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2006_07
31
(Mon)01:10

[tales/タイムカプセル・3]

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(3)

 「ユキ…」
ここん、とノックをした生活班長室に、森ユキはいた。
「来たのね……」
「ユキ…すまん」
島の口調がいつもとなんだか違う気がして、未祐はそれだけで何か不愉快な気持ちになる。もう生活班長は何が起こったか知っている口調だ。
それはそうだろう、古代チーフが告げ口しているだろうし、生活備品は毎日のようにデータを取り、計算して回しているはずだから。それがわからない自分ではない。バレないようにやっても、わずか1日だ。
 「貴女……棚橋未祐さん。航海班の」
「すまん――俺の監督不行き届きだ」
ふぅとため息をついて。その様子は憂いに満ちていてわざとでないとしたら、ズキンと憧れている男たちの心を揺さぶるには十分だ。
「島くんの責任じゃないわ――でも、なぜあんなところのキーロックが」
それぞれのセキュリティはかなり堅いものが設定されている。しかもリーダー自らカスタマイズしては、頻繁にパスワードを変えていく。特に備品の中でも食糧――生命を維持するための最重要事項、については艦長、生活班長と厨房チーフで生活班副班長の立場にある幕之内勉にしか知ることはできない仕組みだ。
 島ははっとした。
ふん、と棚橋は口の端で笑って。「そんなのわけないわ」と言った。
「棚橋はコンピュータの天才だ。……暗号を解除するのはゲームだと、以前…」
「ゲームにもならなかったわ。あんなんじゃだめなんじゃないの?」
ふふんとバカにしたような顔でユキを下から見上げるように見た。
 ユキとてオペレーターでコンピュータに関しては素人ではない。工作班や通信班のメンバーほどではないにしても。…ではこのは本当に。
「頭だけはいいんだ――だから、困る」
と島はため息をついた。



「島くん、それ。……班長の発言じゃないわ」
あ、と島大介ははっとした。つい。幼馴染で妹のような、そんな気持ちが蘇っていた。優秀だがどうしようもない――人付き合いができない。長じて訓練学校へ来るようになって、何度そう聞いただろうか。
それでもヤマトに選ばれているのだ。……極めて優秀なのだろう。
 「それで。何故あんなことを?」
ふん、とまた棚橋は表情をかたくなにして。
「理由なんて――ありませんよ」と言った。
 「いい加減にしろっ!」
島が再び、堪忍袋の尾を切らしたように、大きな声を出した。
「島くん……」
「いや。こいつには言ってもわからないんだ」
島はつい吾を忘れて未祐の制服の胸倉をつかんだ。
「…殴るの? 父さんと同じように? いいわよ、殴りなさいよ」
島はくっと顔を背けると、どん、とその手を離した。
未祐の体がふらついてユキの方へかしぐのをユキは支え、その頬を平手でパンパンと叩いた。頬が見る間に真っ赤に染まる。
 え、と驚く未祐と島。
「反省してないようね――貴女は何人かの、人の命に等しいものを奪った。悪戯では済まされないのよ」
ユキの初めて見る厳しい目だった。
「な…殴ったわね……」
未祐はユキの言うことを果たして聞いているのだろうか。
「あんただって同じだ――みんな、同じなんだ。航海長だって、私の言うことより、私が考えていることより、生活班長の方が大事なんだ。そうなんだ」
「…そういう問題じゃないだろう――少しは反省しないかっ」
戸惑いながらも島はまだ義務感にさいなまれている。
「……あたし。……私なんか」
殴られる――ということが何かの記憶を呼び覚ますのか、未祐は微かにカタカタと震えていた。
「……お話をしても無駄のようね。――仕方ありません。艦長に報告して、処分はまたお知らせします。航海長から指示もらってください」
いいわね、島くん、と合図して、島はあぁとうなずいた。
「殴った……私を……」
ほら行くぞ、という島の手を振り切って、未祐はそのまま艦内を駆け出していった。
「あ、棚橋……」
 残されて呆然としている島に、ユキは
「追わなくて大丈夫かしら」と言った。
「居住区の方へ行った。……思いつめて暴れたりはしないと思う」
「そう…」
そのユキの様子を島は見つめ返したが、ユキは目を上げて
「島くんこそ大丈夫なの」と言う。
「……あぁ。俺の責任だ、何とかするしかない」
「そんなに、何もかもかぶってしまわないで。いざという時は皆も頼ってね」
「ありがとう、ユキ」
 そう答えた島の笑顔を見たら、未祐はまた嫉妬しただろうか。また森ユキに対し悪意を持ったかもしれない。
そういう、心のつながりと思いやりを、どうにかして知ってもらえないだろうか。
――その未祐の生い立ちを思い返しながら、島大介は苦い想いをかみ締めていた。
古代が戻ってくる。報告を聞き、艦長に報告しなければ。
…処分は免れないだろう。そう思って。

to be continue...(4)

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