tit:龍の棲む22 [回天-開戦前夜]
龍の棲む 【回天-開戦前夜】
= 0 = 序章
= 1 = 戦闘空域へ
= 2 = ワープアウト
= 3 = 初陣
= 4 = 邂逅
= 5 = 救出・1
= 6 = 拉致
= 7 = 救出・2
= 8 = 救出・3
= 9 = 再び
= 10 = 作戦始動
= 11 = 合流
= 12 = 怪我
= 13 = 隠された宙港
= 14 = 潜行
= 15 = 突入
= 16 = 占拠
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
= 16 =
古代と日向は一筋の影のように艦橋に滑り込み、その位置を取った。
さっと艦長らしき男の背を襲う古代。その背後に航海士らしき者を押さえ込んで古代を守る位置に構える日向。
「そこまでだっ! お前たちの艦長の命が惜しければ、動くな」
同時にパッと明かりがつき、艦橋の者は一斉に動きを止めた。
「う、動くな。そのまま、手をパネルに付いて……この者どもの言う通りにしろ」
後ろを取られねじり上げられた男はそう大声を出した。
その場・この艦にいるのは地球人ばかりではない。
艦長が捉えられたからといってその状況を察して動ける者たちばかりではないのだ。
やつらは――命令されなければ動きを止めない。それは指揮を執る時に考えなければならないことだとこの男はわかっていた。
「――古代艦長、か」
「……そうだ」
背後を取っている男はそう答え、自分が拉致している相手を見た。
年齢はわかりにくい。だがグレーの瞳と地球人独特の、さらにいえば宇宙生活者か軍人独特のがっちりとした骨格は間違えようがなかった。
「――皆を後ろ向きにパネルに手を付かせろ。武器を捨てるんだ……航海士以外はな」
時間稼ぎのようにゆっくりと首をねじり、男が動こうとするのを古代はぐい、と肩甲骨に銃頭を入れてけん制した。
「動くなっ」
その声は微かだったが強い強制力を持っている。
「わ、わかった――皆、言うとおりにしろ」
がた、がたん、とあちこちで武器を置く音が聞こえた。
「艦長っ!」
日向が声を上げた方から1人が足元をすり抜けようとし、ガシャンと何者かに跳ね返された。
「艦長、遅くなりました」
艦橋の外から近藤と柴田が入って来、出ていこうとした亜人をつまみあげるようにして腕をねじり上げた。
「――遅い」日向が言い、「お前に言われたくないわ」と近藤に返され、「おう、代わるぞ」と柴田が言って操縦席から航海士を蹴り倒し、自分がそこに着く。
柴田は片端から乗員たちを拘束して周り、艦橋が一通り収まったところで日向は古代の傍へ来た。
「……温度を……上げてくれ。明かりと――こいつらが死んでしまう」
その男が搾り出すように顔を上げて古代に言った。
艦内の明かりは暗いままで、パネルに写る外には接近する敵艦隊――この場合、古代たちにしてみれば救援隊、が形を現し始めていた。
だが回りに囲む自艦隊は戸惑うような動きを見せており、旗艦を囲んだまま逡巡している。
亜人たちは温度が下がると冬眠のような状態になり身体機能が極端に低下するらしいことがわかった。
ただこき使っている、というわけではないらしいとそこからも推測できる。
古代は返事をせず、指示も出していない。ただ、その事実を脳裏に刻んだ。
ついに、通信が飛び込んだ――しかも、双方向からだ。
「近藤、代わって!」
柴田が操縦桿を渡し、通信パネルに張り付く。
「できるか、柴田――しばらく、俺たちはこの艦隊の旗艦をやるぞ」
「りょう、かいっ!」少し嬉しそうに、後ろを向いたまま柴田はコードの解析を始めていた。
「古代艦長! 温度を!! 艦内温度を上げてくれ」
まだ古代は椅子に拘束した男に油断無く銃を付きつけていた。
「――よし、日向。ここの指揮はお前に任せる。ボイラー係は?」
「拘束して別室に放り込んで来ましたが、1人手不足ですねぇ」艦内を動き回る担当がほしいというところだろう。
「俺、行きましょうか?」近藤が言うと、古代は頷いた。
「――わかっているな?」「はい」
☆
その艦は一時的にふらふらとスピードを落とし、停止するかのような動きを見せたが、また突然に力強く前進しはじめた。
「艇長――あの艦に、古代司令がおられるのでしょうか?」
「うむ……」守は腕組みをしたまま前のパネルに写る、敵艦隊背後の旗艦を睨む。
『……古代艇長――戦闘、開始していいか』
古河からの入電だった。
「CTで出られますか?」
『準備、OKだ』
「よし――先行してください。アリオスも、前進っ」
アリオス艦とイサスが先行し、そこからCTの中隊が発進した。
『古代艦長は旗艦にいる――状況がわからない間は、まわりを崩すしかねぇぞ』
「承知です――攻撃隊、行くぞ。――最後尾の旗艦は攻撃しない。周りを崩す」
古代守艇長の作戦により、戦いの火蓋は切って落とされた。
