「出発--ほんの少しのすれ違い」(1)
【はじめに】
「宇宙戦艦ヤマト」に興味のない方には、わからないオハナシかもしれません。基本、「ヤマト2」をベースにしたオリジナルの設定です。そういうのがイヤな方や受け入れにくい方はお読みにならないでください。
また、私の書いたものには珍しく、本編を標ぼうしていません。ストーリーは完全に別物で、【テレサが生還しています】。島大介とテレサのオハナシです。
なので、キャラ設定や、性格が、びみょーに本編と違いますが、まぁ違いをお楽しみいただければとも思います。
さらに、このタイトルへのTryの、個人的テーマ「甘いお題で甘くないお話」から離れ、このシリーズのみ、べた甘ですので、ご承知くださいませ。
詳細は、【こちら】をご覧ください。
ちなみに、【16. 懐かしい髪の記憶】(黄金の髪の記憶=4月)の続きです。・・・
= 5月 =
島大介が宇宙(そら)へ帰らなければならない日が近づいていた。
変だな。
普通なら、“宇宙(そら)に帰る”のは、お姫様=かぐや姫の方だろうに。
自分の思いつきにクスりと笑った大介だが、現実には余裕など無い。その余裕の無さが思わせた皮肉だったろうか。
そう考えて、ゾクりとした。
宇宙へ戻る(かえる)、だって? 冗談じゃない!!
その言葉に恐怖感すら感じる。
地上の生活にも慣れた、といえるのだろう。
一人で置いておいても大丈夫なようになったし、時折出かけていくご近所の商店街の皆さまとも親しくなったようだ。時々、驚くほどしたたかな面を見せるようにもなった。
だが、やはり。
テレサはいつも、官舎のあの部屋にいて――まるで夢のように其処に存在している。
大介には、その感覚が抜けない。
朝、出かける時や、仕事をしている間は忘れているのだが、帰宅時間になり、庁舎を出てから家にたどり着くまではやはり不安で、家路を急ぐのはいつものことだ。
消えてしまうことなどない――現れた時と同じように、ある日突然、消滅してしまうことなどあり得ない、とわかっているのに、(本当に、そうか?)と疑ってしまう自分が居る。だからいつも。帰って、その姿を見、腕にくるみこまなければ、安心できないのだ。
だが。
テレサの方はどうなのだろう?
閉じ込められるように此処に住んで、遠くへ出歩く自由もなく。
そうして俺に囲われるように過ごしていることに、不満や、不安はないのか?
それはまるで、テレザード(あのほし)に囚われていた頃と、同じなのではないのか。
大介は自問する。
だが、けっして、テレサ本人に聞くことはできない――と彼は感じていた。
頷かれたらどうしたらよいのだ。
それに対する答えが無かったからだ。テレサに“普通の生活”をさせるために、それは最低限守らなければならない決まりだった。外へ出し、自由に暮らすことや、一人解き放つことなど危なくてできはしなかった。彼女を列島から外へ出すことを、そこの支部へ移って暮らすことを考えなかったわけではない。たとえ金髪碧眼の人々の間に暮らしたとしても、その存在は異彩を放つだろうことは、大介には確信を持っていた。贔屓目ではない――自分ですら、一目で虜にしたほどの美貌と、なによりも特別のオーラ、市井のものではない雰囲気は、覆い隠すことはできないだろうと思われたから。
☆
「お前それさ、過保護」
酒保に珍しく飲みに行って、親友殿は椅子にのけぞるように凭れると、そう言ってがはは、と笑った。
「超過保護で、超らぶらぶ、ってこと。お前が目を離したくないだけなんじゃないの?」
この親友殿は、人の感情の機微に疎いとか、男女のことに関しては朴念仁だとか言われてのほほん、としているが、案外鋭い。--当たり前か。じゃなきゃ、いくら“伝説”の男だといっても、この若さで艦長なんてやってられるわけはない。しかも、年上も多い部下たちにも案外慕われているのだ。
