[tales/タイムカプセル・4]
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どんな動機かは知らないが、ヒステリーまがいに食糧の備蓄を宇宙へ流してしまった……その事実が生活班から外へ漏れることはなかったが、戦艦において生命を脅かす一級の重罪であることには変わりない。
島大介と森ユキの嘆願にもかかわらず、下された処罰は『監禁』――決して軽いものではない。8日間の営倉入り――これでも10日のものが2日減じられた……というのはヤマトは戦闘空域を航行しており、いつ緊急事態が発生するかわからないからだ。のんびり犯罪人を監視している余裕は、本当なら、ない。
それを告げた航海長の前でも、いまさらじたばたしたって仕方ないわね、という風で、ふんと横を向いただけ。
いくらかは事情説明を受けているのだろう戦闘機隊長――戦闘班副班長を(南部とともに)兼ねている加藤三郎が引き連れにきて、ヤマトにこんな場所があったのか、というような艦底に近い、艦尾の一室に閉じ込められた。とはいえ窓もあり、ビデオスクリーンやマイクロチップもあり、部屋から出られないことを除けば賓客と変わりない。
「入ってろ」
がしゃんと、戸が開けられ、扉を背にしてその小さな部屋に未祐は放り込まれた。
ふん、とせせらわらって。「そんなことしないわよ」
窓が通路に向かってついておりサブルームがある。食事はそこから受け渡されるらしい。「水はいつでも飲める。食事は担当者が戦闘で死なない限り届くが……少なくとも渇き死ぬ怖れはないな」と口の端で笑うのも人が悪い。
加藤というのは皮肉を言ったり意地悪な性格ではないのだが、さすがの古代や森の様子に彼自身キレる一歩手前だった。もともと正義感の強い男である。それを自分の我侭や子どもじみた所作で仲間の命を危険に晒すなんて信じられなかった。
未祐自身は、戦闘機隊の連中はさほど嫌いじゃない。イヤミがないし、難しいことは言わないし、口は乱暴だけど頭の良い人は尊敬してくれるから。女性にも優しい。中でもこの加藤隊長は、その代表みたいな男の人だ。だからそういう風に言われると、ちょっと、傷ついた。
「……棚橋」「なによ」「――班長たちは穏やかな連中だからあぁだけどな」「?」
「次、そんなことしでかしたら、俺が許さんぞ」
何を言うかと未祐は目を丸くした。
「戦いに出る人間にとって、大事なもの……それで命をつなぐものだ。お前がやったことで、この先、一人でも死んでみろ――俺は絶対に許さんからな」
たったあれだけのことで。
動作そのものはまるきりお遊びだった。
でも。
「遊びじゃないんだぞっ!」怒鳴られてひっ、と身を引く。がたがたと震えはじめて。
大きな声は苦手だ――いや。叩かないで……
頭を抱えて震え始めた。
加藤が驚いた。
「ど、どうした――」
未祐はがくがくと震えている。
「加藤っ。何やってる、早く来い」扉の外から声がして
「未祐っ、大丈夫か――加藤、何かしたのか?」
づかづかと入ってきたのは航海長だった。何かしたはないだろ、の加藤。
「い、いや…ちょっと説教して、、声、でかかった?」困ったような顔をしている。
「あぁそうか――お前知らなかったもんな」
島は未祐に向き直ると、
「棚橋、大丈夫だ。何でもないから……違うんだから、大丈夫だから」
抱きしめんばかりに肩に手を置いてそう言うのに、未祐はこくこくと頷いてやっと恐る恐る目を上げた。
どうなってんだ、ありゃぁ。
加藤が呆れたのも無理は無い。
「棚橋――ともかくここでじっくり反省しろ。このくらいで済んでめっけものだぞ」
まだ緊張が取れないまま、未祐は立ち上がった。
「一人にして……」「言われなくてもこれから8日間、一人だ」
顔を上げた目が怯えていた。
「い、いや……怖い」島の制服の袖を掴んでいた。
その肩をぽんぽんと叩いて、大丈夫だ、安心しろ、と笑ってみせる航海長。
「俺がいてやるわけにはいかないだろう? これは、罰なんだから」
またこくりと頷く。
加藤隊長はわけわかんない、というように肩をすくめると、「航海長、鍵閉めたいんですけどね」と言った。「あぁわかった」と島は言って「じゃぁ、棚橋。落ち着いて」
仕方なく、手をぶらんと落として、未祐は部屋の真ん中に立ち尽くした。
2人が出ていくのを、じっと心の中で見守って。
(あたしは悪くない――仕返ししただけじゃないか……)
そのまま、しばらく立ち尽くしていた。