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2010_04
07
(Wed)00:31

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【第一報・・・星の彼方より】(07)

・・・第5章 です。古代美雪、登場・・・

 「地球連邦図書館 宇宙の果て分室」第3回ブックフェアの
 「復活篇へのオマージュ」に、新作としてリンクいたしました。indexはそちらからどうぞ。
 掲載に連れてお読みいただけるようになりますので、ご了承ください。

 本編とはだいぶ違う話(解釈)かもしれません。内容はいじらないようにしたつもりですが
 お気に召さない方は、あらかじめ、避けてくださいね。どうぞよろしく。
【第一報・・・星の彼方より】(07)

【前のお話】 (01) (02) (03) (04) (05) (06)

= 6 =
 海辺に建つ瀟洒な家。個人の自宅としては大きい。あたりの静けさが住まう人の心を
表すようで、大輔の記憶に微かに残る官舎とは随分印象が違った。
 結局、古代家に用事があるという島次郎も同行することになり、むしろ大輔はそれに
随行するような格好である。真田と共に科学局へ出かけ、これでも航海士を専業とする
総合士官の端くれである大輔はどうしたいのか考えろと手の空いている者が案内をして
くれていた。
 昼間訪ねてもおそらく留守だろう――アポイントは取ってあると彼は言い、夕刻。
加藤大輔は島次郎に連れられて古代家を訪ねた。

 「お久しぶりです、古代さん」
入り口できっちりと礼をすると(島は軍人ではないので敬礼はしないのか、と大輔は
妙なことに感心した)、入り口の戸から中にいざなわれた。
足を踏み込むとそこに立つ人は驚きに目を見開いた――あぁ、きれいだな。やっぱり、
変わらないや。やっぱり憧れの女性ひと――ヤマトの、雪さんだ。
 「……まぁ、本当に、大ちゃん――大輔くんなの? あぁこれなのね、驚かすことが
ある、というのは」島次郎の方を向いて雪さん――古代雪はそう言って少し困ったよう
な顔をした。
 困ったのではないだろう。感情が胸に迫ったのだろうと島にはわかる。――俺も最初
は驚いたからだ。いまの大輔は、よく似てる―― 一度か二度、会ったことがあった、子
ども心にも元気な兄貴だったという印象のあったあの人、加藤三郎さんによく似ているのだ。
「――元気そうね? お父さんとお母さんはお元気? あらそうね、元気じゃなきゃ何
か連絡が来るはずですもんね」
慌てたのか彼女はそう言うと、ともかくあがってちょうだいな、と次郎と大輔を部屋へ入れた。
 大輔はきっちりと敬礼をし、15度角に上体を折った姿勢での(つまり正式な)礼を
すると、「失礼します」と言って靴を脱いだ。――少しはオトナになったということを
見てもらいたかったという(見得も)あったし。なによりも尊敬する、古代さんの家。
憧れた森雪さんが目の前にいる。

 加藤大輔は見れば見るほどその叔父である故・加藤三郎に似ていた。
もちろん表情などは豪放磊落だったその人に比べまだまだ幼いし、目元は親友である母・
佐々葉子によく似ている。時々いたずらっぽく光る目は葉子にそっくりだとも思う。
 涙ぐみそうになる自分に、雪は驚いた。……いけない。次郎くんの前だし。
夫が此処を去ってしまってからいろいろ気を張っている所為かしら。ちょっとしたことで
感情がザワつき気味なのを雪は自覚していた。
特に、優しかったり柔らかい感情に、弱い。懐かしさは――特にあの時代のことは、中でも
切なく。単純に懐かしみ喜べるものではないだけに、その感情の揺れは大きかった。

 「ご無沙汰しています。父と母からもよろしく、とのことでした」
両膝を揃え、ソファに浅く腰掛けてきっちりと頭を下げる大輔に、雪は微笑むと
「――もうしっかり軍人さんしてるのね。まだ幼年学校なんでしょ?」
そう言われると素直には頷きかねた。
「――ココスの法律きまり此処ちきゅうと違うんです。
もちろんまだ予備役ですが」
オトコノコらしい“矜持”が顔を覗かせて、雪はそれをも微笑ましいと思った。
 くつろいでくれ、と言い、雪の煎れてくれた温かいお茶を飲みながら3人は当たり障りの
無い話をした。互いの近況や、地球を出てからのこと。10年以上――とはいえ大輔はまだ
子どもで、雪と最後に逢ったのは地球を離れる時だからまだ小学生で。
ほとんど直接の記憶は無い。父や母から頻繁に聞かされていた思い出話が、大輔の中で記憶
として形作られ、それが目の前の人と像を結んで、そこにあった。
 次郎が何か話がある、といったのはおそらく大切なことなのだろう、と大輔は察している。
先ほどから一言もそれを気配に出さず、四方山話に徹しているのは、よほど切り出しにくい
ことなのかもしれなかった。
 この家のあるじ・古代進の不在――どことなくそれは室内に重くのしかかっているような
気がした。だがその存在はあちこちに感じられ、すぐにでもひょいとそこの扉を開けて
古代進本人が顔を出してもおかしくないような気がした。
「――ごめんなさいね。進さんは長い航海に出てしまっていて。辺境から辺境、なのでいつ
戻るかはわからないのよ。お会いしたらとても喜んだと思うのだけれど……」
雪がそう切り出したので大輔ははっと顔を上げた。
 「そのことなんですけど、古代さん――」
次郎が何か言おうとした時である。