この日は彼の婚約者であり、長官秘書でもある森ユキが、テレサに用事があるということで島の官舎に訪ねていくことになっていた。そういう布石もあって、ようやくの誘いに応じた大介なのである。……いやもしかしたら、この2人に乗せられただけなのかもしれなかったが。それでもいい、と彼は思うのだ。
「--だけどなぁ」ふぅっというような息を吐いて首を前に伸ばすと、大介は手酌で日本酒を口に運んだ。「――今日みたく、まだ“病院通い”しなきゃなんないんだぜ? 普通の女と一緒にできるかよ」と、ぶっきらぼうに、しかし棘は無く、大介は言って、やる気がなさそうに酒で喉を示した。
「病院ったって、検査だけだろ? もうなんともないさ」親友殿は、相変わらず能天気な顔をしてひゃっひゃ、と笑った。「だから。お前が過保護にしてると自立できねーぞ? そうやっていつまでもお姫様扱いしてるっての、どうよ?」
「うん……」
ぶすっとした顔のまま島は横を向く。
けっして不機嫌なわけではない。
古代進の思いやりもわかったし、心配も伝わってきた。ユキと2人して、どれだけフォローしてくれようとしているのかも身に染みているつもりだ。
要するに、自分の問題。
なのかもしれなかった。
「よぉ、島よ」
声の調子が違ったのでふと目を上げると、まっすぐな瞳が自分を見ていた。
「ん?」と顔上げて見返す。
「――あと、10日は無い。……わかっているよな」
こういう時、古代進は心中をわからせない。いや、言葉でなく、目と声音で語るともいえた。宇宙戦士の、軍人の、顔。その中にこもった心配の色が、何故か言われている方に罪悪感を持たせた。
「……わかってる。迷うわけじゃない」
大介はそう言って、言葉少なにまた酒を飲んだ。
ぽん、と肩に手が乗った。「……安心した」
だがその声は固い。あぁまた心配をかけているのだ、と大介は思い、そうしてまた彼女の黄金(きん)の髪を想った。
(2)へ続く
「宇宙戦艦ヤマト」に興味のない方には、わからないオハナシかもしれません。基本、「ヤマト2」をベースにしたオリジナルの設定です。そういうのがイヤな方や受け入れにくい方はお読みにならないでください。
また、私の書いたものには珍しく、本編を標ぼうしていません。ストーリーは完全に別物で、【テレサが生還しています】。島大介とテレサのオハナシです。
なので、キャラ設定や、性格が、びみょーに本編と違いますが、まぁ違いをお楽しみいただければとも思います。
さらに、このタイトルへのTryの、個人的テーマ「甘いお題で甘くないお話」から離れ、このシリーズのみ、べた甘ですので、ご承知くださいませ。
詳細は、【こちら】をご覧ください。
ちなみに、【16. 懐かしい髪の記憶】(黄金の髪の記憶=4月)の続きです。
= 5月 =
島大介が宇宙(そら)へ帰らなければならない日が近づいていた。
変だな。
普通なら、“宇宙(そら)に帰る”のは、お姫様=かぐや姫の方だろうに。
自分の思いつきにクスりと笑った大介だが、現実には余裕など無い。その余裕の無さが思わせた皮肉だったろうか。
そう考えて、ゾクりとした。
宇宙へ戻る(かえる)、だって? 冗談じゃない!!
その言葉に恐怖感すら感じる。
地上の生活にも慣れた、といえるのだろう。
一人で置いておいても大丈夫なようになったし、時折出かけていくご近所の商店街の皆さまとも親しくなったようだ。時々、驚くほどしたたかな面を見せるようにもなった。
だが、やはり。
テレサはいつも、官舎のあの部屋にいて――まるで夢のように其処に存在している。
大介には、その感覚が抜けない。
朝、出かける時や、仕事をしている間は忘れているのだが、帰宅時間になり、庁舎を出てから家にたどり着くまではやはり不安で、家路を急ぐのはいつものことだ。
消えてしまうことなどない――現れた時と同じように、ある日突然、消滅してしまうことなどあり得ない、とわかっているのに、(本当に、そうか?)と疑ってしまう自分が居る。だからいつも。帰って、その姿を見、腕にくるみこまなければ、安心できないのだ。
だが。
テレサの方はどうなのだろう?
