fc2ブログ
2011_05
21
(Sat)00:41

tit:龍の棲む15 [回天-開戦前夜]

 龍の棲む 【回天-開戦前夜】
= まえがき =
= 0 = 序章
= 1 = 戦闘空域へ
= 2 = ワープアウト
= 3 = 初陣
= 4 = 邂逅
= 5 = 救出・1
= 6 = 拉致
= 7 = 救出・2
= 8 = 救出・3
= 9 = 再び
= 10 = 作戦始動
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

= 10 =

 古代と古河たちは深層部から上へ上へと通路を辿っていった。
とはいえさほど深いわけではない。
層は4~5層で、むしろ横に広がり、この小さな惑星の岩盤を食い荒らしているように思えた。
 「天然の要害だな――」誰かがつぶやき、皆が無言で頷く。

 三叉路で頭上から攻撃を仕掛けられ、動きが取れなくなった。
窪みに身を潜め、銃撃で相手を倒していく。効果があるようである。
古代はなんとか自力で動いてはいたが、骨にヒビくらいは入っているだろうという感覚が上腕にあり、また背や肩の筋肉には見えない火傷や傷がある。
足を止められるのは正直ありがたく、はぁと苦しい息をついた。
手首に巻きついたままの縄は、まるで生きているもののように古代の手を締め付けている。あまり放置しているわけにもいかないのかもしれないが、現在(いま)は余裕が無い。
「――どこか折られたり目玉抉られたりはしてないみたいだな」
その様子に気づき、ユーモアさえ感じられる口調で古河が言って、古代は苦笑した。
「……手加減された、というところだろう」
「最初から殺すつもりもいたぶるつもりも無かったということさ」本気の拷問というのがどういうものかは、古河は身をもって知っている。またそれを古代もよくわかっていた。
――「聞き出すつもりはあったようだ。特に、俺の古い記憶に興味があるようでな」
古代は言う。
「……だから、お前なのか」古河は1人、納得するように頷いた。
(何が目的なのか――探り出さなくては。絶対に、だ)
古代はまた心の裡でつぶやく。それこそが、要であり、戦いの再発を防ぐ唯一の方法なのだ。

 「――守が来てるぞ」
古代は一瞬、表情を無にし、静かに言った。「そうか――初陣にしては気の利いた話だ」
その古代の声には何の感情も篭っていない。内心、どう思っていたとしてもだ。
彼が感情を開放するのは、すべてが終わって、彼(まもる)と無事に再会した時なのだろうと古河は思う。
「守とアリオスの任務は、お前――古代進を護ること。救うこと、なんだそうだ」
古代は微かに頷いた。――困難なことを。内心でつぶやく。
 「古河」
「――言いたいことはわかる」
俺たちの使命はそうではない。無事ここから脱出しても終わらない。
敵の正体を暴き、内戦を(内戦ならば、だが)鎮圧し、地球外の生命体と戦端を開くなどということがないというほどに収めなければならないのだ。
端緒は失敗した――不意打ちを喰らい、むしろ罠に落ちたかと思わせられた。
まだ真相にも到達していない。
 あいつらは、何者だ――?
 地球人なのか? それとも。

                ☆
 「それで。どうするんだ? ――付き合うぞ」
古河は古代に、当たり前のようにそう言った。
「あいつらは、帰ったか?」「いまごろ岩場に居る頃だ――そうだな?」と、古河。
「はい、CTに取り付いた模様」通信係が位置確認情報を報告する。
 古代は機械のスイッチを入れた。
「古代だ――」
数人いればいいだろう。近藤の技術と柴田の通信能力は欲しかったが、技術員も通信員も此処にもいる。
「私は大丈夫だ。早く艦へ戻り、発進準備をしろ」
古河はニヤリと笑い、ついて来た者たちは頷いた。
「――艦を乗っ取るのと、基地を占拠するのと。どちらが【正解】だろうな?」
悪戯っぽく目を上げると、古代は皆を見渡した。
もちろん、正体を暴くため――敵の首魁を拉致するためには、だ。

= 11 = へ続く)

コメント

コメントの投稿

非公開コメント

トラックバック