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【第一報・・・星の彼方より】(10)
・・さて、第一部ですが、もう1本で終わりませんでした(_ _;)。いかんなぁ。
でももう終盤です。なぁんにも起こらなくてすみません(^_^;)・・
・・さて、第一部ですが、もう1本で終わりませんでした(_ _;)。いかんなぁ。
でももう終盤です。なぁんにも起こらなくてすみません(^_^;)・・
【第一報・・・星の彼方より】(10)
【前のお話】 (01) (02) (03) (04) (05) (06) (07) (08) (09)
= 9 =
現在の地球から見る空には、二つの月が浮いている。
昼は光のまぶしさに見えないが、夜になればくっきりと、少し欠けた月と――それに
並ぶように不思議な尾を引いた物体が、並んで浮いているのが見られた。
――アクエリアスの月。“アクエリアス・ルナ”と我々は呼んでいた。
それを大輔も聞いたことがある。そうなのだ――大輔は子どもの頃は月で育った。
両親とともに月基地に暮らし、時折そのアクエリアス・ルナのコロニーへ連れて
行かれたのだった。
だがそこに何があり、どんな人たちが居るのかは知らない。氷に閉ざされた星。
出ることも入ることもできない――何故か誰も手を出そうとしなかった其処へ今、
船は向かっている。
そうして、月を目指したのだった。
「覚えているかな。月基地の現在の司令は、徳川太助――お前のお父さんの
先輩で、ヤマトの機関士だった人だよ」
「徳川……太助さん」
「あぁそうだ」と真田は目をほころばせた。
★
「よくいらっしゃいました、長官!」
その徳川太助が、月基地司令、という名にはふさわしくないような格好でばたばた
と現れ二人を迎えた。それまで現場にいたのかもしれない。手にグローブ、服は
作業服のままだ。ただ肩口についた徽章と服の襟のラインや色が高い地位にあること
を示していた。
「――昨日、ルナから引き返されたばかりで。また地球からトンボ返りですか?
長官をお使い立てしたようになってしまって申し訳ないです」
「いや。頼まれものは船に積んできたし、書類も揃えた。自分で届けるさ」
「心強いです。……いくらかご相談したい部分も出てきましたしね」
と言って後ろの加藤大輔を気にするように見た。
大輔は真田のあとに続き、きっちりとした姿勢で立っている。
「――長官。まさか、この子」
ほほぅ、と真田は笑顔になる。「わかるか? そうだろうな」
わからいでか、と徳川は思う。見るからにそっくりな親子なのだ。加藤三郎に直接
知己のない彼が大輔を見て思うのはその父である加藤四郎に相違なかった。
「大輔。ご挨拶しなさい。――月基地総司令、徳川太助だ」
「はいっ。――ココス星系宇宙防衛軍・マーメイド惑星分隊予備役・加藤大輔です。
ご無沙汰いたしておりますっ」
ぴし、と敬礼してそう言うも、大輔には太助の記憶は無い。
ただ、赤ん坊の時に逢っているはずだったので――そう言ったまでだった。
徳川の顔が満面の笑顔になった。笑うと一気に“人の良いおじさん”という雰囲気
になる。そうかそうか、久しぶりだな、大きくなったなぁ。お父さんの跡を継いだんだ
ね、偉いぞ。そう言って、まるで小さい子にするように近づくと頭をわしわしと(と
いっても大輔は髪を刈り込んでいたので髪がくしゃくしゃになったわけではないが)
大きな手で撫で、豪快に笑った。――それで? この子をですか。と真田に問いかけ、
真田は頷いた。
「同行させても構わんだろうな」
「えぇもちろん。……お父上――加藤に報告を?」
いいや、と真田は首を振った。そうなるかどうかはわからんのだ。だけど大輔は
しばらく地球に居る、そうだな。はい、と大輔は頷いてまっすぐな目で太助を見た。
よし。この際、味方は何人でも居て悪いことはないさ。――あれもね、若い連中
が中心になって作っているんだ。大輔も興味があれば、参加してもいい。艦には
興味あるだろ? あぁ何科か専門を訊かなかったなと言って太助は真面目な表情に
なった。
