tit:龍の棲む16 [回天-開戦前夜]
龍の棲む 【回天-開戦前夜】
= まえがき =
= 0 = 序章
= 1 = 戦闘空域へ
= 2 = ワープアウト
= 3 = 初陣
= 4 = 邂逅
= 5 = 救出・1
= 6 = 拉致
= 7 = 救出・2
= 8 = 救出・3
= 9 = 再び
= 10 = 作戦始動
= 11 = 合流
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
= 11 =
中枢だと思われる処へ古代らは向かっている。
一行は5人。古河に付いてきた3人がそのまま作戦に加わる。皆、イサスのメンバーだった。
「何かデータが得られればいいんだろう?」
「それもだが」古代は息をつきながら進んでいた。
「――相手を、見たい。地球人が混じっているのは確かだが……」
古代は以前の戦いで“亜人”と呼ばれる人種に出逢ったことがあった。
言葉としては差別用語だろう。“人に似ており、人以下のもの”――この場合の「亜」にはそういう意味があったからだ。
(中央政府の考えそうなことだ)
古代はその時、彼らの文化を尊重することを願い、間に立って立ち回った。そうして彼らはこの太陽系宇宙を去り、そうして独立区を作っていまも暮らしている(*短編集「黒い月」07参照)。地球人類の前に姿を見せることはめったにない――それが互いの条件だった。
この宇宙にどのくらいの高等生物が存在するのだろうか。
――古代たちがヤマトで戦った相手は、図らずもほぼすべてがホモサピエンス型の人類亜種だった。
しかし、旅の途中で出会った植民惑星には、そうではない者たちもいた。タンパク質型生物がどの方向へ進化するのかは、天文学的数字の確率である。……人類は一つの種から生まれ、爆発的に広がった。
古代はそちらの説に傾いている。ガミラスも、イスカンダルも、シャルバートさえ、地球人類と同根のものだと思えたのだ。
だがこの小惑星に佇む兵隊たちは?
バイザーの上からだが明らかに小柄だった。頭が大きく体が細い。だが地球人もいた。
これはやはりどこかの勢力がどこかと結びついて地球連邦政府を圧迫しようとしているのか?
最初に立てた仮説のうち、一つが当てはまるのではないかと古代は考えている。
もう一つの可能性――。
「第三次星間戦争、なんてことにならねーように…」
自身の思考に入っていた古代は古河の声に我に返った。
「――気をつけろってことなんだろ? なぁ艦長」
古代は頷きも言葉を返しもしなかった。ガルマン=ガミラス帝国連邦は、この事態を察知しているのだろうか? 通称&防衛条約が結ばれてもはや17年が経過している。盟約は破られたことはない。
だが、自分亡き後、総統デスラーがどこまでそれを守るか保証の限りはないのだ。
そもそもの武力国家であるその帝国と我々。彼らが敵対しながら均衡を保っている相手との領域を侵すだけでも、どれほど危険なことか――この連中はわからないのだろうか?