閉じ込められるように此処に住んで、遠くへ出歩く自由もなく。
そうして俺に囲われるように過ごしていることに、不満や、不安はないのか?
それはまるで、テレザード(あのほし)に囚われていた頃と、同じなのではないのか。
大介は自問する。
だが、けっして、テレサ本人に聞くことはできない――と彼は感じていた。
頷かれたらどうしたらよいのだ。
それに対する答えが無かったからだ。テレサに“普通の生活”をさせるために、それは最低限守らなければならない決まりだった。外へ出し、自由に暮らすことや、一人解き放つことなど危なくてできはしなかった。彼女を列島から外へ出すことを、そこの支部へ移って暮らすことを考えなかったわけではない。たとえ金髪碧眼の人々の間に暮らしたとしても、その存在は異彩を放つだろうことは、大介には確信を持っていた。贔屓目ではない――自分ですら、一目で虜にしたほどの美貌と、なによりも特別のオーラ、市井のものではない雰囲気は、覆い隠すことはできないだろうと思われたから。
「お前それさ、過保護」
酒保に珍しく飲みに行って、親友殿は椅子にのけぞるように凭れると、そう言ってがはは、と笑った。
「超過保護で、超らぶらぶ、ってこと。お前が目を離したくないだけなんじゃないの?」
この親友殿は、人の感情の機微に疎いとか、男女のことに関しては朴念仁だとか言われてのほほん、としているが、案外鋭い。--当たり前か。じゃなきゃ、いくら“伝説”の男だといっても、この若さで艦長なんてやってられるわけはない。しかも、年上も多い部下たちにも案外慕われているのだ。
この日は彼の婚約者であり、長官秘書でもある森ユキが、テレサに用事があるということで島の官舎に訪ねていくことになっていた。そういう布石もあって、ようやくの誘いに応じた大介なのである。……いやもしかしたら、この2人に乗せられただけなのかもしれなかったが。それでもいい、と彼は思うのだ。
「--だけどなぁ」ふぅっというような息を吐いて首を前に伸ばすと、大介は手酌で日本酒を口に運んだ。「――今日みたく、まだ“病院通い”しなきゃなんないんだぜ? 普通の女と一緒にできるかよ」と、ぶっきらぼうに、しかし棘は無く、大介は言って、やる気がなさそうに酒で喉を示した。
「病院ったって、検査だけだろ? もうなんともないさ」親友殿は、相変わらず能天気な顔をしてひゃっひゃ、と笑った。「だから。お前が過保護にしてると自立できねーぞ? そうやっていつまでもお姫様扱いしてるっての、どうよ?」
「うん……」
ぶすっとした顔のまま島は横を向く。
けっして不機嫌なわけではない。
古代進の思いやりもわかったし、心配も伝わってきた。ユキと2人して、どれだけフォローしてくれようとしているのかも身に染みているつもりだ。
要するに、自分の問題。
なのかもしれなかった。
「よぉ、島よ」
声の調子が違ったのでふと目を上げると、まっすぐな瞳が自分を見ていた。
「ん?」と顔上げて見返す。
「――あと、10日は無い。……わかっているよな」
こういう時、古代進は心中をわからせない。いや、言葉でなく、目と声音で語るともいえた。宇宙戦士の、軍人の、顔。その中にこもった心配の色が、何故か言われている方に罪悪感を持たせた。
「……わかってる。迷うわけじゃない」
大介はそう言って、言葉少なにまた酒を飲んだ。
ぽん、と肩に手が乗った。「……安心した」
だがその声は固い。あぁまた心配をかけているのだ、と大介は思い、そうしてまた彼女の黄金(きん)の髪を想った。
(2)へ続く