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2010_04
04
(Sun)23:00

[First contact:06]

【第一報・・・星の彼方より】(06)

 ・・・続きです。いよいよ地球へやって参りました。あと3章で、第一部終了(^.^)♪(予定・汗)・・・

【第一報・・・星の彼方より】(06)

【前のお話】 (01) (02) (03) (04) (05)

= 5 =
 入管のチェックは島についていけば外交官扱いなので簡単である。
ただし大輔の国籍は「ココス星系国家・惑星マーメイド」になっているので、正確には地球人
ではない。だからパスポートも持っている。

 「はい、滞在期限は未定、でよろしいですね」
「はい」そうカウンタで答えて大輔は前に立つ島を見た。
かすかに頷くのに明らかにホッとした表情を見せて、ぴし、と無意識に敬礼する。
 少年のきびきびした態度と、ひどくアンバランスな幼い様子に係官は少し目を綻ばせ、
はい、とチェックのスタンプを押して「――お役目、ご苦労さまです。善き滞在を」と言った。
また「はい」と明るく答える大輔である。

 真田志郎との再会はひどくスムーズだった。
パッケージ通信ですでに概要は送っていたものの、真田自身が島の到着と、大輔を伴うことを
知り心待ちにしていたからだ。
「大きくなったな」
真田はかしこまって長官室に入って来、礼儀に反するとは知りながらもきょろ、とあたりを
目だけで見回している少年に笑みを向けその大柄な胸に包み込んだ。
「もう立派な跡継ぎだ」
「――真田の小父さ……長官」
 大輔は父の大切なひと=師匠であり先任であり盟友・戦友でもあったその人に、小さい頃は
随分可愛がられた。出逢ったのは小学校に上がってからだったが好奇心旺盛だった彼は、
よく研究室にお邪魔しては何かといろいろ教えてもらったりもしていたのだ。
真田もまたその訪問を喜んでいた節がある。まだ10代だった島次郎と出会ったのも其処
で、この3人はこのような立場になる以前――昔馴染みといえばいえた。
 真田はふっと笑うと「真田さん、でいいさ」と言った。
懐かしさと遠い旅の果て、記憶に残る地球のあまりの変わりように戸惑いながら
「あの…」と口を次いで出るのに「しばらくは私の処に居るといい。官舎じゃ味気ないし
ホテルに放り込んでおくのも動きにくいからな」
「真田さん……」ホッとした顔をしたのは少年が正直だということなのだろう。
 島が「預かったのは私ですからうちでもいいかと思っていたんですけどね。長官が
そう仰るなら」
君はご家族と一緒だろ? 私は味気ない一人暮らしだからね。息子が出来たみたいで
嬉しいさ、といつもに似合わず軽口を叩いた。

 報告には大輔も立会い、その日、そのまま休む間もなく、島次郎は任務に戻り、真田も
多忙ではあったが大輔のために一旦自宅へ戻ることにした。

 真田の家は東京メガロポリスの中にある(正確にはドームの外れだ)。
帰れないことも多かったのだがその公舎は利便な場所にあり、一面を自然の息吹を感じ
られる場所に、もう一面のテラスからは近代的な町並み――軍中央本部タワーを一望に望むことができた。
――元ヤマトの乗組員たちは自然を好む傾向にある。人は減り、土地はさほど込み合っ
てはいない。真田のような地位にある者が場所や環境を選ぶのは容易なことだ。
郊外にも研究室付きの自宅を持っているそうだが(戦艦の飛ぶ宙港まで地下ケーブルが
走っているという噂があったが、まさかそれは冗談だろうと都市伝説になっていた)、
其処にこもるほどの時間がこの職務に就いてからはほとんど取れないでいるという。

 「真田さん――これ」
風呂や休む支度を整えようとする管理官に、
「あとは僕がやりますから」と大輔が引き取って2人になった。
大輔の家事の手際の良さに真田はほぉと感心する。
手馴れた仕草は、躾なのか幼年時代から軍属で側近を務めた慣れなのか。
ソファにくつろいだ真田に向かい、大輔は父からの手紙を渡し、傍らに包みを置いた。
 「――」真田は手紙を手に取って一読したあと、それを胸ポケットに仕舞い、そう
してテーブルの上に目をやった。
「……これ。あの……僕、明日にでも古代さんにお会いしたいんです。今、地球に
いらっしゃるんでしょうか。それとも、どこかに任務で出ておられますか? なら、
寄航されるのはいつですか」父親から託された包みを目の前に置いて、
「――真田さんに、とも思ったんですけれども。やっぱりこれ、古代さんに。でき
れば自分で届けたいと思って…」
そう言う大輔に真田はじっと見返すだけで何も言わなかった。
 「明日、お家を訪ねてみたいんですけど――場所。教えていただけますか? それ
とも軍本部へお訊ねした方がいいんでしょうか。取り次いで貰えなかったりして……お
忙しくて?」
そう言っても答えない真田に、大輔は首を傾げた。

 「――古代は、居ない」
え? と聞きとがめた大輔である。
「お留守、なんですか? やっぱり…」いや、と真田は首を振った。
「居ないんだ――地球にも。軍にも。もう1年ほど前に辞職して、現在は貨物船の
船長として、辺境へ出ている」「! 嘘でしょ!?」
「……本当だ」「まさかっ」
 あの、古代さんが?

 小さい頃はもう1人の父といってもよいほど優しい小父さんだったのだそうだ。
あまり覚えてはいないけれども、一家が州都に居た頃はよく行き来していた。
面倒見がよくて、子煩悩で。美雪ちゃんとは姉弟みたいに仲良かったんだよ。
私がすっ飛んでくのが商売だったから、よく古代の家に預けられてたんだよ、お前。
雪も忙しいからな、定時で戻ってくる古代の方が子どもの面倒見たり、食事作ったり
してたんだ。俺、雪が稼いでくれるんなら主夫になろうかななんて冗談言ってたく
らいだ。――母にそう聞かせられていた。
 それが――どうなったんだって?

 「自分の目で確かめてみるといい――連絡はしておく。いいな」
「……はい」
真田は古代の家の場所は明日教える。此処から遠くはないと言ったあと、今日は
ゆっくり休みなさい、疲れただろう? と優しい言葉をかけた。
 寝室へ大輔が引き取ったあとも、真田は久々の自宅のリビングの薄い明かりの中。
まだ少し残っていた酒のグラスを口に運んだ。
 その表情からは何も読み取れない。
 ただ、深い思索と沈黙が、そこにあった。時間が、ゆっくりと経っていった。


(…(07)へ続く)

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