★
「逃げ足の速ぇえやつらだな」
コントロール室と思われるところへ飛び込んだ古河が、
「来い。誰もいねーぞ」と隊員たちを呼び、その広く円形のドームに出た一行は、打ち捨てられた感のあるその施設に呆然とした。
「やっぱり、艦(ふね)か……」
「きれいに破棄していきやがったか」
く、と拳を握り締めるのに、反対側の入り口に気配があった。
一斉に構え、ボードの陰に体を潜ます。
「ここだっ、ここですよ。中央コントロール」
「おいっ、無茶苦茶飛び込むな。ガッコで何習ったろ、柴田ぁっ」
戸口から体を低くするでもなく、ガンを構えて飛び込んできたのは…。
「柴田っ! ……それに近藤。日向も、なにやってんだお前ら」
「か、艦長?」近藤が後ろから生真面目に顔を出し、
「へっへ~。お手伝いしますって」と柴田はヘロりと笑ってみせた。
雷が落ちる前に――とでも思ったのか、柴田は早速機械に取り付き、
「少しは何か残ってると思いますよ。俺、分析してデータに落として追いつきますから」
「艦へ戻れといったはずだ――」古代の声が響き、全員がぴくりとその凄みのある声に体をこわばらせた。
めったに聞く事のない、古代進が本当に怒った時の声。
その恐ろしさは見に沁みていたはずの部下たち、ではあるが。
「――命令違反は覚悟の上です。しかし、われわれも作戦の目的は存じてます」
これは日向である。
あのとき、日向が飛び降りたのを見た柴田と近藤も、そのままハッチを上げ、工作セットをひっつかんであとに続いてしまったのだ。
「捕まったの助けてもらったから、君たちは戻って」
救援隊員たちに言ったのは柴田である。「――僕ら、艦長と一緒に、作戦の方、担当するし」
おい、命令違反だぞと言う声も無視し、手を振って3人は元来た方へ走っていってしまい、仕方なくCT機と小型艇は飛び立ったのだ。
古代は瞑目した。――いまさら戻すのは時間の無駄だ。
そうして近藤と柴田の腕前と日向の能力は有難かった。
「罰はあとで考える。足手まといになるなよ」ホッとした空気が漂う。
だが部下たちの気合と技術を、心強いと感じているのも確かである。
★ ★
あまり時間をかけるわけにはいかない。経てば経つほど不利になるのは承知だ。
此処までの間に、相当数の敵(?)は倒していたが、エネルギーも無限ではなく、また相手がたがどのくらいいるのかもわからない。
地球人らしいリーダーたちを含む主力が艦(ふね)で逃げたのなら、離されないうちに追わなければならない。
もちろん宇宙空間へ飛び出せばアクエリアスもイサスもいる。守の艦隊も包囲しているためすぐに騒ぎが起きるはずだった。
――だが、なんとか潜り込めないか。
ふっと古代は笑った。
(ゲリラ、だよな。これって……)
司令だの提督だの呼ばれるようになり、しばらくこういった体を張った前線に出ることはなかった。
だが古代はまだ40代半ば。上陸作戦の参謀が出来ないほど衰えてはいないつもりだ。
どこかに血が騒ぐ自分がいる――それに反して頭の中はすーっとクールダウンしていくのだ。
戦闘班長時代……いつの間にかそれに還っている自分。
だがその頃と異なるのは、預かっている命の数だ。
作戦や戦いに――重いも軽いも、無い。
そう思わなければ莫迦莫迦しくて戦えないと思ったこともあった。……ヤマトの後(のち)は。
あたりの警戒を続けながら古代たちは近藤と柴田の作業の終了を待っている。
その間に古河と対の通信士はデータを探り、おおよその位置検討をつけていた。
「おい古代」
上陸作戦のチーフはどちらだろう? 古代は一瞬、そう思った。
古河は年齢としては一つ下、学年は繰り上げ卒業した自分たちにしてみれば二つ下。
わずかそれだけだが、古河の指示に従うことに何の痛痒も不安も感じない古代である。
つくづく自分はエラくはない、と笑う心境になる。