意味がわからずきょとんとしたままの大輔は、だが最後の部分だけは答えなければ
ならないと思ったらしい。
「――まだ予備役なので、何ということはないんです。いちおうは航海士です。
でも俺は。古代さんみたいになりたい。砲術専門で、コスモタイガーに乗れて、
大型艦の操縦も出来て。それで父のようになれたら、と思ってます」
「加藤――現場のタイガー乗りであり猛将でありながら知将であれ、ってことかな。
……そういやヤツはエンジン関係も詳しかったな」
「イカルスで俺が仕込んだ。航宙機乗りで、あれだけ実際に機械いじれるヤツは
ほかに知らん――あの期は特別だ」
ふい、と徳川は笑った。「――ここに沢山居ますよ。また真田さん、同じこと
やってらっしゃる、ってわけだ」
「?」大輔には話が見えなかったが、艦があるのなら大歓迎だ。この手の少年の類に
漏れず、大輔は宇宙艦が好きである。もちろん航宙機も好きだったが、特に波動
エンジンには強い興味を持っていたといえる。
「最近のはECIが発達してるからな。それの専門職も必要になってくる、そろ
そろ……」
基地内を奥へ向かいながら2人は話し続けている。行き会う人たちが皆、敬礼し、
または話しかけて避けていくので、大輔はいまさらながらに地球のトップクラス
の人たちと居るのだという気持ちが沸いてきた。
それに、月基地そのものにも入るのは初めてだった。以前、両親が勤めていた
時代、何度も入っていたはずだが、そことは場所を異にする。
旧・月基地は現在、第二基地として此処からは少し離れた場所にあるのだ。地球
を背に、月の裏側。それは主として外宇宙からの飛来に備えた防衛拠点であ
り――それは加藤四郎たちの時代からそうであったのだ。
現在の月基地はむしろ地球や太陽圏の要となる何らかの目的を持つものだったろう。
それに、アクエリアス・ルナには至近だった。
★
昼食を基地内で摂り、その間に2人はいろいろな人と打ち合わせをしたり指示を
したりした。食後のお茶を飲んでいると、
「司令。長官――準備が出来ました。どうぞ」事務官らしき人が呼びに来て、3人は
また発着口へ向かった。どこへ向かうかは周知だった。理由はわからない――だが、
アクエリアス・ルナだろうと大輔には検討が付いていた。
そうして、真田がここの処“出張で詰めていた”先も其処なのだ。それは、真田
が“科学局長官としてではなく”、技術系科学者としての仕事をするだめだ――そう
なのだと大輔は思った。
宙に輝く星――自然の驚異と、人々の想いが作り上げた氷惑星。
アクエリアス・ルナへ彼は近づいていた。
(…(11)へ続く)
【前のお話】 (01) (02) (03) (04) (05) (06) (07) (08) (09)
= 9 =
現在の地球から見る空には、二つの月が浮いている。
昼は光のまぶしさに見えないが、夜になればくっきりと、少し欠けた月と――それに
並ぶように不思議な尾を引いた物体が、並んで浮いているのが見られた。
――アクエリアスの月。“アクエリアス・ルナ”と我々は呼んでいた。
それを大輔も聞いたことがある。そうなのだ――大輔は子どもの頃は月で育った。
両親とともに月基地に暮らし、時折そのアクエリアス・ルナのコロニーへ連れて
行かれたのだった。
だがそこに何があり、どんな人たちが居るのかは知らない。氷に閉ざされた星。
出ることも入ることもできない――何故か誰も手を出そうとしなかった其処へ今、
船は向かっている。
そうして、月を目指したのだった。
「覚えているかな。月基地の現在の司令は、徳川太助――お前のお父さんの
先輩で、ヤマトの機関士だった人だよ」
「徳川……太助さん」
「あぁそうだ」と真田は目をほころばせた。
「よくいらっしゃいました、長官!」
その徳川太助が、月基地司令、という名にはふさわしくないような格好でばたばた
と現れ二人を迎えた。それまで現場にいたのかもしれない。手にグローブ、服は
作業服のままだ。ただ肩口についた徽章と服の襟のラインや色が高い地位にあること
を示していた。
「――昨日、ルナから引き返されたばかりで。また地球からトンボ返りですか?