(= 17 = へ続く)
= 0 = 序章
= 1 = 戦闘空域へ
= 2 = ワープアウト
= 3 = 初陣
= 4 = 邂逅
= 5 = 救出・1
= 6 = 拉致
= 7 = 救出・2
= 8 = 救出・3
= 9 = 再び
= 10 = 作戦始動
= 11 = 合流
= 12 = 怪我
= 13 = 隠された宙港
= 14 = 潜行
= 15 = 突入
= 16 = 占拠
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
= 16 =
古代と日向は一筋の影のように艦橋に滑り込み、その位置を取った。
さっと艦長らしき男の背を襲う古代。その背後に航海士らしき者を押さえ込んで古代を守る位置に構える日向。
「そこまでだっ! お前たちの艦長の命が惜しければ、動くな」
同時にパッと明かりがつき、艦橋の者は一斉に動きを止めた。
「う、動くな。そのまま、手をパネルに付いて……この者どもの言う通りにしろ」
後ろを取られねじり上げられた男はそう大声を出した。
その場・この艦にいるのは地球人ばかりではない。
艦長が捉えられたからといってその状況を察して動ける者たちばかりではないのだ。
やつらは――命令されなければ動きを止めない。それは指揮を執る時に考えなければならないことだとこの男はわかっていた。
「――古代艦長、か」
「……そうだ」
背後を取っている男はそう答え、自分が拉致している相手を見た。
年齢はわかりにくい。だがグレーの瞳と地球人独特の、さらにいえば宇宙生活者か軍人独特のがっちりとした骨格は間違えようがなかった。
「――皆を後ろ向きにパネルに手を付かせろ。武器を捨てるんだ……航海士以外はな」
時間稼ぎのようにゆっくりと首をねじり、男が動こうとするのを古代はぐい、と肩甲骨に銃頭を入れてけん制した。
「動くなっ」
その声は微かだったが強い強制力を持っている。
「わ、わかった――皆、言うとおりにしろ」
がた、がたん、とあちこちで武器を置く音が聞こえた。
「艦長っ!」
日向が声を上げた方から1人が足元をすり抜けようとし、ガシャンと何者かに跳ね返された。
「艦長、遅くなりました」
艦橋の外から近藤と柴田が入って来、出ていこうとした亜人をつまみあげるようにして腕をねじり上げた。
「――遅い」日向が言い、「お前に言われたくないわ」と近藤に返され、「おう、代わるぞ」と柴田が言って操縦席から航海士を蹴り倒し、自分がそこに着く。
柴田は片端から乗員たちを拘束して周り、艦橋が一通り収まったところで日向は古代の傍へ来た。
「……温度を……上げてくれ。明かりと――こいつらが死んでしまう」
その男が搾り出すように顔を上げて古代に言った。
艦内の明かりは暗いままで、パネルに写る外には接近する敵艦隊――この場合、古代たちにしてみれば救援隊、が形を現し始めていた。
だが回りに囲む自艦隊は戸惑うような動きを見せており、旗艦を囲んだまま逡巡している。
亜人たちは温度が下がると冬眠のような状態になり身体機能が極端に低下するらしいことがわかった。
ただこき使っている、というわけではないらしいとそこからも推測できる。
古代は返事をせず、指示も出していない。ただ、その事実を脳裏に刻んだ。
ついに、通信が飛び込んだ――しかも、双方向からだ。
「近藤、代わって!」
柴田が操縦桿を渡し、通信パネルに張り付く。
「できるか、柴田――しばらく、俺たちはこの艦隊の旗艦をやるぞ」
「りょう、かいっ!」少し嬉しそうに、後ろを向いたまま柴田はコードの解析を始めていた。
「古代艦長! 温度を!! 艦内温度を上げてくれ」
まだ古代は椅子に拘束した男に油断無く銃を付きつけていた。
「――よし、日向。ここの指揮はお前に任せる。ボイラー係は?」
「拘束して別室に放り込んで来ましたが、1人手不足ですねぇ」艦内を動き回る担当がほしいというところだろう。
「俺、行きましょうか?」近藤が言うと、古代は頷いた。
「――わかっているな?」「はい」
☆
その艦は一時的にふらふらとスピードを落とし、停止するかのような動きを見せたが、また突然に力強く前進しはじめた。
「艇長――あの艦に、古代司令がおられるのでしょうか?」
「うむ……」守は腕組みをしたまま前のパネルに写る、敵艦隊背後の旗艦を睨む。
『……古代艇長――戦闘、開始していいか』
古河からの入電だった。
「CTで出られますか?」
『準備、OKだ』
「よし――先行してください。アリオスも、前進っ」
アリオス艦とイサスが先行し、そこからCTの中隊が発進した。
『古代艦長は旗艦にいる――状況がわからない間は、まわりを崩すしかねぇぞ』
「承知です――攻撃隊、行くぞ。――最後尾の旗艦は攻撃しない。周りを崩す」
古代守艇長の作戦により、戦いの火蓋は切って落とされた。
(= 17 = へ続く)