「どうした? 古代」
きょとんとした表情で見上げる古河に、なんでもないと告げ、
「艦の位置は?」と返す。
ぐちゃぐちゃとそれらしきものが沢山ある場所がある。もっと地下に下がっていった場所が、どうやら空洞惑星になっているようで、惑星下部から出入りできるのかもしれない、と言った。
ちょうど柴田と近藤が撤収しようとしているところだった。
「これ以上は……ムリです。艦に戻れば分析できますので、先に進めましょう」
そう言って古代たちの方へかけてきた途端、
「危ないっ!」日向が古代を押し倒し、柴田を引きずり倒し、あちこちから火花が上がった。
「いかん。爆発するぞ」「俺たちいじった所為?」
「まさか」「そうかもな」
暢気なこと言ってないで、走るぞ、と古代が言い、一行はばらばらと別の通路へ駆け込んだ。
(= 12 = へ続く)
= まえがき =
= 0 = 序章
= 1 = 戦闘空域へ
= 2 = ワープアウト
= 3 = 初陣
= 4 = 邂逅
= 5 = 救出・1
= 6 = 拉致
= 7 = 救出・2
= 8 = 救出・3
= 9 = 再び
= 10 = 作戦始動
= 11 = 合流
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
= 11 =
中枢だと思われる処へ古代らは向かっている。
一行は5人。古河に付いてきた3人がそのまま作戦に加わる。皆、イサスのメンバーだった。
「何かデータが得られればいいんだろう?」
「それもだが」古代は息をつきながら進んでいた。
「――相手を、見たい。地球人が混じっているのは確かだが……」
古代は以前の戦いで“亜人”と呼ばれる人種に出逢ったことがあった。
言葉としては差別用語だろう。“人に似ており、人以下のもの”――この場合の「亜」にはそういう意味があったからだ。
(中央政府の考えそうなことだ)
古代はその時、彼らの文化を尊重することを願い、間に立って立ち回った。そうして彼らはこの太陽系宇宙を去り、そうして独立区を作っていまも暮らしている(*短編集「黒い月」07参照)。地球人類の前に姿を見せることはめったにない――それが互いの条件だった。
この宇宙にどのくらいの高等生物が存在するのだろうか。
――古代たちがヤマトで戦った相手は、図らずもほぼすべてがホモサピエンス型の人類亜種だった。
しかし、旅の途中で出会った植民惑星には、そうではない者たちもいた。タンパク質型生物がどの方向へ進化するのかは、天文学的数字の確率である。……人類は一つの種から生まれ、爆発的に広がった。
古代はそちらの説に傾いている。ガミラスも、イスカンダルも、シャルバートさえ、地球人類と同根のものだと思えたのだ。
だがこの小惑星に佇む兵隊たちは?
バイザーの上からだが明らかに小柄だった。頭が大きく体が細い。だが地球人もいた。
これはやはりどこかの勢力がどこかと結びついて地球連邦政府を圧迫しようとしているのか?
最初に立てた仮説のうち、一つが当てはまるのではないかと古代は考えている。
もう一つの可能性――。
「第三次星間戦争、なんてことにならねーように…」
自身の思考に入っていた古代は古河の声に我に返った。
「――気をつけろってことなんだろ? なぁ艦長」
古代は頷きも言葉を返しもしなかった。ガルマン=ガミラス帝国連邦は、この事態を察知しているのだろうか? 通称&防衛条約が結ばれてもはや17年が経過している。盟約は破られたことはない。
だが、自分亡き後、総統デスラーがどこまでそれを守るか保証の限りはないのだ。
そもそもの武力国家であるその帝国と我々。彼らが敵対しながら均衡を保っている相手との領域を侵すだけでも、どれほど危険なことか――この連中はわからないのだろうか?