長官をお使い立てしたようになってしまって申し訳ないです」
「いや。頼まれものは船に積んできたし、書類も揃えた。自分で届けるさ」
「心強いです。……いくらかご相談したい部分も出てきましたしね」
と言って後ろの加藤大輔を気にするように見た。
大輔は真田のあとに続き、きっちりとした姿勢で立っている。
「――長官。まさか、この子」
ほほぅ、と真田は笑顔になる。「わかるか? そうだろうな」
わからいでか、と徳川は思う。見るからにそっくりな親子なのだ。加藤三郎に直接
知己のない彼が大輔を見て思うのはその父である加藤四郎に相違なかった。
「大輔。ご挨拶しなさい。――月基地総司令、徳川太助だ」
「はいっ。――ココス星系宇宙防衛軍・マーメイド惑星分隊予備役・加藤大輔です。
ご無沙汰いたしておりますっ」
ぴし、と敬礼してそう言うも、大輔には太助の記憶は無い。
ただ、赤ん坊の時に逢っているはずだったので――そう言ったまでだった。
徳川の顔が満面の笑顔になった。笑うと一気に“人の良いおじさん”という雰囲気
になる。そうかそうか、久しぶりだな、大きくなったなぁ。お父さんの跡を継いだんだ
ね、偉いぞ。そう言って、まるで小さい子にするように近づくと頭をわしわしと(と
いっても大輔は髪を刈り込んでいたので髪がくしゃくしゃになったわけではないが)
大きな手で撫で、豪快に笑った。――それで? この子をですか。と真田に問いかけ、
真田は頷いた。
「同行させても構わんだろうな」
「えぇもちろん。……お父上――加藤に報告を?」
いいや、と真田は首を振った。そうなるかどうかはわからんのだ。だけど大輔は
しばらく地球に居る、そうだな。はい、と大輔は頷いてまっすぐな目で太助を見た。
よし。この際、味方は何人でも居て悪いことはないさ。――あれもね、若い連中
が中心になって作っているんだ。大輔も興味があれば、参加してもいい。艦には
興味あるだろ? あぁ何科か専門を訊かなかったなと言って太助は真面目な表情に
なった。
意味がわからずきょとんとしたままの大輔は、だが最後の部分だけは答えなければ
ならないと思ったらしい。
「――まだ予備役なので、何ということはないんです。いちおうは航海士です。
でも俺は。古代さんみたいになりたい。砲術専門で、コスモタイガーに乗れて、
大型艦の操縦も出来て。それで父のようになれたら、と思ってます」
「加藤――現場のタイガー乗りであり猛将でありながら知将であれ、ってことかな。
……そういやヤツはエンジン関係も詳しかったな」
「イカルスで俺が仕込んだ。航宙機乗りで、あれだけ実際に機械いじれるヤツは
ほかに知らん――あの期は特別だ」
ふい、と徳川は笑った。「――ここに沢山居ますよ。また真田さん、同じこと
やってらっしゃる、ってわけだ」
「?」大輔には話が見えなかったが、艦があるのなら大歓迎だ。この手の少年の類に
漏れず、大輔は宇宙艦が好きである。もちろん航宙機も好きだったが、特に波動
エンジンには強い興味を持っていたといえる。
「最近のはECIが発達してるからな。それの専門職も必要になってくる、そろ
そろ……」
基地内を奥へ向かいながら2人は話し続けている。行き会う人たちが皆、敬礼し、
または話しかけて避けていくので、大輔はいまさらながらに地球のトップクラス
の人たちと居るのだという気持ちが沸いてきた。
それに、月基地そのものにも入るのは初めてだった。以前、両親が勤めていた
時代、何度も入っていたはずだが、そことは場所を異にする。
旧・月基地は現在、第二基地として此処からは少し離れた場所にあるのだ。地球
を背に、月の裏側。それは主として外宇宙からの飛来に備えた防衛拠点であ
り――それは加藤四郎たちの時代からそうであったのだ。
現在の月基地はむしろ地球や太陽圏の要となる何らかの目的を持つものだったろう。
それに、アクエリアス・ルナには至近だった。
昼食を基地内で摂り、その間に2人はいろいろな人と打ち合わせをしたり指示を
したりした。食後のお茶を飲んでいると、
「司令。長官――準備が出来ました。どうぞ」事務官らしき人が呼びに来て、3人は
また発着口へ向かった。どこへ向かうかは周知だった。理由はわからない――だが、
アクエリアス・ルナだろうと大輔には検討が付いていた。
そうして、真田がここの処“出張で詰めていた”先も其処なのだ。それは、真田
が“科学局長官としてではなく”、技術系科学者としての仕事をするだめだ――そう
なのだと大輔は思った。
宙に輝く星――自然の驚異と、人々の想いが作り上げた氷惑星。
アクエリアス・ルナへ彼は近づいていた。
(…(11)へ続く)