が、何重にも、細く、蒼く、縦に見えた。

 そうして古代は艦長席に座ると、傍らの小さなパネルを操作する。
目の前には赤いワインと、グラスが置かれていた。
 ぴぃん、と微かな音がした。『――古代司令、ご準備よろしいでしょうか。入電、つなぎます』「あぁ……つないでくれ」
 古代は椅子にゆったりと背を持たせると鋭い眼差しで前方のスクリーンを眺めた。そこに白い光が差したと思うと、突然、空間がつながったように別の宇宙空間が写る。
ある意味、懐かしい光景だった。

 『――古代か……』
「デスラー……」
『老けたな――いや、貫禄がついたというべきか。あれから何年になる』
次男・聖樹の年齢の分――17年が経っていた。
「17年――直接お会いしたのは、あれが最後だったか」
『――そうか』デスラーは相変わらず端正な顔立ちをしていた。年齢の片鱗は感じられたが、老いたという印象はない。地球人年齢で図れるものではないと知りながら、その胆力と気力に、古代は知らず体に力が入るのを感じていた。
 『君は、幾つになった――』
「――40を過ぎた。地球人の年齢では人生半ばというところだろう」
『……』ふっとデスラーは笑い、だがその表情は微笑みというようなものを湛えている。
『――“ヤマトの坊や”も、立派になったな』「なにをいまさら」古代も笑い、デスラーと顔を見合わせた。
 再会を祝して乾杯といこうか。通信のあちらとこちらには何万光年もの隔たりがある。銀河系中央域の対蹠点に新帝国を構えるガルマン=ガミラスは、第二の地球探査の時代より、さらに地球から遠くにあり、だが確かに大きな帝国星団の一方として銀河を統べていた。だが以前と異なるのは、ただ力で征服するだけでなく、連盟とでもいうようなものを形成している。もちろん中央政府を占める二つの民族の直接統治国家は、元のガルマン=ガミラスの性質を持ってはいたが――平和裏に繁栄しているといっても過言ではない。
 少なくとも地球と帝国星は盟約を結び、それは17年間保たれてきたのだ。“大遠征”と名づけられたそれは、元のヤマトのメンバーと中央政府の代表者、通商の大手が船団を組み、半年かけて本星まで交渉に及んだ。それ以降、互いの盟約は護られて来、地球を含むオリオン腕は彼らの政治力によって、銀河系の争いから外されてきたといってもよい。
 地球は――そういった意味では、まだ弱い。
 そうして強くなるべきなのかどうか、古代進には答えがないままである。

 『……このたびは世話になった。礼を言わなければと思ってな』
デスラーからの会話依頼が入ったのだった。古代と2人で話したい、と。
古代進側にも、連絡を取りたい意志がある。それはこの先、もしかしたら太陽系の平和を続けていくための重要な会見になるかもしれなかった。
――そうして、まるでごくプライヴェートな通信のような、この会見はセッティングされている。
「こちらこそだ、デスラー総統。われわれの政府に反発を持つ者との内輪もめであると認めていただいて、感謝している」
デスラーはじっとこちらを見ていたが、グラスに口をつけると微かに首を振った。
 背後には彼が新・スターシア星と名づけた星が今でも見えていた。
当時のガルマン=ガミラス総統府とは異なるため、その窓から見える景色は異なっている。実際、古代たちが訪問した時の新帝国は、巧妙に似せてはあったが違和感があった。だがそこにデスラーはもう20年以上も君臨し、着実に帝国を築いてきたのだ。
 その繁栄ぶりを見る限りにおいて、彼がただの暴君ではなくなったことが察して取れる。そうして外交手腕や宇宙全体を見通す目も――。
 生き様は相容れない。これは古代進がいかなデスラーに心を寄せたとしても、譲ることのできないものだった。だが武人として、認めざるを得ない力量や、人の大きさとして。古代はデスラーを尊敬しているといってもよい。
『――私たちの方は、“不問”というわけにはいかなかったよ』
え、と古代は顔色を変えて見上げた。
「われわれには――地球には、私心は無い!」
此処が肝心だった。地球は現在、他の星系とことを構える気などないのだ。
デスラーは片手を上げてそれを制した。
『わかっている、古代』まぁ飲みたまえ、と酒を促し、古代は一口、グラスを口に運んだ。
『――もともと不穏な動きのあった地域で、監視をつけてあった。今回のことで対処ができる。情報を感謝する』
 以前のデスラーなら、その星ごと吹き飛ばし、担当の者など指の一振りで銃殺にしてしまっていただろう。それだけでも、抱えているものの大きさが違うと古代は理解している。

 『――事前に防いだのは貴方の息子だそうだな』
「デスラー……」話題を転じた彼に古代は驚いた。どこからそのような情報を得るのか。もしかして、あの戦い自体、すべて監視されていたのではないか、そのような恐れさえ覚える。呑まれてはいけないと思いながらも。
『古代、守。――といったか』「あぁ、そうだ。長男で、今年、そちら方面へ向かう艦隊に所属になった。アリオスという艇の艇長だ。お見知りおきいただけると嬉しい」
そうか、と頷くデスラーは満足げに言った。『ユキとの子か――ユキは元気か』
「あぁ。ぴんぴんしてるよ、地球でだがね」
立派な息子だなと言い、そう言ったのは。『――私の子らも艦隊指揮官として各地へ出ている。今回は次男の窮状を救っていただいた結果になった。多くは言えないが、そういうことだ。感謝している』
それではデスラーにも子どもがいるのかと古代は思った。
『――わが星に留学しては来ないか。近々そういう制度を作ってもよい。地球人も、宇宙の隅っこで護られてばかりいないで、こちらへも出てくる義務がある――次世代にそれを託す人材がいれば、送ってもらえば、優遇する』
デスラーのその言葉は、多くの意味を含んでいた。

多くの情報が提示され、古代は一筋縄ではいかない、と思った自分の思いが間違いでなかったと実感する。
「デスラー。……ひとつ、聞きたい」
『なんだ』
画面上のデスラーは、饒舌だった。その言葉と裏腹に少し寂しそうに見える。王者の孤高は彼の特徴の一部ではあったが、さらにそれが色濃く見えたのは古代の感じすぎだっただろうか。
「――そちらは、平和なのか。戦いの種は、無いのか」
じっと黙ってデスラーは古代を見た。
 『――いまは、まだ。数年はもつだろう。地球にも影響があるとは思わない。だが、私たちが成功しても10年以内に。もし失策をおかせば数年内外には――戦いになるだろう』
「デスラー!」それはあまりにもありがたくない予測だった。
『銀河の状況は芳しくない。……ひとつの勢力が力をつけつつあり、われわれはそれを、武力で押さえようか、それとも政治で取り込めるか、真剣に議論している。われわれは大きくなり、もはや以前の武力星間国家だけではいられないからだ』
護るべきものができた――そうしてデスラーはもう二度と。あの、ガミラス本星崩壊から消滅に至るまでの絶望と、新しい大地・ガルマン=ガミラス喪失のような想いを、自分たちの国民に味わわせたくはないに違いなかった。
 開戦前夜――。
 今回の事件は、その火種にはならなかった。古代も、デスラーも。それを回避することができたのだ。
 だが次は――?

