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2012_01
19
(Thu)12:53

甘い二十>No.19【ほんの少しの行き違い】

注)パラレルE=テレサ生還編 です。
 通常の「新月ワールド」とはまったく異なりますので、ご了承ください。
 テレサが生きていて、島と暮らしています。詳細は、リンクの「島&テレサindex(ParaE)」からどうぞ。

 なお、このお話は、先般間違って作ってしまった「出発--ほんの少しのすれ違い」の続きです。

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19. 【ほんの少しの行き違い】

= 1 =

 「お前、新婚旅行とか行かないの?」
「はぁ?」
島は思わず喉に酒が詰まりそうになって、親友殿の顔を見返した。
「いま、なんて言った、お前」
 珍しく一緒勤務……というわけではなかったが、冥王星に寄港する時期が三日ほど重なって、古代進と酒保で呑んでいた。
 双方の乗務員同士は親しい者もいたので、今夜は小さな基地の街は賑やかかもしれないとそれぞれの艦長は思う。

 「し、新婚旅行って――俺たちまだ結婚してないぜ?」
島の返事はなんだか間抜けだと古代は思った。
「結婚してないったって、届出して一緒に住んでんだろ? 実質婚ていうか、あっち民族とかじゃ昔から当たり前だろ。日本民族だってむかぁし昔はそうだったし――」
そんなことぁ、わかってる!
 島は内心、なんだかおもしろくないことを指摘されたようで、むっとしていた。
 何故むっとするのか、あまり自覚はしてなかったのだが。

 「その前に、さっさと結婚しちまえよ。――戸籍なくたって式やって届出するのはできんだろ? 子どもでも出来たら、困るじゃないか、学校とか。いろいろ」
古代は飲んで気分が大きくなっているのか、最果ての星の解放感なのか、痛いところをどんどん付いてくる。「うるさい!」と突き放すには身近な話題すぎて、島はまたこくりと喉を鳴らした。
「--子どもってさ。そういやぁ、異星人との間に、子どもって作れんのか? バースコントロールとかしてんの?」急に興味津々、という目になって覗き込むのを、
「莫迦野郎っ!!」と引っぺがした。――顔が、赤いのが自分でもわかる。
「――て、彼女はっ。やっと地球に慣れ始めたとこだ。まだ、結婚だの、家庭だの、子どもだのって……」と言いかけて、本当にそうか? と自分突っ込みをした大介。
押し黙ったところを。
「ほぉら見ろ。自分だって気になってんじゃないか」
とさらに古代に言い募られて。
「うるっさいよ、お前。お前こそ、いったいいつまでユキを待たせるつもりなんだ」
矛先を相手に向けた。――攻撃は最大の防御なり。兵法の基本である。
案の定、目をぐりっと回した古代は、お、という感じで身を引き。
「卑怯だぞ、そういう論法は。――俺たちはい~んだよ。時期がきたらちゃんとすんだから。お前んとこはさ、ほら」特殊なんだから、とはさすがに口に出せない古代だ。

 で、なんで急に一足飛びに“新婚旅行”なんだ?
 と島が冷静に考えてみると--いやもうその頃は、いい加減両方とも酒が入っていて、ホテルが近いのと、矮星上の酔いやすさも手伝って、かなり良い気分である。
「……新婚旅行、じゃなくっても、な。どっか行くとかな、こもりっぱなし、じゃ、な」
と古代が言えば。
「うっせぃ。……俺、だってね。どっか行って、ゆっくりとか、したい、とか」
島もほろほろと話し。
その夜が深まる頃には、記憶のどこかにその会話が残るだけになっていた。


