[First Contact:03]
【第一報・・・星の彼方より】(03)
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【第一報・・・星の彼方より】(03)
【前のお話】 (01) (02)
・・・
= 2 =
「……というわけで、あと3年。これも長く見積もってギリギリの時間なのです。地球のみならず
太陽圏そのものが、このカスケード・ブラックホールに呑み込まれ、消失してしまうのです」
壇の中央には、若い青年が声を高めて、力説していた。
パネルに映るのはその詳細データと軌道。そうしてそれぞれの計算。
「今、皆さんのPCにデータを流し込んでいます。……わかるだけ詳細な計算を行なってきました
が、まだ未確定の部分も多く、これは現在、科学局が総力を挙げて追及しています」
彼は真っ直ぐ目を上げた――その瞳の輝きと、よく通る声。面差しは意識すれば似ている、と
いう程度なのに、その意思の強い光と、声音。そうしてふとした動作が、亡くなった盟友を思い
起こさせて何度もハッと胸を突かれる四郎である。
島 次郎――現在、科学局官房室付き補佐官。宇宙情報科学者としても名を知られ、幅広い
知識と明敏な論旨を展開することで若年のうちから名を知られていた。だが彼を著名にしたのは
その本人の実績だけではない――その夭折した兄・島大介は、宇宙戦艦ヤマトの副長また航海士
として英雄であり、普遍の名を歴史に残しているのだ。
(真田さんの処に居たのか――)
加藤四郎にはその感慨がある。
居並ぶ辺境星域の面々。人数が多いわけではないが、実質この宙域の中枢を成す現場の実力者たち、有識者たちが集っていた。中にはヴィジホンで参加しているコロニーもあったが、その場合も代理は人間を送り込んできていた。
島自身に馳せていた想いを目の前の事態に引き戻す。横でも年配の武官――知己の隣の星を代表する一人がぐ、と拳を握り締めたのを感じた。
☆
島の話が終えたところで、咄嗟のこととて質疑もあまり出ない。沈黙が議会を支配した。
「――地球は、どうするつもりだ」
誰かが切羽詰ったように声を上げたのを、マイクは拾った。
「申し上げましたように、現在、最善の方法を探っているところです。――移民船団を組織し、第二の地球を探索し、移住を考える。それを最優先に…」
「――しかしっ! 何かほかに方法は無いのか。地球を失わずに済む方法がっ。避けるとか、地球自体を動かすとか、その、ブラックホールを何かをぶつけて重力を無効化し消失してしまうとか…」
声が大きくなり、その発した相手は立ち上がって苦悩の混じった声で島に対した。
同意のざわめきが覆い、それに島はそのまなざしを向ける。
「――全力を挙げて。……現在、研究中です。全科学者協議会が召集されたのはご存知ですね」「あぁ。報告を、受けた」「世界中だけではない――近隣の他の星にも情報を求めていますが、なにぶん太陽系は孤立している、といっても過言ではない。まだ有効な手段は得られていません」「銀河系中央方面は」「……なにも」
どさりとその男が座り込む気配があった。
「――イスカンダルやシャルバートの科学を引っ張りだしてもどうにもならんのか」
その声はどこから発したのだったか。はっとしたように島は、そして加藤もそちらを見た。
「全力を挙げている。申し上げた通りに……われわれ科学者はすべての機能をそこに集めて協議と研究を重ねています。真田長官を中心にプロジェクトを組み……私の役割は、此処へ来た目的は、最悪の場合を想定した時に、そこからでは遅いのです。間に合わない。地球総人口20億人を救う船団は、今からスタートしなければ間に合わない。なによりもまず社会的な認知、そうして移民船の建造、それと同時に移民先の選定。周辺区域にこそ、希望があると、長官も仰っておられる」
島次郎の真摯で、胸に響く声は、その場に沁み渡るようだった。
☆
「加藤司令――貴君はどう考える」
隣の席の男が低い声で話しかけた。
反対側の席に就いていた男もこちらを見る。2人共に武官、星や規模の違いはあっても、皆、加藤と同じような基地の要衝を占める立場である。
「……すぐには、なんとも。もっと情報を集めなければ」われわれは武官であって民意を代表することはできない。その中で、最善の方法を採るために、確かに。次郎くんの言う通り、早すぎるということは、ないのだ。
ざわめきは少しずつ大きくなるようだった。
「――第二の地球探し、は以前も一度行われました」
島の声がそれを制するように響いた。
「そうだ……地球全土から艦隊が発進し、そうして結局、見つけられなかった」
どこかからヤマト、という声が聞こえたのに、島も加藤も敏感に反応した。だがその囁きはすぐに消えた。
「現在は銀河系の状況そのものが違います。知己の植民惑星もあるわけですし、いくつか候補は上がっているのです。――こちらの星系ももちろん」
「だが、近すぎるのではないか」
島は頷いた。