★
「逃げ足の速ぇえやつらだな」
コントロール室と思われるところへ飛び込んだ古河が、
「来い。誰もいねーぞ」と隊員たちを呼び、その広く円形のドームに出た一行は、打ち捨てられた感のあるその施設に呆然とした。
「やっぱり、艦(ふね)か……」
「きれいに破棄していきやがったか」
く、と拳を握り締めるのに、反対側の入り口に気配があった。
一斉に構え、ボードの陰に体を潜ます。
「ここだっ、ここですよ。中央コントロール」
「おいっ、無茶苦茶飛び込むな。ガッコで何習ったろ、柴田ぁっ」
戸口から体を低くするでもなく、ガンを構えて飛び込んできたのは…。
「柴田っ! ……それに近藤。日向も、なにやってんだお前ら」
「か、艦長?」近藤が後ろから生真面目に顔を出し、
「へっへ~。お手伝いしますって」と柴田はヘロりと笑ってみせた。
雷が落ちる前に――とでも思ったのか、柴田は早速機械に取り付き、
「少しは何か残ってると思いますよ。俺、分析してデータに落として追いつきますから」
「艦へ戻れといったはずだ――」古代の声が響き、全員がぴくりとその凄みのある声に体をこわばらせた。
めったに聞く事のない、古代進が本当に怒った時の声。
その恐ろしさは見に沁みていたはずの部下たち、ではあるが。
「――命令違反は覚悟の上です。しかし、われわれも作戦の目的は存じてます」
これは日向である。
あのとき、日向が飛び降りたのを見た柴田と近藤も、そのままハッチを上げ、工作セットをひっつかんであとに続いてしまったのだ。
「捕まったの助けてもらったから、君たちは戻って」
救援隊員たちに言ったのは柴田である。「――僕ら、艦長と一緒に、作戦の方、担当するし」
おい、命令違反だぞと言う声も無視し、手を振って3人は元来た方へ走っていってしまい、仕方なくCT機と小型艇は飛び立ったのだ。
古代は瞑目した。――いまさら戻すのは時間の無駄だ。
そうして近藤と柴田の腕前と日向の能力は有難かった。
「罰はあとで考える。足手まといになるなよ」ホッとした空気が漂う。
だが部下たちの気合と技術を、心強いと感じているのも確かである。
★ ★
あまり時間をかけるわけにはいかない。経てば経つほど不利になるのは承知だ。
此処までの間に、相当数の敵(?)は倒していたが、エネルギーも無限ではなく、また相手がたがどのくらいいるのかもわからない。
地球人らしいリーダーたちを含む主力が艦(ふね)で逃げたのなら、離されないうちに追わなければならない。
もちろん宇宙空間へ飛び出せばアクエリアスもイサスもいる。守の艦隊も包囲しているためすぐに騒ぎが起きるはずだった。
――だが、なんとか潜り込めないか。
ふっと古代は笑った。
(ゲリラ、だよな。これって……)
司令だの提督だの呼ばれるようになり、しばらくこういった体を張った前線に出ることはなかった。
だが古代はまだ40代半ば。上陸作戦の参謀が出来ないほど衰えてはいないつもりだ。
どこかに血が騒ぐ自分がいる――それに反して頭の中はすーっとクールダウンしていくのだ。
戦闘班長時代……いつの間にかそれに還っている自分。
だがその頃と異なるのは、預かっている命の数だ。
作戦や戦いに――重いも軽いも、無い。
そう思わなければ莫迦莫迦しくて戦えないと思ったこともあった。……ヤマトの後(のち)は。
あたりの警戒を続けながら古代たちは近藤と柴田の作業の終了を待っている。
その間に古河と対の通信士はデータを探り、おおよその位置検討をつけていた。
「おい古代」
上陸作戦のチーフはどちらだろう? 古代は一瞬、そう思った。
古河は年齢としては一つ下、学年は繰り上げ卒業した自分たちにしてみれば二つ下。
わずかそれだけだが、古河の指示に従うことに何の痛痒も不安も感じない古代である。
つくづく自分はエラくはない、と笑う心境になる。
「どうした? 古代」
きょとんとした表情で見上げる古河に、なんでもないと告げ、
「艦の位置は?」と返す。
ぐちゃぐちゃとそれらしきものが沢山ある場所がある。もっと地下に下がっていった場所が、どうやら空洞惑星になっているようで、惑星下部から出入りできるのかもしれない、と言った。
ちょうど柴田と近藤が撤収しようとしているところだった。
「これ以上は……ムリです。艦に戻れば分析できますので、先に進めましょう」
そう言って古代たちの方へかけてきた途端、
「危ないっ!」日向が古代を押し倒し、柴田を引きずり倒し、あちこちから火花が上がった。
「いかん。爆発するぞ」「俺たちいじった所為?」
「まさか」「そうかもな」
暢気なこと言ってないで、走るぞ、と古代が言い、一行はばらばらと別の通路へ駆け込んだ。
(= 12 = へ続く)