tit:龍の棲む25 [回天-開戦前夜]
龍の棲む 【回天-開戦前夜】
= 0 = 序章
= 1 = 戦闘空域へ
= 2 = ワープアウト
= 3 = 初陣
= 4 = 邂逅
= 5 = 救出・1
= 6 = 拉致
= 7 = 救出・2
= 8 = 救出・3
= 9 = 再び
= 10 = 作戦始動
= 11 = 合流
= 12 = 怪我
= 13 = 隠された宙港
= 14 = 潜行
= 15 = 突入
= 16 = 占拠
= 17 = 過去
= 18 = 戦闘開始!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
= 18 =
「あ、あれをっ!」
古河の率いるCT隊が出撃し、アリオス艦はそれを追って砲撃を開始した。
旗艦らしき艦はまだ後方にあり、砲撃の届く範囲ではなかった。
前方の艦はぐんぐん近づいてくるが、まだどちらも先端を開いてはいない。
周辺を崩していく――これも最低限にしたいのが守の本音である。
正体がわからない相手を殲滅するのは古代守としても本意ではない。
ましてや父・進の使命を知っていればこそ、なおのことだ。
古代守は片手を前に上げた。
「砲撃、用意――」
アリオス艦は、躯体こそ小さいものの、最新型の高性能艦である。
守自身が訓練生として乗り込んだ時に、最新鋭艦であった。もちろん長距離航行用の艦ではないが、こういった戦闘には(使い方次第では)威力を発揮した。
――新米の艇長には、なかなか良い。
守は自分が任された艦を、ひどく気に入っている。
艇長の力量も、乗員の力量次第でも、生かせる艦(ふね)だという思いがあるからだ。
アクエリアスやイサスとはまた違った個性を持っているのだ。
ぐぐぐっと宇宙空間を押し出すように前進し、その加速は不思議な動きを見せる。
もう数年、この艦と起居を共にしてきた守には、その艦の動きが自分の手足のように伝わっていた。
「第一第二砲塔、準備よし」
「第三砲塔、第二副砲、照準Bポイント」
「――ようし、中央下方を狙えよ」
腹に力を入れて守はそう言おうとしたが、中途半端な発声になってしまった。
独り言のように聞こえたかもしれない――とふと思ったが、言い直しは利かない。
みっともないからだ。
……妙なことに気を回さなければいけないのも、若いリーダーということなのだろう。
「艇長。CTから入電」
「まわせ――」
閃光が先頭の艦にひらめき、あちこちから爆発が起こった直後だった。
その向こうへ飛び退った光の筋――古河たちイサスのCT隊は、攻撃を開始していた。
その様子をパネルに切り替えさせて守は見上げる。
初戦なのだ――いくら彼が成績優秀のエリートで、この艦には士官候補生としても長く乗艦しており、実戦経験もあるとはいっても――今はすべての判断と指揮が古代守にゆだねられていた。
ぐ、っと彼の拳が握り締められたが、目の前で始まっている戦闘に気持ちを奪われている艦橋の面々はさすがにそこまでは気付くことはない(だろう)。
守の頭の中では目まぐるしく様々な判断が渦巻いていた。
(父さん――いったい、どこに。いるんだ。……戦艦奪取は成功したのか? 援護は、必要なのか? 余分なのか? どっちなんだ)
基地への攻撃は援護射撃になったはずだった。
それは古河からの通信で確信を得られ、守は一つ自信を深めていた。
緻密な計算と準備。そうしてそれを実行する勇気と躊躇の無さ――それがあれば、あとは成果を刈り取るだけだった。だが臨機応変が求められるのも戦場で、それは行き当たりばったり、ということとは違う。
――父・進の行動が今ひとつ読めないのは、守のそういった考え方があるからだったろう。
もちろん近代戦のセオリーからすれば守の方が正しい。
古代進だとて、常から型破りばかり行っているわけではもちろんなかったし、実際に自分たちに仕込んでくれたのは、そういった戦場での振舞い方でもあった。
だが。
本当の危機に陥った時の父さんは――。
(読めない)
と守は思っている。
だがこの場合は、戦いは収束に向かっているはずだった。
実際に戦端が開かれたとはいえ、これはもしかしてブラフかもしれないという想いが先に立つ。
だからこそ古河も「旗艦は攻撃するな」と言うのだろうし、それは自分の勘所(情報収集の上の、であるが。もちろん)とも一致していた。
★
「ようし。回天するぞっ」
回天――状況を変えること。
古代守はその気合を込めて言葉を発した。
アリオスはスピードを上げ、砲門を開いて敵艦隊に迫る。
――相手方の旗艦は先頭には出ず、後方から指示を出すつもりらしい――あるいは古代司令たちが占拠して動かしているのか。
(だが。それなら何故、連絡してこない?)