「――影響がある可能性は大、です。少なくとも地球人類の勢力圏ではありますから」
「しかし、このココス星系では、20億もの人間を受け入れることはできない。自然も、厳しい。あるのも
人工的に植民されたものだけだ。宇宙暮らしをするのと変わらない忍耐と、能力が求められるのだぞ」
加藤は立ち上がって、そう言っていた。
島ははっとこちらを向くと、頷いて言った。一瞬、その目が加藤四郎自身を捉え、細められたのは、知己を見出した証拠であろう。
「もちろん承知の上です。候補があれば、お知らせいただきたい。状況も、データもです。それが私が参りました第二点の希望。第一点は、移民船団を組むことへの了承――そうしてこの星系――といっても広い。太陽系に接する側は影響を受けるでしょう。それへのご判断を、とも願っております」
★
「次郎くん」
通常の会議と異なり、解散が告げられた途端、あちこちでざわざわと人々が寄り集まり話し合うのが見えた。
その声はホールや通路に満ち、喧騒とでもいうべき音響になっている。
通路に出、演壇から下がってくる島を待ち構えて、加藤四郎は声をかけた。
「加藤さん――ご無沙汰をしております」
きっちりと足を揃えて礼をする。敬礼ではないのは彼は軍人ではないからだろう。
「――いらっしゃると思っていました」
「地球は……地球の様子はどうなんだ」
次郎は首を振り、「パニックにならないよう抑えるのになんとか成功している、というところでしょうか」
「君らの努力だろう」「……ならよいのですが」
このあと、我々は少し打ち合わせがあるが、そのあと、よければ時間が貰えるか。
島と、そのお付らしい2人(一人はおそらくSP、もう一人は技官だろう)に顔を向けて言うと、彼は後ろ
の2人と目顔で相談したあと、頷いた。
「私も少し此処の技術部とミーティングをしなければなりません。そのあとでよろしければご連絡ください。
私の方も……是非、お話したいことが」
「わかった」
その時、島は初めて加藤の後ろに緊張した顔で控えている少年を見た。
「大輔くん? もしかして」彼は加藤を見上げて言い、父は頷いた。
「あぁ――今回は業務でね。連れてきた」
「お聞きしていました。……予備役なんですってね。大きくなったなぁ」
顔を綻ばせると、大輔も少しだけ緊張をほぐしてニコりと笑った。
子どもの頃、遊んでもらった大好きなお兄ちゃんだった。だが、事態が事態だ。
それは双方ともに認識している。次の瞬間にはきっちり敬礼をして、頭を下げた。
「――」島も加藤を見ると、その意図を察して表情を引き締めた。
「また、ではのちほど」
(… (04) へ続く)
【前のお話】 (01) (02)
・・・
= 2 =
「……というわけで、あと3年。これも長く見積もってギリギリの時間なのです。地球のみならず
太陽圏そのものが、このカスケード・ブラックホールに呑み込まれ、消失してしまうのです」
壇の中央には、若い青年が声を高めて、力説していた。
パネルに映るのはその詳細データと軌道。そうしてそれぞれの計算。
「今、皆さんのPCにデータを流し込んでいます。……わかるだけ詳細な計算を行なってきました
が、まだ未確定の部分も多く、これは現在、科学局が総力を挙げて追及しています」
彼は真っ直ぐ目を上げた――その瞳の輝きと、よく通る声。面差しは意識すれば似ている、と
いう程度なのに、その意思の強い光と、声音。そうしてふとした動作が、亡くなった盟友を思い
起こさせて何度もハッと胸を突かれる四郎である。
島 次郎――現在、科学局官房室付き補佐官。宇宙情報科学者としても名を知られ、幅広い
知識と明敏な論旨を展開することで若年のうちから名を知られていた。だが彼を著名にしたのは
その本人の実績だけではない――その夭折した兄・島大介は、宇宙戦艦ヤマトの副長また航海士
として英雄であり、普遍の名を歴史に残しているのだ。
(真田さんの処に居たのか――)
加藤四郎にはその感慨がある。
居並ぶ辺境星域の面々。人数が多いわけではないが、実質この宙域の中枢を成す現場の実力者たち、有識者たちが集っていた。中にはヴィジホンで参加しているコロニーもあったが、その場合も代理は人間を送り込んできていた。
島自身に馳せていた想いを目の前の事態に引き戻す。横でも年配の武官――知己の隣の星を代表する一人がぐ、と拳を握り締めたのを感じた。
島の話が終えたところで、咄嗟のこととて質疑もあまり出ない。沈黙が議会を支配した。
「――地球は、どうするつもりだ」
誰かが切羽詰ったように声を上げたのを、マイクは拾った。
「申し上げましたように、現在、最善の方法を探っているところです。――移民船団を組織し、第二の地球を探索し、移住を考える。それを最優先に…」
「――しかしっ! 何かほかに方法は無いのか。地球を失わずに済む方法がっ。避けるとか、地球自体を動かすとか、その、ブラックホールを何かをぶつけて重力を無効化し消失してしまうとか…」