 (新婚旅行か――)
それはまぁあまり現実的でないとしても。
島にとっては“結婚”そのものもあまり現実味がない。
一生傍にいて、護ってやりたい。いや、護ったり包まれたり(互いに)し合おうというのがこの間の約束。「幸せ」というのは「仕合わせ」とも書くのだ。一人でなんとか“してあげる”ものではない、というのはこの任務に戻る前に思い知らされたことだ。
 古代とユキのを参考にさせてもらおう--。
 いつか無意識にそう感じていた。
 本来なら古代のお兄さん――守さんが一番相談するには最適な相手なのだが。なにせ、イスカンダルの彼方なので、相談しようがない。
……それに。スターシア女王とテレサ――2人を会わせるのは、考えただけで頭痛がする。
 異星人との、結婚。ねぇ……。

 島にとって、ふだんのテレサは、単に“愛しい女性”であるだけだ。どこの星の人だとか、地球人でないとかはあまり関係がない。そりゃ細かい文化や生理の違いはあるので戸惑うこともあるが、そばにいてくれれば普通に、人と人として生きていられるのだった。
 それに、あの特殊な能力と血液そのもの以外は、ほとんどホモサピエンス亜種といってもよいほどに近い。最初に調べたが“交尾もできる”--ということは、家庭を持つことも問題がない。その生殖や繁栄のシステムも、ほぼ地球型だとわかっている。これはガミラスがそうだったのだから、驚くには値しないだろう。一つあればもう一つあっても、さらにもっとあっても不思議ではないのだ。

 だが、文化慣習は、どうだろう。社会構造も異なる。
 島はその最も保守的なはずの官人=公務員であり、その社会の中にいる。
(結婚式もして、届も出すのが本来なんだな……)
彼はそう考えていた。
 だが。
 迷いがある――いいのか、俺で。
俺はもう、結婚してしまってもいいのか、彼女と?

 島の実家とはゆるりとした紹介、で済んでいる間柄だ。次郎は時々やって来ては、テレサと親交を深めているようだが、両親とはまだきちんと引き合わせてはいない。テレサにとっても“家族の一員”となるにはそれなりの儀式が必要で……それが“結婚”なのかなと島も思う――24歳。現実味がないといえば、ない。


 冥王星を出発するときに、官舎のテレサへ向けてメールを送った。
 惑星間宇宙艦からの私信は禁じられている。パッケージ通信という形での便りは送れたが、管理もされるし許可もいる。もちろん緊急時は可能――そうでない場合は不可。防衛軍の宇宙通信法に則っている。
 だからたいていは寄港した時の通信。宿舎の部屋や、街頭に設置してある通信BOXから直接画面に呼び出して話すこともできる。もちろん冥王星に着いてすぐ、時差なども計算してお話はした島であったが、出発間際の通信のあと、ふと思い立って文字通信を送ってみたのだ。
(届くのは丸一日後、なんだな)
 出発が予定より二日、早まっていた。
古代たちが先発した後、それと合流して途中まで同行、ということになったらしい。イレギュラーなことだが、ないわけではない。
「え~、お前と一緒か!?」「ありがたく思えよ? 宇宙海賊が最近ちょいと流行でな、あの宙域」
 しばらく海王星以遠を離れていた所為で、少々情報に疎くなっている。(もちろん官報で知らされる程度のことは知っていたが、知っていることと現実味を感じていることではずいぶんと違うのだ)
 狙われるとマズイから、日程も発表とは違うスケジュールで。さらには第10艦隊が護衛していくことになった--せめて最重要物資の運搬ラインの間だけでも。
 島がそれを知らされたのは冥王星に着いてからで、しかも出発の24時間前。
 「おう、そろそろ酒、おしまいだぞ」と古代に言われて居室に引き返した直後に、メッセージを受け取ったのである。
(さては古代、知ってやがったな……)
それはそうだろう。仕方のないことだが、ちょっと悔しい。まぁいいけど。


 そうして、島大介は再び艦上のひととなった。
 本来ならその二日後、地球へ向けて出発しているはずだが、再び海王星へ向けて。ジグザグ航路を取るのだという。
 惑星の公転の周期もあって、古代たちはかなり長い間、島の艦隊と同行するそうだ。
 冥王星はすぐに遠くなり、発信されたメッセージだけが地球へ向かった。

(続く)