tit:龍の棲む27 [回天-開戦前夜]
龍の棲む 【回天-開戦前夜】
= 0 = 序章
= 1 = 戦闘空域へ
= 2 = ワープアウト
= 3 = 初陣
= 4 = 邂逅
= 5 = 救出・1
= 6 = 拉致
= 7 = 救出・2
= 8 = 救出・3
= 9 = 再び
= 10 = 作戦始動
= 11 = 合流
= 12 = 怪我
= 13 = 隠された宙港
= 14 = 潜行
= 15 = 突入
= 16 = 占拠
= 17 = 過去
= 18 = 戦闘開始!
= 19 = 入電
= 20 = 回天
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
= 20 =
アクエリアスに収容されたメンバーは、傷の手当てを受けていた。
もちろん、潜入戦と情報奪取、敵工作に大活躍した日向はじめとする近藤・柴田らも怪我をしている。
古代は“司令としての務め”を盾に、軽い治療(痛み止めと壊死防止)を受けただけで艦橋に立っていたが、実際はかなりの怪我と疲労で、それだけでも相当な気力を要するはずだった。
だが誰が言っても聞かないことも部下たちは周知だったため、事後処理は、なにをそんなに急ぐのだというようなスピードで行われた――部下たちの差配である。
そうして、その小さな艦隊は、アリオスの一行に守られ、ヘクトルとも合流して土星基地へ一時帰還した。
★
古代進の与えられた使命――目的は、一応、達することができた、という報告ができるだろう。
資料はすぐに折り返した土星の基地から厳重なシークレット通信のもとに転送され、本部から照会が行われた。
“星の石”とされた組織の背景につながっていたと思われる某帝星へも照会がされたが、先方は
「なんのことだかわからない。ガルマン=ガミラス帝星連盟の一員であるわれわれにはまったく意味のないことだ」
と言われ、それを全面的に信用することはできないまでも、今回はその危険は去ったと考えてよかった。
そうして、土星の輪の間に浮かぶ中間基地――外宇宙への要衝であり、古代たちの艦隊のサブステーションもある――で、ようやく本格的な治療を受けることになった古代進の許を、アリオス艦の数名が訪れた。
宇宙空間で邂逅し、共に引き上げてくる中では、通信で簡単な会話をしただけだったのだ。
☆
「入ります」
事務官の先導を受けて、古代守を先頭に数名が入室した時、古代進は広い部屋の中央にあるベッドの横に椅子を置き、そこに姿勢よく座っていた。
その脇には古河大地が、部屋の中には日向が居た。
――柴田と近藤はまだ資料の解析に借り出されており、艦の中で治療を受けたと思うと基地に着いた途端、借り出されて戻れないでいるらしい。
よぉ、と表情を緩めて片手を挙げ、気軽な風情で古河が守に声をかけた。
ニコと笑顔を見せ、だが軽く敬礼を返して、古代守は父・進の前へ立つ。
「――司令。ご無事でなによりです」
口調は、固い。揃って頭を下げた時、古代進の目にはなんともいえない、微笑というような表情が浮かんだがそれはすぐに消え、守たちが頭を上げたときは、もとのいかつい無表情に戻っていた。
「このたびは、苦労をかけた。礼を言わせてもらう――」
古代進の言葉は、守のみでなくアリオスのメンバー皆に向けられていた。
はっ、と生真面目に敬礼する一同。
「お怪我は」
守が口を開かないので、察した下野が部下を代表して古代に話しかける。
このあたりはベテランの特権とでもいうもので、通常の上下関係ではあり得ないが、ヤマト出身の古代たちは、戦場を離れてしまうとさほどそういったことを気にしない方だったろう。
「――大したことはない」
そう言う表情が無表情のままだったので、息子の古代の方の眉間に皺が寄った。
「本当ですか?」
さらにそれを察して下野が問うのに古河が口を挟んだ。
「古代艦長――皆が困ってるぞ。意地張らないで説明してやったらどうだ。ん? 皆さん、貴方のために此処まで命がけできたのだからな」
まめに世話を焼く、という風情でそこにいる日向も苦笑する。
「そうですよ、艦長」
その場で一番若い日向が口を挟んだので、皆が一瞬彼に注目した。
あ、という顔をした日向だが、それくらいで遠慮する男でもない。
「――敵基地に捕らわれていた時の仕組みで腕にヒビが入っていたのですが、奇跡的にほかに大きな傷はありません。ご無事、という意味で言えば言葉の通りですから、皆さん、ご安心ください」
言葉は慇懃だが、声は笑っている。
「ただちょっとご無理なさったので、お疲れ気味ですけどね」
な、と古河が顔を見合わせる。
「――何か言いたいことがありそうだな、日向」
古代が仏頂面をしたので、下野まで吹き出しそうになった。
古河はすでに可笑しがっているのが丸わかりである。
「古代艇長――今回の救援隊長の方は何か文句がありそうだがな――」
古河が引き取って、
「俺たちはしばらく席を外そう。その間、面倒は艇長が見てくれるだろ? 行くぞ、日向。よろしいでしょうか、下野副長」
「はい、もちろん」
「われわれはご挨拶が済めばあとは問題ありません。ご無事を確認して艦の者も安心します」
と下野がベテランらしく答えた。
「艇長――そういうわけでわれわれはお先に」
古代守は相変わらず固い表情を崩さないまま、頷き、言った。
「戻って報告書をデータ送信したら休んでよい。明朝0600まで当直の者を残して上陸許可。これは他艦にも知らせてよい――うちの艦隊だけだがな」
「了解(ラジャ)」と敬礼し、下野たちは古河と日向に促されて部屋を静かに出ていった。
(= 20 = 後半へ)
= 0 = 序章
= 1 = 戦闘空域へ
= 2 = ワープアウト
= 3 = 初陣
= 4 = 邂逅
= 5 = 救出・1
= 6 = 拉致
= 7 = 救出・2
= 8 = 救出・3
= 9 = 再び
= 10 = 作戦始動
= 11 = 合流
= 12 = 怪我
= 13 = 隠された宙港
= 14 = 潜行
= 15 = 突入
= 16 = 占拠
= 17 = 過去
= 18 = 戦闘開始!