 第三次星間戦争への予感が、まだ形無く、古代進の胸の裡に広がっていた。
「デスラー……われわれは」
画面の向こうで彼は頷く。
『時間が、ないのだ。――古代。協力してほしい』
古代進は頷かざるを得なかった。
 自分勝手といわれようが、地球をそこから引き離しておきたかった。できるだけ長く、できるだけ遠くに。銀河系中央で済むものならば、そこで。
銀河系中央域へ飛ぶ遠洋航海艦隊と、自分たち――太陽系外周艦隊。新しい時代が近づいてこようとしていた。 

【End】
――09 Aug, 2011

= あとがき = へ)
2011_08
11
(Thu)00:10

blog連載の問題。。。

 いつも拍手コメントやコメントをありがとうございます。>皆さま
 それ読ませていただいて思ったのですが、
 「エピローグに誰が出てくるかクイズ」とか、やればよかったなぁ(^.^)♪

 風間巳希説、古代ユキ説。。。いろいろありますが。
 まぁ、もうじきわかります、意外な(? そうでもないか)ひとです。

                  ・・・

 さて前回、『復活篇』の連載「第一報」をやったときは、

 ふらりと立ち寄られた人が、興味のない話を読んでしまわないように。

 ということで、物語はすべて「続きを読む」からクリックしないと読めないようにしておきました。
 読みたい方は、自分の意思で、ページを開かないと読めないようにしてあったのです。

 ところが、fc2が携帯対応になっていることがわかり、自分でもチェックしてみると、頭から目次と内容が読めるのでなければ、超読みにくいし、連載ぽい物語の連続性も損なわれる。毎回、聞きたくもないような書き手のいいわけやら前置きを読まされることになり、自分でもいやなんですから、お読みになりたい読者の方は、もっといやだろうなぁ。。。ということで今回。
 すべて

 連載タイトル
 目次
 本文

のみにしてみたのです。
アーティクル自体が独立して目次化できるように。そうして、前の連載もそのように直そうと思っていたのですが……。

 先般、コメントをいただいた方のように、ふらりと入ってこられた方が、それをガードする方法がないのですね。
 今回の連載は、私の二次小説の、さらに派生した物語です。
 当然、人間関係なんて、「ほとんどヤマトと関係ない」という話で、古代進とその息子を軸に話は進むし、古代の部下たちや敵や仲間たちなんぞ、ほとんどオリジナルです。
 (古河がオリジナル・キャラだってことは本人、ほとんど忘れかけてますけど・笑)。

 新月worldに三日月小箱さん時代からオツキアイいただいている方や、「面白ければ」「古代進が違和感なければ」と思ってくださる方はよいですが、免疫のない方には違和感ありまくりなのでしょうね。
 そういった意味では、「背景も作らなくていいし、リアルタイムで書けるし」とけっこうblog連載なら、いくらか書きかけて店晒しになったままの話を完結できるか? と考えていたのですが、一考の余地アリ、ということになりました。

 ううむ。
 いろいろ難しいなぁ。

 次のネタとしては、例の『復活篇もの』の第二部。これも途中まで書きかけて置いてあるし。
 ほかには、もう1本、風間くんものが置いてあります。…基本、「武士のお題」はこれでやってるので、復活篇もこっちで行こうかと考え始めていた。
 要するに、サイト作る時間ありませんので、blogはなかなか便利だったんですね。

 いっそ全部お話にしちゃえば、頭書きにそう書いておけばよいのですが、blogはblogです。物語だけ読みたい人はカテゴリから読んでいただければいいですし。雑多な話が置いてあるのが特徴だと考えています。

                   ・・・
 さて、どうしようかなぁ。
 ラストもう1本。11~12日中に上がります。

◆  ◆
ただ、一応、今回の人間関係については、下記に簡単に書いておきましょう。
↓ご興味のある方だけ、どうぞ。

続きを読む »

2011_08
10
(Wed)19:15

ヤマトの音楽を演奏する弦楽四重奏、、、だそうな。

 本当にタイトルどおりだったらいいな、と思いますが(^_^;)
 そこまでご都合良くありませんけれども、アニメの音楽を中心に、「今回は『ヤマトセット』をプログラムに加えました」という、若手女性たちの弦楽四重奏団がライブを行います。

 東京芸大出身のプロの演奏家の方たちのようで、積極的に演奏活動を行っている模様。
 某SNSのコミュニティで見つけましたが、編曲もご自分たちでなさっているようですし、楽しみに行きたいと思います。

 アニメの弦楽四重奏曲といえば、宮崎はやおさんの「ジブリ」のシリーズが、アマチュア/プロの弦楽器弾きの間ではとても有名です。原曲のイメージを壊さないで、それぞれのパートが楽しく演奏できるように作られている。弦楽器弾きの生理にとても気持ちよい編曲で、しかも、難しくない。また、聴いていても素敵、という三拍子揃ったもので、この編曲者の方には一方的に入れあげて(笑)、現在はご一緒にお仕事させていただいてます(笑)。そうそう、ヤマトの編曲はお願いしたことがまだありませんね~~。

 このジブリ・シリーズは現在でも不滅の人気で、どこの楽譜やさんでも置いてます。集まれば誰か弾きます。

             ・・・
 話が逸れましたが…。
 先般、プロの人は案外、アニメ音楽の美しさやドラマ性に惹かれ、愛好したり演奏する人が多いのではないかという話を書きました。
 ともかく興味のある催しなのでご紹介しておきます。
 私も行ってる予定ですので、ご興味おありの方(でご近所さんなら)ご一緒いたしましょう♪

 ちなみに、私はこの方々とはまったく面識なく、また、(失礼ながら)どのような活動をしておられるか存じ上げませんでした。その意味でも少し楽しみです(*^_^*)♪

 七葉弦楽四重奏団
  ~帰ってきた!とりあえずLive vol.2~ギラギラサマー~
  2011年8月13日(土)12:30 open 13:00 start
 場所:四谷天窓5階(高田馬場)
 Charge:2000yen(+別途1ドリンク)
2011-0813_SQ


 曲目
 ・宇宙戦艦ヤマト
 ・ルパン三世のテーマ
 ・ハウルの動く城より「人生のメリーゴーランド」
 ・もののけ姫より「タタリ神」
 ・葉加瀬太郎:情熱大陸
 ・坂本真綾::光あれ、プラチナ
 ・マクロスF七葉スペシャルメドレー
 ・ランカ・リー=中島愛:蒼のエーテル
 ・安倍幸明:弦楽四重奏曲第7番より4楽章
 ・J.S.Bach:BWV147より「主よ、人の望みの喜びを」
   etc.(※曲目は変更されることがあります)

 チケットサイトを見ましたが、なかなか人気がおありのようで、フラリと行っても入れないかも。
 ご予約をお勧めします。

 《問》 7leaves.strings@gmail.com

プロフィール:東京芸大で出会った4人の仲間たちで、本業クラシックからアニメソングまでとにかく大好きな曲なら何でも全力でお届けするプロの弦楽カルテットグループ。「この度のライブに“ヤマト”をセットリストに入れましあのテーマから色んなシーンで流れたあんな曲やこんな曲を混ぜた、かならずやヤマトへの愛の伝わるアレンジに仕上がりました」と書かれていましたのでお伝えしておきます。

2011_08
10
(Wed)09:10

tit:龍の棲む28 [回天-開戦前夜]

 龍の棲む 【回天-開戦前夜】
= 0 = 序章
= 1 = 戦闘空域へ
= 2 = ワープアウト
= 3 = 初陣
= 4 = 邂逅
= 5 = 救出・1
= 6 = 拉致
= 7 = 救出・2
= 8 = 救出・3
= 9 = 再び
= 10 = 作戦始動
= 11 = 合流
= 12 = 怪我
= 13 = 隠された宙港
= 14 = 潜行
= 15 = 突入

= 16 = 占拠
= 17 = 過去
= 18 = 戦闘開始!
= 19 = 入電
= 20 = 回天

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 後には古代進・守父子(おやこ)だけが残された。――
 椅子の上で身じろぎもしない進と、じっと立って一点を見つめている守。

 父親の方が先に表情を崩した。
「……よく、やったな。初陣の勝利、おめでとう」
古代守には言いたいことがたくさんあった。
怒り、安堵、そうして安心と喜び。それらが交錯し、また(めったにないことだが)自分と相手の立場も混乱して、そのままだったのだ。
――無事だった。これまでならどんな場面でも、父は息子をかき抱き、彼はその父の腕に包まれることを躊躇したことなどなかったのに。
 「どうした? 艇長兼作戦リーダーとして、存分な働きをした。よく統率し、作戦を成功させた。初陣としては立派な士官ぶりだったと聞いている。――だから、おめでとう」
 そうだ、初陣だった、と古代守は改めてその実感を感じていた。

