"夜明け前"・1-04
夜明け前 -before dawn-
【プロローグ:西暦 2195年】
00 prologue・・・新入生
【第一章】(2007-06)
01 入寮
02 食堂01
03 食堂02
04 入学式
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【四.入学式】
島大介は、堂々としたものだった。
片目と顔を腫らしたそのまま壇上に上がり、近年稀にみる立派な答辞を述べ
て、在校生の代表(全員が揃ったわけではない――各クラスの代表だけが式に
は出るのだそうだ)たちと教官たちを唸らせた。
その後ろに並ぶ新入生一同――百余名。
新入生、総代――そうかこいつ。
進は改めて同室になったその相棒を見つめていた。
軍人なんかにはぜんっぜん似合いそうもない雰囲気のお坊ちゃまくんだが、
ただものじゃない、と思った。
そして食堂での一件以来、それがあっちの連中にも幅を利かせる結果になった。
総代の島っての、喧嘩も強いらしいぜ――
なかなかやるな――
全寮制のこの学校で、入学式を待たずに進と大介のコンビは有名人になって
しまった。
まったくありがたくないことに……進の“お嬢ちゃん”というニックネーム
もそのままに。
だがそれは古代進のまだ開花していない才能を助長することになる。
- ☆ -
「おー、いたいた」
何故かあれ以来、加藤三郎がまとわりついてくる。
殴られて、逆恨みするようなヤツでなかったのは幸いだが、鶴見二郎と2人、
クラスは違うくせに、しょっちゅう懐(なつ)きにくるのである。
訓練学校とはいえ、最初は普通の高校生と変わりはない。
寮での朝から時間割が決まっていることを除けば、少し専門性の高い専門学校と
いうところか。
入学したての彼らは、一般教養というべき高校および大学程度の科目の授業があった。
だが、午後になると少しそれらしい雰囲気がある。体力つくりのための基礎教練が
組み込まれ、これが1日目、2日目、と日を追うに従って急激に厳しくなっていく。
――体力ないとアウトだな。
(兄ちゃん、感謝だ)
進はそう思いながら激変した環境の中に、それでも馴染んでいく。
窓枠に寄りかかって加藤三郎が言う。
「なー、今夜、仲良いので歓迎会するからさ、お前らも来ない?」
部屋に集まってジュースで乾杯っていうわけ。
「おう、来いよ」
行くとも行かないとも返事をするまでもなく、勝手に決め付けられて。
ちぇ、なんだよ。
そう思いながらも結局、行くんだろうな、とそう思う進である。
- ☆ -
聞いてみたら加藤(こいつ)は二つ、年上だった。
高専に行ってたんだとかで。……飛行専門学校と航空大のくっついたみたいなやつ。
「今だったらさ。戦闘機の方が早かろ」
そんなことをお軽く言って、ひょひょうとしている。
真面目なのかふざけているのかわからないやつだ。
加藤の仲間――といってもここに来てからだけどさ――は見るからに体育会系
のやつが多い。皆、飛行機乗りか砲術志望で――島も聞いてみたらそうなんだ
と言っていたが、やつらとはちょっと雰囲気が違っていた。
「俺、航法もいいかなって思ってんだ。パイロットなら何でもいいんだ。
要するに宇宙に自分の手で飛んでいけるならね」
大介は言った。
ふうん…みんな、決まっているんだ。
進は少しびっくりする。
敵が憎い――父さん母さんを殺したあいつらが。
その、ギラギラする、吐き気に襲われそうな想いを外に出したことはないけれど。
それでも進の底には、そのなんだかわからないけれどもマグマのような衝動があって。
時々それに焼かれるような気がする――。
まだ、始まったばかり。
先は、長すぎる道のりのような気がした。
くしゃ、とコップをつぶす。
焦っても、仕方ない。――だけど。
- ☆ -
苦しかった1か月を忘れることなんかできない。
――今はこうやって、しているけど。
学校は雰囲気も悪くないし、いいやつが多いみたいだけど。
ぼくは――俺は。違うんだ。
戦うためだろう?
相手をぶっ殺すために、此処にいるんだろう? なぁ、そうじゃないのか!?
「――別にさ。すぐに決めることなんかないんじゃない」
加藤がやいやい言うので皆、告白大会みたいになっていたけれど、進が答え
ようとしないばかりかその会話に加わりもしないので、大介がそう言った。
「俺たち来たばっかりだろ。…まだ、わかんないじゃないか」
あ、加藤は違うんだろうけどさ。航空専門学校から転校ならさ、そう言って。
お、俺だってまだ、一般教養2年やっただけだし。そりゃ宇宙(そら)飛びてー
けどよ、その前に、あいつらやっつけないと話になんねぇ。
ふっと真面目な顔つきになって加藤もうそう言う。
その部屋にいたのは加藤三郎、鶴見二郎、吉岡英のほか、豊橋至(いたる)、
平田一(はじめ)。それに進と大介である。
皆、戦闘員志望なの? ふうん。
……そう言って大介は涼しい顔をしてジュースを口に運んだ。
案外マイペースなのな、こいつ。
進はその様子を見てちょっと驚いた。
自身は迷いもなく言い切るくせに。冷静なのか、慎重なのか――それとも。
あり得なそうだけど、日和見か?
