tit:龍の棲む23 [回天-開戦前夜]
龍の棲む 【回天-開戦前夜】
= 0 = 序章
= 1 = 戦闘空域へ
= 2 = ワープアウト
= 3 = 初陣
= 4 = 邂逅
= 5 = 救出・1
= 6 = 拉致
= 7 = 救出・2
= 8 = 救出・3
= 9 = 再び
= 10 = 作戦始動
= 11 = 合流
= 12 = 怪我
= 13 = 隠された宙港
= 14 = 潜行
= 15 = 突入
= 16 = 占拠
= 17 = 過去
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
= 17 =
「やっぱりそうだったか――」
パネルから目を上げた柴田がそう言って、「艦長」と古代を見た。
うむ、とうなずく古代が目を通し、近藤を呼ぶ。
艦橋には現在、地球側の人間とリーダーらしき艦長しかいない。
その男は椅子に拘束され電子錠をかけられてあった。
「お前たち、何故……」
そのつぶやきを耳にすると古代は、パネルから離れて艦長席横に拘束されている男に近づいた。
「名前は」
かがみこむようにして見る古代に
「答えるとでも?」と見返す男。
じっと見返す古代は頷いた。「あぁ……思うね」
「莫迦に、するな」
ぐい、と古代は顎に手をかけその男の顔をまっすぐ見た。
「“ミトプロートス”……」男の表情が変わる。
「な、何故その名を……」
「貴方の元の艦ですね、ロデム艦長――いや、元艦長、というべきか」
彼はぐっと詰まると唇をわなわなと震わせ、目を見開いた。
「――ヤマトの古代……お前は、超能力でも使うのか」
「ふっ、まさか」古代は微かに自嘲気味に笑う。「資料を見ただけですよ。
そもそも、最初から私は予測していた――いったいどうして、とね」
古代の言葉には若干の“はったり”がある。
実際に古代に与えられていた情報は多くはなく、いくつかの可能性として示唆されていたに過ぎない。
ミトプロートスの事故と“星の石事件”(テロリズムによる民間人の犠牲と軍艦の大事故)は辺境で起こったため一般には知られていなかったが、軍の一部では重要な事件で、それ以降、死亡したり行方不明になった者の中にはある種の志向を持つ者が多かったといわれている。
「まさか、貴方が“星の石(Star Stone)”の一員とは思いませんでしたが――亡くなられたとばかり聞かされていましたからね、ロデム元艦長」
「――そのような名は、忘れた」
一気に肩を落として彼は言う。
「――それで、どうしようというのかね」
複雑な背景はどうでもよい。古代の任務は、ただひとつだった。
「――開戦を、阻止する」
腕を後ろに組み、まっすぐに瞳を射抜いて古代進は言った。
一瞬、それに射抜かれたようにみえたロデムは、顔をそむけると、今度はくっくく、と笑い始めた。
「私たちだけを捕まえても仕方ない、とは思わんのかな? 古代――この、地球人の敵(かたき)に魂を売った、売国奴」
口調が変わり、周りの部下たちの方がいきり立った。
「止せ!」古代が静止の手を上げる――当然。戦いはすでに始まっており、古代とロデムが会話を続けている間も、日向の指揮で、この艦は指揮艦としての動きを続けていた。
★
近藤が艦橋へ滑り込んできた。
「中、まだうようよしてます。皆、気づき始めたらやっかいです」
わかっている、と古代は頷いて、近藤に示唆し、彼は頷いた。
「司令――この先、どうしますか? イサスやアリオスと、ぶち当たります」
困惑したような柴田の声がし、日向はそれでも、よくやっていた。
「だましながらいけ……ぎりぎりまで、この艦は、敵方の艦だ」
振り返りもせず古代は無茶な要求を部下たちにする。
「――息子さん……守さんが可哀相じゃないですか。早く、ご連絡された方が」
「艦隊も混乱します――被害が、増えますよっ」これは柴田。
それには答えず、古代は近藤に向いた。
「どうだ? 行けそうか?」
黙ってうす暗がりの中で、パネルに向かってあれこれいじったり立ち働いたり真剣に動く彼は、すでにボイラー室でひと作業して戻ったあと、先ほどから他の者と組せずに何かを進めているのだ。
「――もう、少し……」
「どのくらいだ」古代が問う。
「あと、5分……いや、3分」
3分だな。
そう言うと、古代は声にニヤりとした色を含ませて日向に命じた。
「あと3分。保て――そのあと、反転・急上昇するぞ。……柴田っ」
「は、はいっ」
操縦、準備しとけよ、と言い、また古代はロデムに向き直った。
「いかがですか? 自分の艦が人の手中に納まる気分は――」
古代の声には皮肉がにじんでいたかもしれない。
彼は何度かそういう想いをし、潜り抜けてきた。
「自分の艦? ふ、」ロデムがはき捨てるように笑った。古代の表情は動かなかった。