 古代進を守れる男になりたい。
防衛軍に身を投じた理由として、それが最も大きかった。
まさに初陣でその機会に恵まれ(?)たこと、感謝しなければならないのだろう。
確かに、守れた。彼は無事、目の前に居る――だが。だけど。
 「古代司令……」口をついたのは低い声のつぶやき。
「……私は、怒っているんです、わかりますか」他人行儀な言葉が出た。
訓練学校へ入ると、親子兄弟だろうが地位が違えば上官下士官である。
ましてや“雲の上の人”古代進――こうした口調に慣れて、もう何年にもなる。
母がその場にいたら驚いたかもしれなかった。
 「……守」
今度もその“約束”を破ったのは父の方だった。
「勘弁してくれ――心配をかけた。済まない」
素直に彼は頭を下げる。守は怒りと動揺で、何故か、今頃からだが震えてきた。

 「……ひどい、よ」
古代が顔を上げたとき、息子は顔を伏せ、手を震わせていた。
「――どれだけ。僕たちが、どれだけ、心配したと思ってるんだ。いくら父さんが危地に強いからっていっても――僕たちは全滅したって父さんを助けなければならなかったんだよ? 自分でゲリラみたいな真似するなんて。艦隊司令だろ? 父さん」
「……」
古代は初めてゆっくりと笑った。
――息子に叱られたのが嬉しかったのだ、といえば、また守の怒りは倍増するだろうか。
「――大きく、なったな」
「ふざけないでっ」
「……ふざけてなど、いない。お前は立派な艇長で、艦隊のリーダーの一人で、立派な、宇宙の男だ。それを喜ばない親父がいるか?」
「――僕は。僕は、父さんが無事ならそれでいいんだ。……だけど、貴方の勝手な行動で、どれだけの人が心配したと思ってるんだ」
 くすりと古代は笑い、すまんすまん、と言いながら椅子からゆっくりと立ち上がった。

 慌てて守は彼に近づく。
怪我してんだろ? そうして腕を取って、もう一度椅子に座らせる。
「――守。お前こそ無事でよかった。私の無茶な行動で皆を混乱させたのなら、済まん。だが、私にも使命があった」
(わかってる――だから)
誰よりも、それについてはわかっている古代守なのだ。
それでも。もっとほかの方法はないのか? だが、こういったときに、そう動くからこその古代進なのだと。
――守は母・ユキの気持ちがいまさらながらによくわかった気がするのである。

 「守――抱かせてくれ」
すいと手を伸ばし、守はその腕の中に包まれた。
「大きくなった……立派になったな。もう、私がお前を頼りにしてもいいようになったんだな――」
「父さん……」
 ぎゅ、と抱きしめられて。もう何年ぶりのことだろう?
 はっと気づいた。古代は守が訓練学校に正式入学してから、こういう行動を取ったことは無かったのだ。
そういうことにも今、初めて気づいたのだった。
「嬉しいよ……だが。俺がこういうこと言うのは矛盾してるからな、内緒だが…」
古代の声は少しかすれているようだった。温かさが体にしみた。
「――死ぬな。初戦を成功させた、なんていうのが一番危ない。お前自身もだが、大切な人を失うことにもなる。臆病でいいんだ――慎重でいろ。それが良い上官だ」
「父さん!?」
 古代進がそんなことを言うなんて、意外だった。
「死ぬな――生きて、無事で務めてくれ。私や、母さんを悲しませないで」
「はい……」
守は手を伸ばして父の背中に触れた。大きな、追いかけているときは果てしなく遠く、大きな背中だった。
いま、こうして向き合うことも触れることもできる背中だった。

            ★
 古代は丸2日ほど養生すれば大丈夫だというので、その夜だけ守はそこに同宿することにした。

 日向と古河が戻ってきたときは、テーブルを挟んで仲良く酒を酌み交わす2人の姿があった。
「艦長っ! まだお酒はダメですっ!!」
日向が慌ててつかつかと近づき、グラスを取り上げる。
「おぅっ!? いいだろ? 息子の凱旋祝いだ。1杯くらい飲ませろ」
「だめですっ。1杯なんてもうとっくにお飲みになったでしょ?」
ね、と守の方を向いて日向は言う。守も苦笑して頷いた。
 良い人々に囲まれている父だった。
「なぁ守。こいつはお前より口うるさくておせっかいなんだ。人の面倒ばっかりみてないで、早く嫁でも世話してやれって言ってんだが」
「艦長ぉ~~。そんなこと仰っても出ていきませんからねっ。俺は、皆さんによぉっく見張っててくれって頼まれてんですから」
「――それが率先して艦長と一緒に飛び出してんだから世話はねぇや」
古河に茶々入れられて、泣きそうな顔になった日向である。
 わはは、と笑いながら、
(父さんの下で働くっていうのもいいな――キツそうだけど)と思った守である。
だが自分は絶対にそういう立場になることはない。――この命令を与えた風間巳希もそうだったが、遠くから見守り、いざとなった時に守れる立場でいること。
その方ができることが多いと思うからだ。
(――日向さん、頼みます)
こっそり胸の裡に言って、飛ばした目線が、たまたま日向と合った。
――通じた、のかもしれない。守より少しだけ年上の彼は、微かに頷いたような気がしたからだ。
目に光があった。

 無事は伝えた。
 報告書も簡単だが、送った。作戦は成功だ――。
だが、詳しく逢って話さなければならない人々がいる。皆、彼らの無事を祈っている者たちだ。
 母・ユキにはどこまで話しても良いのだろう? いやきっと、何も言わずにおくのかもしれない、と思う。
父が話すだろうから。
 風間少佐――自分を信じ、擁護してくれる先達。そうして父を遠くから護る人。
あの人には、伝えておかなければならないことがたくさんあるような気がした。

 古代守は、近づいてくる時代の足音を確かに聞いている。
宇宙にうごめく不穏な気配と、地球の周りでのざわめきを。
 銀河系へ出向く時期が来ているのかもしれない――遠く、彼方へ。
 父(かれ)や、大切な人々を守るために、自分はより遠く、宇宙へ向かうのだと。
それは守の直感だった。

= Epilogue = へ)

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2011_08
10
(Wed)00:15

tit:龍の棲む27 [回天-開戦前夜]

 龍の棲む 【回天-開戦前夜】
= 0 = 序章
= 1 = 戦闘空域へ
= 2 = ワープアウト
= 3 = 初陣
= 4 = 邂逅
= 5 = 救出・1
= 6 = 拉致
= 7 = 救出・2
= 8 = 救出・3
= 9 = 再び
= 10 = 作戦始動
= 11 = 合流
= 12 = 怪我
= 13 = 隠された宙港
= 14 = 潜行
= 15 = 突入

= 16 = 占拠
= 17 = 過去
= 18 = 戦闘開始!
= 19 = 入電
= 20 = 回天

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

= 20 =

 アクエリアスに収容されたメンバーは、傷の手当てを受けていた。
もちろん、潜入戦と情報奪取、敵工作に大活躍した日向はじめとする近藤・柴田らも怪我をしている。
 古代は“司令としての務め”を盾に、軽い治療(痛み止めと壊死防止)を受けただけで艦橋に立っていたが、実際はかなりの怪我と疲労で、それだけでも相当な気力を要するはずだった。
だが誰が言っても聞かないことも部下たちは周知だったため、事後処理は、なにをそんなに急ぐのだというようなスピードで行われた――部下たちの差配である。

 そうして、その小さな艦隊は、アリオスの一行に守られ、ヘクトルとも合流して土星基地へ一時帰還した。

                 ★
 古代進の与えられた使命――目的は、一応、達することができた、という報告ができるだろう。
資料はすぐに折り返した土星の基地から厳重なシークレット通信のもとに転送され、本部から照会が行われた。
 “星の石”とされた組織の背景につながっていたと思われる某帝星へも照会がされたが、先方は
「なんのことだかわからない。ガルマン=ガミラス帝星連盟の一員であるわれわれにはまったく意味のないことだ」
と言われ、それを全面的に信用することはできないまでも、今回はその危険は去ったと考えてよかった。