静かだけどけっしてそれだけの男やつじゃない。
進は、同室がこいつでよかった、とその偶然と幸運に感謝した。
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【プロローグ:西暦 2195年】
00 prologue・・・新入生
【第一章】(2007-06)
01 入寮
02 食堂01
03 食堂02
04 入学式
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【四.入学式】
島大介は、堂々としたものだった。
片目と顔を腫らしたそのまま壇上に上がり、近年稀にみる立派な答辞を述べ
て、在校生の代表(全員が揃ったわけではない――各クラスの代表だけが式に
は出るのだそうだ)たちと教官たちを唸らせた。
その後ろに並ぶ新入生一同――百余名。
新入生、総代――そうかこいつ。
進は改めて同室になったその相棒を見つめていた。
軍人なんかにはぜんっぜん似合いそうもない雰囲気のお坊ちゃまくんだが、
ただものじゃない、と思った。
そして食堂での一件以来、それがあっちの連中にも幅を利かせる結果になった。
総代の島っての、喧嘩も強いらしいぜ――
なかなかやるな――
全寮制のこの学校で、入学式を待たずに進と大介のコンビは有名人になって
しまった。
まったくありがたくないことに……進の“お嬢ちゃん”というニックネーム
もそのままに。
だがそれは古代進のまだ開花していない才能を助長することになる。
- ☆ -
「おー、いたいた」
何故かあれ以来、加藤三郎がまとわりついてくる。
殴られて、逆恨みするようなヤツでなかったのは幸いだが、鶴見二郎と2人、
クラスは違うくせに、しょっちゅう懐(なつ)きにくるのである。
訓練学校とはいえ、最初は普通の高校生と変わりはない。
寮での朝から時間割が決まっていることを除けば、少し専門性の高い専門学校と
いうところか。
入学したての彼らは、一般教養というべき高校および大学程度の科目の授業があった。
だが、午後になると少しそれらしい雰囲気がある。体力つくりのための基礎教練が
組み込まれ、これが1日目、2日目、と日を追うに従って急激に厳しくなっていく。
――体力ないとアウトだな。
(兄ちゃん、感謝だ)
進はそう思いながら激変した環境の中に、それでも馴染んでいく。
窓枠に寄りかかって加藤三郎が言う。
「なー、今夜、仲良いので歓迎会するからさ、お前らも来ない?」
部屋に集まってジュースで乾杯っていうわけ。
「おう、来いよ」
行くとも行かないとも返事をするまでもなく、勝手に決め付けられて。
ちぇ、なんだよ。
そう思いながらも結局、行くんだろうな、とそう思う進である。
- ☆ -
聞いてみたら加藤(こいつ)は二つ、年上だった。
高専に行ってたんだとかで。……飛行専門学校と航空大のくっついたみたいなやつ。
「今だったらさ。戦闘機の方が早かろ」
そんなことをお軽く言って、ひょひょうとしている。
真面目なのかふざけているのかわからないやつだ。
加藤の仲間――といってもここに来てからだけどさ――は見るからに体育会系
のやつが多い。皆、飛行機乗りか砲術志望で――島も聞いてみたらそうなんだ
と言っていたが、やつらとはちょっと雰囲気が違っていた。
「俺、航法もいいかなって思ってんだ。パイロットなら何でもいいんだ。
要するに宇宙に自分の手で飛んでいけるならね」
大介は言った。
ふうん…みんな、決まっているんだ。
進は少しびっくりする。
敵が憎い――父さん母さんを殺したあいつらが。
その、ギラギラする、吐き気に襲われそうな想いを外に出したことはないけれど。
それでも進の底には、そのなんだかわからないけれどもマグマのような衝動があって。
時々それに焼かれるような気がする――。
まだ、始まったばかり。
先は、長すぎる道のりのような気がした。
くしゃ、とコップをつぶす。
焦っても、仕方ない。――だけど。
- ☆ -
苦しかった1か月を忘れることなんかできない。
――今はこうやって、しているけど。
学校は雰囲気も悪くないし、いいやつが多いみたいだけど。
ぼくは――俺は。違うんだ。
戦うためだろう?
相手をぶっ殺すために、此処にいるんだろう? なぁ、そうじゃないのか!?
「――別にさ。すぐに決めることなんかないんじゃない」
加藤がやいやい言うので皆、告白大会みたいになっていたけれど、進が答え
ようとしないばかりかその会話に加わりもしないので、大介がそう言った。
「俺たち来たばっかりだろ。…まだ、わかんないじゃないか」
あ、加藤は違うんだろうけどさ。航空専門学校から転校ならさ、そう言って。
お、俺だってまだ、一般教養2年やっただけだし。そりゃ宇宙(そら)飛びてー
けどよ、その前に、あいつらやっつけないと話になんねぇ。
ふっと真面目な顔つきになって加藤もうそう言う。
その部屋にいたのは加藤三郎、鶴見二郎、吉岡英のほか、豊橋至(いたる)、
平田一(はじめ)。それに進と大介である。
皆、戦闘員志望なの? ふうん。
……そう言って大介は涼しい顔をしてジュースを口に運んだ。
案外マイペースなのな、こいつ。
進はその様子を見てちょっと驚いた。
自身は迷いもなく言い切るくせに。冷静なのか、慎重なのか――それとも。
あり得なそうだけど、日和見か?
静かだけどけっしてそれだけの男やつじゃない。
進は、同室がこいつでよかった、とその偶然と幸運に感謝した。
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