迷っている時間はなかった。――二重の意味で。
第十二銀河系中央方面プレアデス艦隊・アリオス艇長古代守の力量が問われるからだ。
信頼のあるメンバーたちとはいえ、艇長として、初戦でミソをつけたくはなかった。守にもプライドはある。
(父さん――賭けるよ。行くぞ)
「速度、××宇宙ノット。全砲塔、各個に目標補足! 30秒後に戦闘開始!」
戦闘班長が「了解っ!」とそれを受け、パネルを睨む。
「艇長、各部署。準備整いました」
「戦闘開始(ファイヤ)!」
アリオスは敵艦隊の前面へ、突入していった。
☆
ひゅいん、と数機が艦の表面を撫ぜる。
クロスして飛び去る頃には、あちこちが火を噴き、艦はコントロールを失っていた。
『よしっ、いいぞ――三番隊、続けっ』
古河の声がインカムに飛び込み、後続は引き続きそれに従う。
流れるような動き――ガタイの大きな艦だろうと、弱い箇所を見つけ、マーキングして叩けば確実に仕留められた。
『相手がたは艦載機、持ってないみたいですね――』
『ひゃっほ~、楽勝楽勝っ』
『――調子に乗るな。……来たぞっ』
交差したCTの中央を光線が穿ち、3機は見事な回転でそれをやり過ごす。
『うしろの正面、だぁれ』
『――ばぁか。……そうだな、攻撃機は持ってないみたいだ』
古河の声が隊員たちに届く。
『どうしますか、このまま旗艦まで?』
しばしの沈黙が還る――あそこにはアクエリアスの潜入部隊が、古代たちがいるはずだ。
俺の勘が鈍ったり、あいつがどじ踏んだりしてなければ、だが。
(・・・)
『ようし――俺の通り、ついてこい。イケるか?』
相手にぴったりついてのシャドウ飛行――見かけほど簡単ではないが、よく使われる手法で、もちろんイサスの面々でひるむヤツなどいない。
『ギリギリ艦橋まで迫ってやる――ぶつかったり弾に当たったりするなよ』
『――ったりめーです、隊長』
『まかしといてくださいっ』
宇宙の闇を切って、シルバーグレイの機体群が飛んだ。
(= 19 = へ続く)
= 0 = 序章
= 1 = 戦闘空域へ
= 2 = ワープアウト
= 3 = 初陣
= 4 = 邂逅
= 5 = 救出・1
= 6 = 拉致
= 7 = 救出・2
= 8 = 救出・3
= 9 = 再び
= 10 = 作戦始動
= 11 = 合流
= 12 = 怪我
= 13 = 隠された宙港
= 14 = 潜行
= 15 = 突入
= 16 = 占拠
= 17 = 過去
= 18 = 戦闘開始!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
= 18 =
「あ、あれをっ!」
古河の率いるCT隊が出撃し、アリオス艦はそれを追って砲撃を開始した。
旗艦らしき艦はまだ後方にあり、砲撃の届く範囲ではなかった。
前方の艦はぐんぐん近づいてくるが、まだどちらも先端を開いてはいない。
周辺を崩していく――これも最低限にしたいのが守の本音である。
正体がわからない相手を殲滅するのは古代守としても本意ではない。
ましてや父・進の使命を知っていればこそ、なおのことだ。
古代守は片手を前に上げた。
「砲撃、用意――」
アリオス艦は、躯体こそ小さいものの、最新型の高性能艦である。
守自身が訓練生として乗り込んだ時に、最新鋭艦であった。もちろん長距離航行用の艦ではないが、こういった戦闘には(使い方次第では)威力を発揮した。
――新米の艇長には、なかなか良い。
守は自分が任された艦を、ひどく気に入っている。
艇長の力量も、乗員の力量次第でも、生かせる艦(ふね)だという思いがあるからだ。
アクエリアスやイサスとはまた違った個性を持っているのだ。
ぐぐぐっと宇宙空間を押し出すように前進し、その加速は不思議な動きを見せる。
もう数年、この艦と起居を共にしてきた守には、その艦の動きが自分の手足のように伝わっていた。
「第一第二砲塔、準備よし」
「第三砲塔、第二副砲、照準Bポイント」
「――ようし、中央下方を狙えよ」
腹に力を入れて守はそう言おうとしたが、中途半端な発声になってしまった。
独り言のように聞こえたかもしれない――とふと思ったが、言い直しは利かない。
みっともないからだ。
……妙なことに気を回さなければいけないのも、若いリーダーということなのだろう。
「艇長。CTから入電」