 そうして、土星の輪の間に浮かぶ中間基地――外宇宙への要衝であり、古代たちの艦隊のサブステーションもある――で、ようやく本格的な治療を受けることになった古代進の許を、アリオス艦の数名が訪れた。
 宇宙空間で邂逅し、共に引き上げてくる中では、通信で簡単な会話をしただけだったのだ。

                 ☆
 「入ります」
 事務官の先導を受けて、古代守を先頭に数名が入室した時、古代進は広い部屋の中央にあるベッドの横に椅子を置き、そこに姿勢よく座っていた。
 その脇には古河大地が、部屋の中には日向が居た。
――柴田と近藤はまだ資料の解析に借り出されており、艦の中で治療を受けたと思うと基地に着いた途端、借り出されて戻れないでいるらしい。
 よぉ、と表情を緩めて片手を挙げ、気軽な風情で古河が守に声をかけた。
 ニコと笑顔を見せ、だが軽く敬礼を返して、古代守は父・進の前へ立つ。

「――司令。ご無事でなによりです」
口調は、固い。揃って頭を下げた時、古代進の目にはなんともいえない、微笑というような表情が浮かんだがそれはすぐに消え、守たちが頭を上げたときは、もとのいかつい無表情に戻っていた。
 「このたびは、苦労をかけた。礼を言わせてもらう――」
古代進の言葉は、守のみでなくアリオスのメンバー皆に向けられていた。
はっ、と生真面目に敬礼する一同。
「お怪我は」
 守が口を開かないので、察した下野が部下を代表して古代に話しかける。
このあたりはベテランの特権とでもいうもので、通常の上下関係ではあり得ないが、ヤマト出身の古代たちは、戦場を離れてしまうとさほどそういったことを気にしない方だったろう。
「――大したことはない」
そう言う表情が無表情のままだったので、息子の古代の方の眉間に皺が寄った。
「本当ですか?」
さらにそれを察して下野が問うのに古河が口を挟んだ。
 「古代艦長――皆が困ってるぞ。意地張らないで説明してやったらどうだ。ん? 皆さん、貴方のために此処まで命がけできたのだからな」
まめに世話を焼く、という風情でそこにいる日向も苦笑する。
「そうですよ、艦長」
その場で一番若い日向が口を挟んだので、皆が一瞬彼に注目した。
あ、という顔をした日向だが、それくらいで遠慮する男でもない。
「――敵基地に捕らわれていた時の仕組みで腕にヒビが入っていたのですが、奇跡的にほかに大きな傷はありません。ご無事、という意味で言えば言葉の通りですから、皆さん、ご安心ください」
言葉は慇懃だが、声は笑っている。
「ただちょっとご無理なさったので、お疲れ気味ですけどね」
な、と古河が顔を見合わせる。
 「――何か言いたいことがありそうだな、日向」
古代が仏頂面をしたので、下野まで吹き出しそうになった。
古河はすでに可笑しがっているのが丸わかりである。
「古代艇長――今回の救援隊長の方は何か文句がありそうだがな――」
古河が引き取って、
「俺たちはしばらく席を外そう。その間、面倒は艇長が見てくれるだろ? 行くぞ、日向。よろしいでしょうか、下野副長」
「はい、もちろん」
「われわれはご挨拶が済めばあとは問題ありません。ご無事を確認して艦の者も安心します」
と下野がベテランらしく答えた。
 「艇長――そういうわけでわれわれはお先に」
古代守は相変わらず固い表情を崩さないまま、頷き、言った。
「戻って報告書をデータ送信したら休んでよい。明朝0600まで当直の者を残して上陸許可。これは他艦にも知らせてよい――うちの艦隊だけだがな」
「了解(ラジャ)」と敬礼し、下野たちは古河と日向に促されて部屋を静かに出ていった。

= 20 = 後半へ)
2011_08
09
(Tue)00:02

tit:龍の棲む26 [回天-開戦前夜]

 龍の棲む 【回天-開戦前夜】
= 0 = 序章
= 1 = 戦闘空域へ
= 2 = ワープアウト
= 3 = 初陣
= 4 = 邂逅
= 5 = 救出・1
= 6 = 拉致
= 7 = 救出・2
= 8 = 救出・3
= 9 = 再び
= 10 = 作戦始動
= 11 = 合流
= 12 = 怪我
= 13 = 隠された宙港
= 14 = 潜行
= 15 = 突入

= 16 = 占拠
= 17 = 過去
= 18 = 戦闘開始!
= 19 = 入電
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

= 19 =

 包囲網を簡単に突破したアリオスは(もちろん古河たち先行したCT隊の活躍のおかげもあり――どうやら敵は、だいぶんビビっている模様である。積極的に攻めてこようという気力が感じられなかった)、周りの小さな艦を撃破すると、艦隊の中心部へ向かっていた。
 (なるべく犠牲は少なくしたいのだが――仕方あるまい)
 防衛軍の威厳を見せ付けなければならない、という思いもある。
反乱軍なぞ許しておいてはいけないのだ――広い意味で。深い宇宙の平和のためには。
 たとえそれがまやかしでも、父から聞かされて育ったような、そうして自分たちも繰り返し学んできたような、あんな歴史を繰り返すのはご免だった。そのためにこそ、自分たちは此処にいるのだから――。
 (何としても、阻止する!)
 父・進の援護と奪回。これがあくまでも守たちの第一義である。 
だが、そのまま引き返すような父ではなかったし、彼の目的を遂げなければ、地球の、さらに古代進自身の明日も、無いのである。
(あぁ、父さん――無事でいてくれ)。
 古代守は、出撃し艦橋に立って初めて、心の裡ででもそういう祈りをつぶやいた。

              ★
 やる気のなさそうな砲撃が返ったが当たる気遣いはなさそうだった。

 戦闘員の声にパネルに目を向けると、目前に迫った艦隊の中から旗艦がぐっとせり上がってくるのがわかった。その重量感は半端ではない。
「艇長っ!」悲鳴のような声があがり、「砲撃をっ!! ご許可ください」
「だめだ」古代守は断固としてそう言うと、その近づいてくる様を睨み付けた。

 ――似ている。何かに。

 古代守が考えていたことは形にならなかったが、実際は進と同じであった。
そのあたりはさすがに親子である。
色を変え、外の形を多少はいじったとしても砲塔の位置や全体のフォルム、その艦の持つ雰囲気というものは変えられない。
戦いの歴史を持ち、人の汗が染みたものなら、なおのこと――まぁそれは感傷に過ぎるといわれてしまうかもしれないのだが。
 守は無意識ながらも、これが既知の艦だと気づいていたことになる。
             ☆
 「古代艇長! 司令からですっ、通信が入りましたっ!!」
爆撃が始まり、味方に損傷こそ出ないまでも、戦闘が混戦を帯び始めていた。
 宇宙空間の戦闘は百人・千人単位があっさりと飛ばされる。
最小限の人数で出てきているとはいえ、父がゲリラ戦を挑んだのなら、なるべく早く奪回して戦線離脱したいのも本音だった。
 「つなげ」
守の口調は落ち着いていたが、内心では、(待ってました)というところだっただろう。
いや、(遅いよ、父さん)だったかもしれない。

 『――アリオス艦艇長、こちら、艦隊司令古代進』
「こちら、アリオス。ご無事ですか」
『遠路ご苦労です――この艦はわれわれが占拠した。敵リーダーを捕捉してある。至急、アクエリアス艦とイサス艦と協力し外から捕捉してくれ』
「了解――状況は」
『いま、データでそちらとアクエリアスへ送る。――ただいま艦橋で集中コントロールしている。外のハッチを開けるから突入して武装解除してほしい』
「了解――アクエリアス、聞こえましたか」
『――こちらアクエリアス。眞南、了解した。ただちに救援に向かう』
「こちらも2隊を向かわせます。――古河隊、周辺待機してください」
『おう! こっちも了解だ』

 その間も、周辺からの攻撃は続いていたが、転じた旗艦の動きに相手が混乱した隙に防衛軍側の他艦が押さえた。
降伏を呼びかけたが投降した者はわずかだ。
中には乗員が中でもめたのか自爆したり、動かなくなった艦もあり、指揮系統の混乱――もしくは秩序立った指揮系統が無いことを物語っている。

 戦闘は、短い時間で終わりを告げた。

= 20 = へ続く)
2011_08
08
(Mon)01:28

甘い二十>No.16 &『復活』

 タイトル通り。
 連載は、書いてるほうも面白くなってきたのですが、さすがに忙しくてまだ続きは、、、です。

 ちまちま書いてた「御題」の方、本日待ち時間で作業ができたので、アップしました。

 二十之御題 No.16 【懐かしい髪の記憶】

 しゃれも工夫もないんですが、御題どおり、珍しく、Sweet♪です。
 ただし、テレサと島だけど(爆)。

 ほっこり当てられてくださいませ。

                  ・・・
 Aufersthen! Ja、auferstehen!!