= 19 = 入電
= 20 = 回天
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
= 20 =
アクエリアスに収容されたメンバーは、傷の手当てを受けていた。
もちろん、潜入戦と情報奪取、敵工作に大活躍した日向はじめとする近藤・柴田らも怪我をしている。
古代は“司令としての務め”を盾に、軽い治療(痛み止めと壊死防止)を受けただけで艦橋に立っていたが、実際はかなりの怪我と疲労で、それだけでも相当な気力を要するはずだった。
だが誰が言っても聞かないことも部下たちは周知だったため、事後処理は、なにをそんなに急ぐのだというようなスピードで行われた――部下たちの差配である。
そうして、その小さな艦隊は、アリオスの一行に守られ、ヘクトルとも合流して土星基地へ一時帰還した。
★
古代進の与えられた使命――目的は、一応、達することができた、という報告ができるだろう。
資料はすぐに折り返した土星の基地から厳重なシークレット通信のもとに転送され、本部から照会が行われた。
“星の石”とされた組織の背景につながっていたと思われる某帝星へも照会がされたが、先方は
「なんのことだかわからない。ガルマン=ガミラス帝星連盟の一員であるわれわれにはまったく意味のないことだ」
と言われ、それを全面的に信用することはできないまでも、今回はその危険は去ったと考えてよかった。
そうして、土星の輪の間に浮かぶ中間基地――外宇宙への要衝であり、古代たちの艦隊のサブステーションもある――で、ようやく本格的な治療を受けることになった古代進の許を、アリオス艦の数名が訪れた。
宇宙空間で邂逅し、共に引き上げてくる中では、通信で簡単な会話をしただけだったのだ。
☆
「入ります」
事務官の先導を受けて、古代守を先頭に数名が入室した時、古代進は広い部屋の中央にあるベッドの横に椅子を置き、そこに姿勢よく座っていた。
その脇には古河大地が、部屋の中には日向が居た。
――柴田と近藤はまだ資料の解析に借り出されており、艦の中で治療を受けたと思うと基地に着いた途端、借り出されて戻れないでいるらしい。
よぉ、と表情を緩めて片手を挙げ、気軽な風情で古河が守に声をかけた。
ニコと笑顔を見せ、だが軽く敬礼を返して、古代守は父・進の前へ立つ。
「――司令。ご無事でなによりです」
口調は、固い。揃って頭を下げた時、古代進の目にはなんともいえない、微笑というような表情が浮かんだがそれはすぐに消え、守たちが頭を上げたときは、もとのいかつい無表情に戻っていた。
「このたびは、苦労をかけた。礼を言わせてもらう――」
古代進の言葉は、守のみでなくアリオスのメンバー皆に向けられていた。
はっ、と生真面目に敬礼する一同。
「お怪我は」
守が口を開かないので、察した下野が部下を代表して古代に話しかける。
このあたりはベテランの特権とでもいうもので、通常の上下関係ではあり得ないが、ヤマト出身の古代たちは、戦場を離れてしまうとさほどそういったことを気にしない方だったろう。
「――大したことはない」
そう言う表情が無表情のままだったので、息子の古代の方の眉間に皺が寄った。
「本当ですか?」
さらにそれを察して下野が問うのに古河が口を挟んだ。
「古代艦長――皆が困ってるぞ。意地張らないで説明してやったらどうだ。ん? 皆さん、貴方のために此処まで命がけできたのだからな」
まめに世話を焼く、という風情でそこにいる日向も苦笑する。
「そうですよ、艦長」
その場で一番若い日向が口を挟んだので、皆が一瞬彼に注目した。
あ、という顔をした日向だが、それくらいで遠慮する男でもない。
「――敵基地に捕らわれていた時の仕組みで腕にヒビが入っていたのですが、奇跡的にほかに大きな傷はありません。ご無事、という意味で言えば言葉の通りですから、皆さん、ご安心ください」
言葉は慇懃だが、声は笑っている。
「ただちょっとご無理なさったので、お疲れ気味ですけどね」
な、と古河が顔を見合わせる。
「――何か言いたいことがありそうだな、日向」
古代が仏頂面をしたので、下野まで吹き出しそうになった。
古河はすでに可笑しがっているのが丸わかりである。
「古代艇長――今回の救援隊長の方は何か文句がありそうだがな――」
古河が引き取って、
「俺たちはしばらく席を外そう。その間、面倒は艇長が見てくれるだろ? 行くぞ、日向。よろしいでしょうか、下野副長」
「はい、もちろん」
「われわれはご挨拶が済めばあとは問題ありません。ご無事を確認して艦の者も安心します」
と下野がベテランらしく答えた。
「艇長――そういうわけでわれわれはお先に」
古代守は相変わらず固い表情を崩さないまま、頷き、言った。
「戻って報告書をデータ送信したら休んでよい。明朝0600まで当直の者を残して上陸許可。これは他艦にも知らせてよい――うちの艦隊だけだがな」
「了解(ラジャ)」と敬礼し、下野たちは古河と日向に促されて部屋を静かに出ていった。
(= 20 = 後半へ)