「まわせ――」
閃光が先頭の艦にひらめき、あちこちから爆発が起こった直後だった。
その向こうへ飛び退った光の筋――古河たちイサスのCT隊は、攻撃を開始していた。
その様子をパネルに切り替えさせて守は見上げる。
初戦なのだ――いくら彼が成績優秀のエリートで、この艦には士官候補生としても長く乗艦しており、実戦経験もあるとはいっても――今はすべての判断と指揮が古代守にゆだねられていた。
ぐ、っと彼の拳が握り締められたが、目の前で始まっている戦闘に気持ちを奪われている艦橋の面々はさすがにそこまでは気付くことはない(だろう)。
守の頭の中では目まぐるしく様々な判断が渦巻いていた。
(父さん――いったい、どこに。いるんだ。……戦艦奪取は成功したのか? 援護は、必要なのか? 余分なのか? どっちなんだ)
基地への攻撃は援護射撃になったはずだった。
それは古河からの通信で確信を得られ、守は一つ自信を深めていた。
緻密な計算と準備。そうしてそれを実行する勇気と躊躇の無さ――それがあれば、あとは成果を刈り取るだけだった。だが臨機応変が求められるのも戦場で、それは行き当たりばったり、ということとは違う。
――父・進の行動が今ひとつ読めないのは、守のそういった考え方があるからだったろう。
もちろん近代戦のセオリーからすれば守の方が正しい。
古代進だとて、常から型破りばかり行っているわけではもちろんなかったし、実際に自分たちに仕込んでくれたのは、そういった戦場での振舞い方でもあった。
だが。
本当の危機に陥った時の父さんは――。
(読めない)
と守は思っている。
だがこの場合は、戦いは収束に向かっているはずだった。
実際に戦端が開かれたとはいえ、これはもしかしてブラフかもしれないという想いが先に立つ。
だからこそ古河も「旗艦は攻撃するな」と言うのだろうし、それは自分の勘所(情報収集の上の、であるが。もちろん)とも一致していた。
★
「ようし。回天するぞっ」
回天――状況を変えること。
古代守はその気合を込めて言葉を発した。
アリオスはスピードを上げ、砲門を開いて敵艦隊に迫る。
――相手方の旗艦は先頭には出ず、後方から指示を出すつもりらしい――あるいは古代司令たちが占拠して動かしているのか。
(だが。それなら何故、連絡してこない?)
迷っている時間はなかった。――二重の意味で。
第十二銀河系中央方面プレアデス艦隊・アリオス艇長古代守の力量が問われるからだ。
信頼のあるメンバーたちとはいえ、艇長として、初戦でミソをつけたくはなかった。守にもプライドはある。
(父さん――賭けるよ。行くぞ)
「速度、××宇宙ノット。全砲塔、各個に目標補足! 30秒後に戦闘開始!」
戦闘班長が「了解っ!」とそれを受け、パネルを睨む。
「艇長、各部署。準備整いました」
「戦闘開始(ファイヤ)!」
アリオスは敵艦隊の前面へ、突入していった。
☆
ひゅいん、と数機が艦の表面を撫ぜる。
クロスして飛び去る頃には、あちこちが火を噴き、艦はコントロールを失っていた。
『よしっ、いいぞ――三番隊、続けっ』
古河の声がインカムに飛び込み、後続は引き続きそれに従う。
流れるような動き――ガタイの大きな艦だろうと、弱い箇所を見つけ、マーキングして叩けば確実に仕留められた。
『相手がたは艦載機、持ってないみたいですね――』
『ひゃっほ~、楽勝楽勝っ』
『――調子に乗るな。……来たぞっ』
交差したCTの中央を光線が穿ち、3機は見事な回転でそれをやり過ごす。
『うしろの正面、だぁれ』
『――ばぁか。……そうだな、攻撃機は持ってないみたいだ』
古河の声が隊員たちに届く。
『どうしますか、このまま旗艦まで?』
しばしの沈黙が還る――あそこにはアクエリアスの潜入部隊が、古代たちがいるはずだ。
俺の勘が鈍ったり、あいつがどじ踏んだりしてなければ、だが。
(・・・)
『ようし――俺の通り、ついてこい。イケるか?』
相手にぴったりついてのシャドウ飛行――見かけほど簡単ではないが、よく使われる手法で、もちろんイサスの面々でひるむヤツなどいない。
『ギリギリ艦橋まで迫ってやる――ぶつかったり弾に当たったりするなよ』
『――ったりめーです、隊長』
『まかしといてくださいっ』
宇宙の闇を切って、シルバーグレイの機体群が飛んだ。
(= 19 = へ続く)