 ううむ。頭んなかまだ、「復活」が鳴っとります。オーケストラもよくがんばったよな~。なにせ、とまらなかったもんね、第五楽章。
 私は相方と一緒に、オーケストラをバックにAlto Solo歌わせていただきました。

 まぁそれだけでも贅沢なことなのですけどね。
 やっぱり“長年の相棒”っていうのはいいなぁと思った。血が騒ぐ。本当に、歌ってなくて。普段はぜんぜん、生活環境も仕事も、住んでる場所も違う。何年かに1回、会うかなって程度で(逢えばまたけっこう話は弾むんだけどね)。
 ところが、ある瞬間、声を出すと、ハモっちゃうんですよねぇ。指揮者に「ぞくぞくした」と言っていただきました。彼女はうまいけど、私は実はたいしたことない。声もさほど大きいわけじゃないし、なにせふだんは楽器弾きで、「歌を忘れたカナリヤ」だったりします。
 だけど、三度や五度で鳴ったときに、また二度でぶつけたときに、倍くらいの響きでホールに通る。これは、音楽の不思議なところだと思う。しかも、声質がまったく違うんで、普段歌ってると合わないんだけどねぇ。

 でも、互いに気持ちが良いので、彼女はソリストやるときは私を相方に指名したがる。そんな相棒もいいなぁと本当にしみじみ思った。皆も、楽しんでくれたみたいだし、一緒に遊べたし。
(しかし、マーラー:交響曲第2番「復活」、第五楽章のSoliって難しいんだよ)

 この曲をネタにしたお話を、最初の頃に1本、書きました。
 未読の方は、よろしければ、どうぞ。

 古代進と森雪100題 より「53.復活- Aufersteh'n」

 雪と葉子の話で、古代くんと雪ちゃんの結婚式です。
2011_08
07
(Sun)00:56

tit:龍の棲む25 [回天-開戦前夜]

 龍の棲む 【回天-開戦前夜】
= 0 = 序章
= 1 = 戦闘空域へ
= 2 = ワープアウト
= 3 = 初陣
= 4 = 邂逅
= 5 = 救出・1
= 6 = 拉致
= 7 = 救出・2
= 8 = 救出・3
= 9 = 再び
= 10 = 作戦始動
= 11 = 合流
= 12 = 怪我
= 13 = 隠された宙港
= 14 = 潜行
= 15 = 突入

= 16 = 占拠
= 17 = 過去
= 18 = 戦闘開始!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
= 18 =

 「あ、あれをっ!」
古河の率いるCT隊が出撃し、アリオス艦はそれを追って砲撃を開始した。
旗艦らしき艦はまだ後方にあり、砲撃の届く範囲ではなかった。
前方の艦はぐんぐん近づいてくるが、まだどちらも先端を開いてはいない。
 周辺を崩していく――これも最低限にしたいのが守の本音である。
正体がわからない相手を殲滅するのは古代守としても本意ではない。
ましてや父・進の使命を知っていればこそ、なおのことだ。
 古代守は片手を前に上げた。
 「砲撃、用意――」
アリオス艦は、躯体こそ小さいものの、最新型の高性能艦である。
守自身が訓練生として乗り込んだ時に、最新鋭艦であった。もちろん長距離航行用の艦ではないが、こういった戦闘には(使い方次第では)威力を発揮した。
――新米の艇長には、なかなか良い。
守は自分が任された艦を、ひどく気に入っている。
艇長の力量も、乗員の力量次第でも、生かせる艦(ふね)だという思いがあるからだ。
アクエリアスやイサスとはまた違った個性を持っているのだ。
 ぐぐぐっと宇宙空間を押し出すように前進し、その加速は不思議な動きを見せる。
もう数年、この艦と起居を共にしてきた守には、その艦の動きが自分の手足のように伝わっていた。
 「第一第二砲塔、準備よし」
「第三砲塔、第二副砲、照準Bポイント」
「――ようし、中央下方を狙えよ」
腹に力を入れて守はそう言おうとしたが、中途半端な発声になってしまった。
独り言のように聞こえたかもしれない――とふと思ったが、言い直しは利かない。
みっともないからだ。
……妙なことに気を回さなければいけないのも、若いリーダーということなのだろう。

 「艇長。CTから入電」
「まわせ――」
閃光が先頭の艦にひらめき、あちこちから爆発が起こった直後だった。
その向こうへ飛び退った光の筋――古河たちイサスのCT隊は、攻撃を開始していた。
 その様子をパネルに切り替えさせて守は見上げる。
 初戦なのだ――いくら彼が成績優秀のエリートで、この艦には士官候補生としても長く乗艦しており、実戦経験もあるとはいっても――今はすべての判断と指揮が古代守にゆだねられていた。
 ぐ、っと彼の拳が握り締められたが、目の前で始まっている戦闘に気持ちを奪われている艦橋の面々はさすがにそこまでは気付くことはない(だろう)。
守の頭の中では目まぐるしく様々な判断が渦巻いていた。
 (父さん――いったい、どこに。いるんだ。……戦艦奪取は成功したのか? 援護は、必要なのか? 余分なのか? どっちなんだ)
 基地への攻撃は援護射撃になったはずだった。
 それは古河からの通信で確信を得られ、守は一つ自信を深めていた。
緻密な計算と準備。そうしてそれを実行する勇気と躊躇の無さ――それがあれば、あとは成果を刈り取るだけだった。だが臨機応変が求められるのも戦場で、それは行き当たりばったり、ということとは違う。
――父・進の行動が今ひとつ読めないのは、守のそういった考え方があるからだったろう。
もちろん近代戦のセオリーからすれば守の方が正しい。
古代進だとて、常から型破りばかり行っているわけではもちろんなかったし、実際に自分たちに仕込んでくれたのは、そういった戦場での振舞い方でもあった。
 だが。
 本当の危機に陥った時の父さんは――。
(読めない)
と守は思っている。

 だがこの場合は、戦いは収束に向かっているはずだった。
 実際に戦端が開かれたとはいえ、これはもしかしてブラフかもしれないという想いが先に立つ。
だからこそ古河も「旗艦は攻撃するな」と言うのだろうし、それは自分の勘所(情報収集の上の、であるが。もちろん)とも一致していた。
                 ★
 「ようし。回天するぞっ」
回天――状況を変えること。
古代守はその気合を込めて言葉を発した。
 アリオスはスピードを上げ、砲門を開いて敵艦隊に迫る。
――相手方の旗艦は先頭には出ず、後方から指示を出すつもりらしい――あるいは古代司令たちが占拠して動かしているのか。
 (だが。それなら何故、連絡してこない?)
 迷っている時間はなかった。――二重の意味で。
 第十二銀河系中央方面プレアデス艦隊・アリオス艇長古代守の力量が問われるからだ。
信頼のあるメンバーたちとはいえ、艇長として、初戦でミソをつけたくはなかった。守にもプライドはある。
 (父さん――賭けるよ。行くぞ)
 「速度、××宇宙ノット。全砲塔、各個に目標補足! 30秒後に戦闘開始!」
戦闘班長が「了解っ!」とそれを受け、パネルを睨む。
「艇長、各部署。準備整いました」
「戦闘開始(ファイヤ)!」
 アリオスは敵艦隊の前面へ、突入していった。