 「ただいま~っ!」
玄関の方でパタパタ、という音がして、駆け込んでくる者がいる。
「ねーねー、今日ね。学校で……え?」玄関の靴で客に気づいたか、そこで声が止まり、
おずおずとリビングを覗き込むようにしてスラリとした可愛らしい姿が現れた。
 「お客さん…よね。あの、私」
「美雪ちゃんっ」ぴょん、という勢いで立ち上がったのは大輔だった。
彼女は顔に驚きの表情を貼り付けたままソファの2人を見た。
「――も、しかして。大ちゃん? ……加藤の家の」それに、島さんも。と急に懐かし
そうな笑顔が広がった。
「美雪、こっちへいらっしゃい」

 古代美雪と加藤大輔は幼馴染である。
年齢は美雪の方が一つ年上だが、州都にいる間は頻繁に両家のあいだに行き来があり、
2人はまだ幼くてあまり覚えていないにせよ、まるで姉弟のように過ごした時期がある。
大輔の母・葉子が現場仕事から離れられず、四郎が月とを往復していた時期。多忙とは
いえ本部勤務だった古代夫妻の家によく大輔は預けられていたのだ。もちろんハウス
キーパーやシッター付きではあったが。
 3歳と4歳。泊まりありの早期保育が始まるまでそれは続いた。
大輔の方には「きれいで元気なお姉ちゃん」という印象しかなくとも、子どもの1歳差
は思うより大きい。ましてや年上が女の子であれば、少女の方は相当にきちんとした
記憶があった。泣き虫でマザコンで、母親と離れる時はしょっ中泣きべそをかき、また
保育園でも何かというと「美雪ちゃ~ん」と泣きついてきた年下の弟のような相手を
忘れるわけはない。それでも結構お調子者で明るい大輔は良い遊び相手で、それに確か
にあの2人の息子だけに木登りや冒険など、外で体を使う遊びでは足手まといになると
いうこともなかった。
 実際はSPのつく立場である。さほど自由に遊びまわったわけではなかったろう。
だが記憶の中でそれらは鮮明で、子どもの頃の思い出として2人の中に残っている。
 最後に逢ったのは、いよいよ旅立つという宙港でのこと。小学校生だった彼は、心細
そうな顔をして母親の手にしがみついていた。だけどもうその生来の性質が覗いていた
のか、ぐっと唇を引き締め、泣くまいと――不安を呑み込もうとしていた懸命な顔を
覚えている。その、大輔が今、目の前にいる。

 「大ちゃん――いえ、加藤くん。貴方、もしかして」
唐突に美雪は大輔をまっすぐ見た。え? と笑顔を向けた途端、美雪の厳しい目に見返
されて戸惑う。「あなた、もしかして。――軍人なんかに、なったの?」
美雪! と母親がたしなめるのも聞かず、驚いて目を丸くした大輔は、それでもあぁと
頷いた。
「ココス星系宇宙防衛軍・マーメイド惑星分隊予備役、加藤大輔。……もっとも今は
休暇中だけど」淡々と大輔は答えた。それが現在の彼の正式身分なのだ。
美雪のきれいな眼がさらにきっと引き絞られた。
「軍人なんて――最低っ」
母親が止めるのも聴かず、ひらりと身を翻すと席を立った。
「ちょっと、出かけてくる」
 大輔は、それを見ると2人に目礼をしてさっと美雪を追った。玄関を飛び出した処を
「僕が追いかけますから――どうぞ、ご心配なく」そうだけ言って。

 それを見送った雪と次郎だったが、彼は頷くと「まぁ雪さん、座りませんか」と落ち
着いた声で言った。大輔はあれでも頼りになりますよ。任せて、僕の話を聞いてください。
 それはなにか重い予感を、雪に感じさせる声音だった。


(…(08)へ続く)

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