(= 17 = 後半 に続く)
= 0 = 序章
= 1 = 戦闘空域へ
= 2 = ワープアウト
= 3 = 初陣
= 4 = 邂逅
= 5 = 救出・1
= 6 = 拉致
= 7 = 救出・2
= 8 = 救出・3
= 9 = 再び
= 10 = 作戦始動
= 11 = 合流
= 12 = 怪我
= 13 = 隠された宙港
= 14 = 潜行
= 15 = 突入
= 16 = 占拠
= 17 = 過去
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
= 17 =
「やっぱりそうだったか――」
パネルから目を上げた柴田がそう言って、「艦長」と古代を見た。
うむ、とうなずく古代が目を通し、近藤を呼ぶ。
艦橋には現在、地球側の人間とリーダーらしき艦長しかいない。
その男は椅子に拘束され電子錠をかけられてあった。
「お前たち、何故……」
そのつぶやきを耳にすると古代は、パネルから離れて艦長席横に拘束されている男に近づいた。
「名前は」
かがみこむようにして見る古代に
「答えるとでも?」と見返す男。
じっと見返す古代は頷いた。「あぁ……思うね」
「莫迦に、するな」
ぐい、と古代は顎に手をかけその男の顔をまっすぐ見た。
「“ミトプロートス”……」男の表情が変わる。
「な、何故その名を……」
「貴方の元の艦ですね、ロデム艦長――いや、元艦長、というべきか」
彼はぐっと詰まると唇をわなわなと震わせ、目を見開いた。
「――ヤマトの古代……お前は、超能力でも使うのか」
「ふっ、まさか」古代は微かに自嘲気味に笑う。「資料を見ただけですよ。
そもそも、最初から私は予測していた――いったいどうして、とね」
古代の言葉には若干の“はったり”がある。
実際に古代に与えられていた情報は多くはなく、いくつかの可能性として示唆されていたに過ぎない。
ミトプロートスの事故と“星の石事件”(テロリズムによる民間人の犠牲と軍艦の大事故)は辺境で起こったため一般には知られていなかったが、軍の一部では重要な事件で、それ以降、死亡したり行方不明になった者の中にはある種の志向を持つ者が多かったといわれている。
「まさか、貴方が“星の石(Star Stone)”の一員とは思いませんでしたが――亡くなられたとばかり聞かされていましたからね、ロデム元艦長」
「――そのような名は、忘れた」
一気に肩を落として彼は言う。
「――それで、どうしようというのかね」
複雑な背景はどうでもよい。古代の任務は、ただひとつだった。
「――開戦を、阻止する」
腕を後ろに組み、まっすぐに瞳を射抜いて古代進は言った。
一瞬、それに射抜かれたようにみえたロデムは、顔をそむけると、今度はくっくく、と笑い始めた。
「私たちだけを捕まえても仕方ない、とは思わんのかな? 古代――この、地球人の敵(かたき)に魂を売った、売国奴」
口調が変わり、周りの部下たちの方がいきり立った。
「止せ!」古代が静止の手を上げる――当然。戦いはすでに始まっており、古代とロデムが会話を続けている間も、日向の指揮で、この艦は指揮艦としての動きを続けていた。
★
近藤が艦橋へ滑り込んできた。
「中、まだうようよしてます。皆、気づき始めたらやっかいです」
わかっている、と古代は頷いて、近藤に示唆し、彼は頷いた。
「司令――この先、どうしますか? イサスやアリオスと、ぶち当たります」
困惑したような柴田の声がし、日向はそれでも、よくやっていた。
「だましながらいけ……ぎりぎりまで、この艦は、敵方の艦だ」
振り返りもせず古代は無茶な要求を部下たちにする。
「――息子さん……守さんが可哀相じゃないですか。早く、ご連絡された方が」
「艦隊も混乱します――被害が、増えますよっ」これは柴田。
それには答えず、古代は近藤に向いた。
「どうだ? 行けそうか?」
黙ってうす暗がりの中で、パネルに向かってあれこれいじったり立ち働いたり真剣に動く彼は、すでにボイラー室でひと作業して戻ったあと、先ほどから他の者と組せずに何かを進めているのだ。
「――もう、少し……」
「どのくらいだ」古代が問う。
「あと、5分……いや、3分」
3分だな。
そう言うと、古代は声にニヤりとした色を含ませて日向に命じた。
「あと3分。保て――そのあと、反転・急上昇するぞ。……柴田っ」
「は、はいっ」
操縦、準備しとけよ、と言い、また古代はロデムに向き直った。
「いかがですか? 自分の艦が人の手中に納まる気分は――」
古代の声には皮肉がにじんでいたかもしれない。
彼は何度かそういう想いをし、潜り抜けてきた。
「自分の艦? ふ、」ロデムがはき捨てるように笑った。古代の表情は動かなかった。
(= 17 = 後半 に続く)