                ☆
 ひゅいん、と数機が艦の表面を撫ぜる。
クロスして飛び去る頃には、あちこちが火を噴き、艦はコントロールを失っていた。
 『よしっ、いいぞ――三番隊、続けっ』
古河の声がインカムに飛び込み、後続は引き続きそれに従う。
流れるような動き――ガタイの大きな艦だろうと、弱い箇所を見つけ、マーキングして叩けば確実に仕留められた。
 『相手がたは艦載機、持ってないみたいですね――』
『ひゃっほ~、楽勝楽勝っ』
『――調子に乗るな。……来たぞっ』
交差したCTの中央を光線が穿ち、3機は見事な回転でそれをやり過ごす。
『うしろの正面、だぁれ』
『――ばぁか。……そうだな、攻撃機は持ってないみたいだ』
古河の声が隊員たちに届く。
 『どうしますか、このまま旗艦まで?』
しばしの沈黙が還る――あそこにはアクエリアスの潜入部隊が、古代たちがいるはずだ。
俺の勘が鈍ったり、あいつがどじ踏んだりしてなければ、だが。
 (・・・)
 『ようし――俺の通り、ついてこい。イケるか?』
相手にぴったりついてのシャドウ飛行――見かけほど簡単ではないが、よく使われる手法で、もちろんイサスの面々でひるむヤツなどいない。
『ギリギリ艦橋まで迫ってやる――ぶつかったり弾に当たったりするなよ』
『――ったりめーです、隊長』
『まかしといてくださいっ』
 宇宙の闇を切って、シルバーグレイの機体群が飛んだ。

= 19 = へ続く)
2011_08
06
(Sat)15:26

『復活』

 昔。

 ♪ここは、美しい。それは此処が、此処だから…♪

 という歌があって(合唱曲になっていた)、中学生の頃、歌って「なんじゃこりは?」思った覚えがある。有名な作品の一部を曲にしたということらしかったし、曲が美しいから、いまでも冒頭だけは覚えているんだけど。
 わけわかんなかったよね~。

 久しぶりによそ様のblogをゆっくり訪問してて、たまたま>胡蝶の夢一期の夢) 此処を見てそう思ったりした。
 生まれ育った村が大切。そう思う、を背景に江戸時代の人々の生き様を描いた、(と読み手は解釈したのだな)『雷桜』。…確かに映画の予告を見ても、瀬田村はとても美しく描かれていた。
 旅から旅。北海道をローカル線に乗ってとことこと行く。いまいる場所を離れてどこかへ行く時、人は地軸の移動を実感するような気がするんですね、私も旅に出ることは少なくない方だから。

 此処ではないどこか と、 此処。

 小さい頃から転勤族の子、で育つと、故郷を求める気持ちは強くなる…と思う。いやもちろん個性の違いはあると思うけど。自分の生まれた土地がふるさとである必要はないけれども、ただ他所へ憧れて、出ていくのでも意味はない。
 環境を変え、きっかけをつかみ、自分を変え……いろいろなものを後ろに捨てると。すっきりします(^_^)♪

 なぁんてことを思うのは。
 ようやく落ち着いたと思ってたんだけどねぇ、もう東京に30年、今の家に居を構えて10年以上経つ。このあたりは人が変化しない。少しずつ再開発されて人が増えてはいくし、稀には去っていくお年寄り世帯もあれば、解体された“昭和ン年代”のアパートもあるけれども。基本的に、来た人はそこに落ち着き、なじんでいく。(転勤で出ていっても、2~3年で帰ってきてるみたいですね)

 それが、重くなってきたかもね、と。
 留めるものがないですからねぇ、家族とか。10年分の埃となると、解体するにも(資料とかがわんさとあるので)力が必要だから、いますぐどうこうはできないけれども。7~8年前、移住しようって言った時に行っちゃえばよかったなぁ(笑)と思わなくも無い今日このごろ。
 動けなくなる前に、もうひとつ、なんかするべきなんだろうと思う今日このごろです(その前に、いまの仕事を引き継げる相手を育てないといかんしな~。若い人たちみんな、根性ないか能力ないんですよ~。すぐ辞めるし)。

                      ・・・
 マーラーの交響曲第二番『復活』。
 魂の故郷は、やっぱり、そこなのかなぁと思っていた若い頃。これはいまでも変わらないけれども、現世に未練がありすぎるのもどうかねぇ、と思うねぇ。
幸いなのは、お金や資産はあの世へつれていけないけど、音楽は持っていけるような気がする。ついてきてくれるというのかな。道案内になってくれるかな。バッハ三昧しているとそいう気分になりますね。

 ということで、唐突ですが、明日、マーラー歌います。
 合唱じゃなくて、ソロです(爆)。
 できんのかな~~~。
 今日もやってるはずですが、行けそうにないです。これから仕事の残りをやっつけないとね。なんかやる気でないな~~。一日くらいは休みたいからだと思うけど(<当たり前でしょ)。

 これから、昨日まで受け付けられた新月本の、残りの発送をします。ようやく在庫取ってきましたから、これ以降は『01』でも『05』でもオッケーですよん♪ ではでは。
2011_08
06
(Sat)08:30

tit:龍の棲む24 [回天-開戦前夜]

 龍の棲む 【回天-開戦前夜】
= 0 = 序章
= 1 = 戦闘空域へ
= 2 = ワープアウト
= 3 = 初陣
= 4 = 邂逅
= 5 = 救出・1
= 6 = 拉致
= 7 = 救出・2
= 8 = 救出・3
= 9 = 再び
= 10 = 作戦始動
= 11 = 合流
= 12 = 怪我
= 13 = 隠された宙港
= 14 = 潜行
= 15 = 突入

= 16 = 占拠
= 17 = 過去

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
          ☆
 「司令っ! 古代さん、CTがっ!」
「大丈夫だ――古河ならこの艦を避けてくれる」
真正面からぶつかってくるかと思い、
「わぁっ!」と叫び声を上げた柴田と日向だが、ひゅん、とそれらは艦橋を舐めて艦の底へ潜った。
 「ひぃぃ、心臓に悪いよ」
「さっすがだなぁ、あの人たち」
 その間もロデムは古代を見ながらにやにや笑っているだけだった。
 長年の反体制暮らしで人も変わってしまったのか。ロデムといえば高潔な艦長として知られた男だったが、今の彼にはその見る影もない。
――彼は覚えていないだろうが、古代は若い頃、遠くから見知ったことがあったのだ。
それを少し悲しく思った。
 だが同情するほど余裕もなく、また共感もしなかった。
 売国奴――地球を最も苦境に落としいれ多くの人の命を奪った(ガルマン=)ガミラスと提携し、現在のオリオン腕の平和を守って貰っている地球。その盟約の要にいる古代進。
 だがな。
 古代は胸の裡で短くつぶやいた。
――われわれ“も”、ガミラス本星を滅ぼしたのだ。
そうして、地球が生き残るために幾つの星を死に追いやっただろう。
            ☆
 「司令っ! OKです」
3分が少し過ぎ、近藤が喜色の声を上げた。
「ようし、よくやったっ」
同時に、ごぉん、ごぉんとうなるような音がし、艦橋の周りに遮蔽が降り、また周辺の明かりの色が変わった。 次々とコントロールパネルが反応し、防壁が降りていく。
 「な、なにが……」
ロデムの顔色が変わり、逆光の古代の表情はわからない。