声が大きくなり、その発した相手は立ち上がって苦悩の混じった声で島に対した。
同意のざわめきが覆い、それに島はそのまなざしを向ける。
「――全力を挙げて。……現在、研究中です。全科学者協議会が召集されたのはご存知ですね」「あぁ。報告を、受けた」「世界中だけではない――近隣の他の星にも情報を求めていますが、なにぶん太陽系は孤立している、といっても過言ではない。まだ有効な手段は得られていません」「銀河系中央方面は」「……なにも」
どさりとその男が座り込む気配があった。
「――イスカンダルやシャルバートの科学を引っ張りだしてもどうにもならんのか」
その声はどこから発したのだったか。はっとしたように島は、そして加藤もそちらを見た。
「全力を挙げている。申し上げた通りに……われわれ科学者はすべての機能をそこに集めて協議と研究を重ねています。真田長官を中心にプロジェクトを組み……私の役割は、此処へ来た目的は、最悪の場合を想定した時に、そこからでは遅いのです。間に合わない。地球総人口20億人を救う船団は、今からスタートしなければ間に合わない。なによりもまず社会的な認知、そうして移民船の建造、それと同時に移民先の選定。周辺区域にこそ、希望があると、長官も仰っておられる」
島次郎の真摯で、胸に響く声は、その場に沁み渡るようだった。
「加藤司令――貴君はどう考える」
隣の席の男が低い声で話しかけた。
反対側の席に就いていた男もこちらを見る。2人共に武官、星や規模の違いはあっても、皆、加藤と同じような基地の要衝を占める立場である。
「……すぐには、なんとも。もっと情報を集めなければ」われわれは武官であって民意を代表することはできない。その中で、最善の方法を採るために、確かに。次郎くんの言う通り、早すぎるということは、ないのだ。
ざわめきは少しずつ大きくなるようだった。
「――第二の地球探し、は以前も一度行われました」
島の声がそれを制するように響いた。
「そうだ……地球全土から艦隊が発進し、そうして結局、見つけられなかった」
どこかからヤマト、という声が聞こえたのに、島も加藤も敏感に反応した。だがその囁きはすぐに消えた。
「現在は銀河系の状況そのものが違います。知己の植民惑星もあるわけですし、いくつか候補は上がっているのです。――こちらの星系ももちろん」
「だが、近すぎるのではないか」
島は頷いた。
「――影響がある可能性は大、です。少なくとも地球人類の勢力圏ではありますから」
「しかし、このココス星系では、20億もの人間を受け入れることはできない。自然も、厳しい。あるのも
人工的に植民されたものだけだ。宇宙暮らしをするのと変わらない忍耐と、能力が求められるのだぞ」
加藤は立ち上がって、そう言っていた。
島ははっとこちらを向くと、頷いて言った。一瞬、その目が加藤四郎自身を捉え、細められたのは、知己を見出した証拠であろう。
「もちろん承知の上です。候補があれば、お知らせいただきたい。状況も、データもです。それが私が参りました第二点の希望。第一点は、移民船団を組むことへの了承――そうしてこの星系――といっても広い。太陽系に接する側は影響を受けるでしょう。それへのご判断を、とも願っております」
「次郎くん」
通常の会議と異なり、解散が告げられた途端、あちこちでざわざわと人々が寄り集まり話し合うのが見えた。
その声はホールや通路に満ち、喧騒とでもいうべき音響になっている。
通路に出、演壇から下がってくる島を待ち構えて、加藤四郎は声をかけた。
「加藤さん――ご無沙汰をしております」
きっちりと足を揃えて礼をする。敬礼ではないのは彼は軍人ではないからだろう。
「――いらっしゃると思っていました」
「地球は……地球の様子はどうなんだ」
次郎は首を振り、「パニックにならないよう抑えるのになんとか成功している、というところでしょうか」
「君らの努力だろう」「……ならよいのですが」
このあと、我々は少し打ち合わせがあるが、そのあと、よければ時間が貰えるか。
島と、そのお付らしい2人(一人はおそらくSP、もう一人は技官だろう)に顔を向けて言うと、彼は後ろ
の2人と目顔で相談したあと、頷いた。
「私も少し此処の技術部とミーティングをしなければなりません。そのあとでよろしければご連絡ください。
私の方も……是非、お話したいことが」
「わかった」
その時、島は初めて加藤の後ろに緊張した顔で控えている少年を見た。
「大輔くん? もしかして」彼は加藤を見上げて言い、父は頷いた。
「あぁ――今回は業務でね。連れてきた」
「お聞きしていました。……予備役なんですってね。大きくなったなぁ」
顔を綻ばせると、大輔も少しだけ緊張をほぐしてニコりと笑った。
子どもの頃、遊んでもらった大好きなお兄ちゃんだった。だが、事態が事態だ。
それは双方ともに認識している。次の瞬間にはきっちり敬礼をして、頭を下げた。
「――」島も加藤を見ると、その意図を察して表情を引き締めた。
「また、ではのちほど」
(… (04) へ続く)