 艦内を艦橋からの集中コントロールで制御していた。
直接、彼らが対峙した作業要員や戦闘員、亜人は拘束して手近な部屋に放り込み、こっそりと艦橋へ潜り込んだのだ。
素早い潜入だった。
まだ“そっち”方のフリをしたのは、艦内を騙すため――艦内からの問い合わせには、くみ上げたロデムの合成音声で柴田が対応しつつ、外にもそう気づかせない間、近藤がコントロール制御を少しずつ、しかも素早く切り替えていったのである。
 現在、艦橋は完全に要塞化し、艦のコントロールは一手に此処に握られていた。
 『どうした! 何があったんだ!!』
『制御不能! 艦は!?』
あちこちからノイズまじりの音声が入り、ばらばらと外に人の気配もしたが、彼らは動じなかった。
いずれにせよ、亜人たちが体温を保てる最低の室温に固定されているため、地球人以外は動けるものではない。
死にはしないが。
 「何をした? どうして、お前たちは……」
そんなことができる? と、ロデムが初めて真剣な顔で古代を見上げた。

               ☆
 古代がこの艦を見たときに、この作戦を思いついたにはワケがある。
 辺境警備から独立艦ヤマト、太陽系外周艦隊。――長距離航行艦や戦艦を渡り歩き、若い頃から艦長も勤めてきた。その古代進である。
 この艦は、防衛軍が廃艦にし、その後行方のわからなかった戦艦――おそらく[みらい]。
船名は削られていたが、フォルムを見れば艦の名やタイプなどわかる。
古代が乗艦していたことのある[ひかり]と双子艦で、システムも同じ。
どこに何があるか熟知しているといってもよく、それは格納庫からボイラー室へあがる間に確信となった。
 だからこその強行突破でもあったのだ。

 「貴方はこれ以上、話さないだろう――」
古代はそう言った。「だが、貴方を連れていけばほぼそれで終わる。ここまでの情報でも十分だからね――だから、死のうと思っても無駄ですよ。すでに私は、理解した」
これも古代のハッタリではあるが、自殺を留める力にはなるかもしれなかった。
 「日向、代われ」
古代は指揮を自分が引き継ぐ前に、戦闘班長に指示を出す。
「絶対に、死なせるな。方法は、わかるな」
「はいっ」
「拘束しておけ。見張りをつける余裕はないからな――アクエリアスへ戻るまで、近藤に監視、頼めるか?」
「はい、了解」
結局、手が足りないから艦橋にそのまま置いておくことにし、薬を打って眠らせた。
これで5時間は目覚めない――その間に、戦闘を終わらせて帰艦すればよいのだった。
 「よし、行くぞ――」
背を向けて、戦闘指揮席に座る古代を見て、
(艦長――少し嬉しそうなんですけどねぇ…)
少し呆れた日向である。
ふと横を見ると、通信パネルに張り付いていた柴田がこっちを見て、同じことを考えていることがわかった。
元戦艦[みらい]は――だろう、きっと――古代進の指揮の下、防衛軍の艦隊に向かっていった。
……戦闘は混乱に突入するのか!? まさか。
 古代は「急上昇する。全員、回転に備えろ」
 ぐい、と(片手で)操縦桿を引き、その艦はスピードを上げた。

= 18 = へ続く)

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2011_08
05
(Fri)00:15

tit:龍の棲む23 [回天-開戦前夜]

 龍の棲む 【回天-開戦前夜】
= 0 = 序章
= 1 = 戦闘空域へ
= 2 = ワープアウト
= 3 = 初陣
= 4 = 邂逅
= 5 = 救出・1
= 6 = 拉致
= 7 = 救出・2
= 8 = 救出・3
= 9 = 再び
= 10 = 作戦始動
= 11 = 合流
= 12 = 怪我
= 13 = 隠された宙港
= 14 = 潜行
= 15 = 突入

= 16 = 占拠
= 17 = 過去
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

= 17 =

 「やっぱりそうだったか――」
パネルから目を上げた柴田がそう言って、「艦長」と古代を見た。
うむ、とうなずく古代が目を通し、近藤を呼ぶ。
 艦橋には現在、地球側の人間とリーダーらしき艦長しかいない。
その男は椅子に拘束され電子錠をかけられてあった。

 「お前たち、何故……」
 そのつぶやきを耳にすると古代は、パネルから離れて艦長席横に拘束されている男に近づいた。
「名前は」
かがみこむようにして見る古代に
「答えるとでも?」と見返す男。
じっと見返す古代は頷いた。「あぁ……思うね」
「莫迦に、するな」
 ぐい、と古代は顎に手をかけその男の顔をまっすぐ見た。
「“ミトプロートス”……」男の表情が変わる。
「な、何故その名を……」
「貴方の元の艦ですね、ロデム艦長――いや、元艦長、というべきか」
彼はぐっと詰まると唇をわなわなと震わせ、目を見開いた。
「――ヤマトの古代……お前は、超能力でも使うのか」
「ふっ、まさか」古代は微かに自嘲気味に笑う。「資料を見ただけですよ。
そもそも、最初から私は予測していた――いったいどうして、とね」

 古代の言葉には若干の“はったり”がある。
 実際に古代に与えられていた情報は多くはなく、いくつかの可能性として示唆されていたに過ぎない。
ミトプロートスの事故と“星の石事件”(テロリズムによる民間人の犠牲と軍艦の大事故)は辺境で起こったため一般には知られていなかったが、軍の一部では重要な事件で、それ以降、死亡したり行方不明になった者の中にはある種の志向を持つ者が多かったといわれている。
「まさか、貴方が“星の石(Star Stone)”の一員とは思いませんでしたが――亡くなられたとばかり聞かされていましたからね、ロデム元艦長」
「――そのような名は、忘れた」
一気に肩を落として彼は言う。
 「――それで、どうしようというのかね」
複雑な背景はどうでもよい。古代の任務は、ただひとつだった。
「――開戦を、阻止する」
腕を後ろに組み、まっすぐに瞳を射抜いて古代進は言った。
一瞬、それに射抜かれたようにみえたロデムは、顔をそむけると、今度はくっくく、と笑い始めた。
「私たちだけを捕まえても仕方ない、とは思わんのかな? 古代――この、地球人の敵(かたき)に魂を売った、売国奴」
口調が変わり、周りの部下たちの方がいきり立った。
 「止せ!」古代が静止の手を上げる――当然。戦いはすでに始まっており、古代とロデムが会話を続けている間も、日向の指揮で、この艦は指揮艦としての動きを続けていた。
        ★
 近藤が艦橋へ滑り込んできた。
「中、まだうようよしてます。皆、気づき始めたらやっかいです」
わかっている、と古代は頷いて、近藤に示唆し、彼は頷いた。

 「司令――この先、どうしますか? イサスやアリオスと、ぶち当たります」
困惑したような柴田の声がし、日向はそれでも、よくやっていた。
 「だましながらいけ……ぎりぎりまで、この艦は、敵方の艦だ」
振り返りもせず古代は無茶な要求を部下たちにする。
「――息子さん……守さんが可哀相じゃないですか。早く、ご連絡された方が」
「艦隊も混乱します――被害が、増えますよっ」これは柴田。
それには答えず、古代は近藤に向いた。
 「どうだ? 行けそうか?」
黙ってうす暗がりの中で、パネルに向かってあれこれいじったり立ち働いたり真剣に動く彼は、すでにボイラー室でひと作業して戻ったあと、先ほどから他の者と組せずに何かを進めているのだ。
「――もう、少し……」
「どのくらいだ」古代が問う。
「あと、5分……いや、3分」
3分だな。
そう言うと、古代は声にニヤりとした色を含ませて日向に命じた。
 「あと3分。保て――そのあと、反転・急上昇するぞ。……柴田っ」
「は、はいっ」
操縦、準備しとけよ、と言い、また古代はロデムに向き直った。

 「いかがですか? 自分の艦が人の手中に納まる気分は――」
古代の声には皮肉がにじんでいたかもしれない。
彼は何度かそういう想いをし、潜り抜けてきた。
「自分の艦? ふ、」ロデムがはき捨てるように笑った。古代の表情は動かなかった。

= 17 = 後半 に続く)
2011_08
04
(Thu)12:08

blog連載続きと佳境

 こんにちは。
 お昼休み(?)です。

 久々に連載第23回? を今夜とかに上げます。
 実は、「17章」は佳境です。もうじきおしまいです~~、長かったですねぇ。
佳境なので前後篇ですが、ご容赦を。

 それと、カテゴリをひとつ増やして、左のカテゴリから「blog連載 B09-No.08 龍の棲む」を作りました。ここから目次風にお読みいただけます。

 近々、もうひとつのblog連載「blog連載 B09-No.05 風雲急を告ぐ」も、現在、逆にたどっていくと読みにくいのですが(物語が「続きを読む」に入っているため」、修正して携帯でも読みやすく整理する予定です。

 「不信感」の方は、ごめんなさい。一種の共作だったため、執筆意欲を失くしてしまいました。物語自体は個人的に面白いと思うので(島くんの過去話だし)、いずれどこかで書くかもしれませんが、プチパラレルですので、どうなることやらわかりません。

 ではまた夜に。

                    ・・・
 『新月読本06』ご予約いただいた方、ありがとうございます。
 まだまだご注文は(ずっとずっとこの先も)受付中です。

 昨日までにご入金いただいた方には、一部の方を除き、発送いたしました。ゆっくりしか送られない便なので、今週いっぱいくらいお待ちください。最初の便が今日あたり届くかなという感じです。
 それと、「一部の方」というのは、『05』と『01』をご一緒にご注文いただいた方です。申し訳ありません、在庫が別の場所にありまして、週末まで取りに行けませんので、もう少しお待ちくださいませ(_ _)。

 では引き続きよろしくお願いいたします。

 喜んでいただけたりお待ちいただけること、とても幸せと思っています。
 ありがとうございます。
2011_08
01
(Mon)02:48

奇跡のバッハ!

 私は「物語」が好きなので、どうやら音楽や歌なんかよりダンスや芝居の方が好きらしい、、、と最近は思う。それに、やっぱり映画とかドラマは好きですね。もちろん舞台に乗っかってるものは何でも好きですが。
 『Space Battleship ヤマト』以来、というか。あれが素晴らしかったからなのか、どうにもアニメを見て萌えない。現代のものが自分の嗜好と離れてきた所為もあるかもしれず、作り手の嗜好と離れていってるからかもしれず。それでも、先般、大好きな新海監督作品『星を追う子』を見て、それなりに感動したというのに、やっぱり個人的には『プリンセス・トヨトミ』の方が面白かったとか思っていたりする。
 これは必然、やっぱアーティスト(この場合、役者さんや演出や脚本)とかが好きなんだろうなと思われる。

 だからといって、「演劇が好き」という方々、いらっしゃる。私の友人にもいます。年間100本くらい舞台を見てる。学生時代は演劇部でした、当然。役者やろうと思わなかったの、ときくと、演じることは高校生の頃で卒業して大学でもやってみようという気はなかったんだそうな。だけど芝居がすきで、見て、応援して、そういう子たちがメジャーになっていくのが楽しいらしい。売れない自分にバイトしている飲食店なんかに行ったりもして、話をしたり、チケット買ってやったり、、、という、ある種、物凄くエラい演劇ファンである。

 私なんか、もっと欲があってだめだなー。
 結局、自分は「演奏したい」というのがどっかにあるので、そこまでひとつのジャンルに時間とお金がかけられないのだ。

 だけど、「よいものは見たい」から、行く。もう重なってどんどん来ようが、どんどん行く。
 そのためのびんぼ生活だっていいんだもん。
 ……とまぁ、そっちの方の友人もいるからまぁ楽しいである。

                    ・・・
 ここんとこ、立て続けにバレエ、ミュージカル、ストレートプレイ(演劇)、と来て、どれもこれも大当たり。うわぁ幸せ、と思いつつ、本当ならそういう「凄い」ものって月1回くらいでいいんだよ。毎週見てると感激も受け取れるものも薄くなっちゃったり上書きされるのがとてもイヤなんで。…だけど仕方ない。どんどん来るし、それもどれもこれも一期一会。さらには、仕事でも行っちゃったりなんかするからね。

 バレエ=ABT(アメリカン・バレエ・シアター)である。『ドンキ』と『ロミオとジュリエット』。もちろん、後者を見た(前者もバレエ的には素晴らしい作品だが、ともかくプロコフィエフの音楽に乗って踊られる後者は、最高傑作だと思っているので、何度でも、いろんな公演を見る、、まぁ世界中で、ですね)。
 感想書くと本題にたどり着かないので、やめとく。ぶらっぼー、だった。
 演劇=太陽に灼かれて。これはまぁ前のアーティクルで書いた。
 コンサート=山ほどあり。ベルリン・フィルのコンサートマスターとして注目の日本人、樫本大進くん演奏するラロのスペイン協奏曲。N響さんとのツアー、これはまた面白かった(ちょいとご本人バテ気味のようでしたが)。上手くなったなぁ、と思い、聴くたびに成長していく音楽と人間に感動し、、、うるうる。嬉しいよぅ。

 さて、表題の「バッハ」である。

 最近、バッハの無伴奏パルティータとソナタ(全6曲で、ヴァイオリンとチェロにそれぞれある)を一気に演奏する人が結構増えてきた。特にここ2~3年は、まるで流行のように誰も彼もがやる。
 けれどもちろん、どんなヴァイオリニストでもチェリストでも、これを「演奏しない」という人なんぞいないし、一生舞台で弾かないってのは、よほどの変態か弦楽器弾き失格である。…というような、曲だ。

 前述の樫本くんも、一昨年の冬、帰国公演で挑戦し、素晴らしい成果を挙げた。
 今回は、イザベラ・ファウストというドイツ人の中堅どころ。私が彼女を知ったのは、ジャン=ギアン・ケラスを通じてであったが、ともかくもう素晴らしいの一言、というような演奏をする。
 本人はいたって気さくで、明るいおねーちゃん、という風情のドイツ女性で。ステージに立っても、演奏する直前まで笑顔を絶やさない。ごく自然にその場に立っている。
 だけど、曲のアウフタクトが始まった途端、すぅっとその場の空気が変わる……まさに、変わるというか変えるというか。そんな力を持ったヴァイオリニストは、私は何人も知らないが、彼女はまさしくその一人であろう。

 一日で6曲。これは体力も精神力も並大抵ではない。
 私は仕事の都合で、第二部=後半だけ聴いたのだが、時間の経つのを忘れた、なんていうことは、コンサートではほとんどない(たいてい、途中で絶対眠くなるの。どんな良い演奏でも、です、はい)。だけど、これはまるで物語のように、3曲がつむがれて、しかも、完璧なのである。

 貸与されているストラディヴァリウスを、なんとまぁバロック弓で演奏している。
 当然、奏法も古楽のテイストを取り入れたものだし、より音程の取り方もボウイングも困難である。だが彼女はそれを逆手に取って、素晴らしい演奏効果を上げていたし、あれほど自然に行われるものを見せられて、まさに「目が点」というのを実感した。

 実は、この日最後に演奏された、バッハのパルティータ第2番、の中の「シャコンヌ」だけを聴きに行ったのです、私。この曲は、単独で取り出して演奏されることも多い名曲で、でかい曲である。
 ここのところずっと研究していただけに、どんなことが行われているのかよくわかり、それだけに驚き…そうしてただ曲を受け取っていればよいと思った。
 アルペジオなんて、奇跡でしたよね~。会場の興奮と集中も凄かったし。。。あぁもう一度聴きたい、なんて思うことは、どんな演奏会でもめったにないのだけれども、そんな半日だったですよ。

 会場で逢った何人かのスキモノの皆さまがた。
 いいな、いいないいなぁ。8月はルツェルン音楽祭とザルツブルクっ! イタリアの音楽祭へ行ってるヤツもいれば、これからフランスよなんて人もいる。アメリカに稼ぎに行く(音楽祭とかで演奏するのだそうな)人もいれば。。。あぁみんな。いいわよいいわよ、日本から旅立っていってらっしゃい。
 あ、日本国内を旅だってる人もいたなぁ、それもいいなぁ。

 寂しくとーきょーでお仕事してます、私。バッハでも聴きながら。