fc2ブログ
2011_08
10
(Wed)09:10

tit:龍の棲む28 [回天-開戦前夜]

 龍の棲む 【回天-開戦前夜】
= 0 = 序章
= 1 = 戦闘空域へ
= 2 = ワープアウト
= 3 = 初陣
= 4 = 邂逅
= 5 = 救出・1
= 6 = 拉致
= 7 = 救出・2
= 8 = 救出・3
= 9 = 再び
= 10 = 作戦始動
= 11 = 合流
= 12 = 怪我
= 13 = 隠された宙港
= 14 = 潜行
= 15 = 突入

= 16 = 占拠
= 17 = 過去
= 18 = 戦闘開始!
= 19 = 入電
= 20 = 回天

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 後には古代進・守父子(おやこ)だけが残された。――
 椅子の上で身じろぎもしない進と、じっと立って一点を見つめている守。

 父親の方が先に表情を崩した。
「……よく、やったな。初陣の勝利、おめでとう」
古代守には言いたいことがたくさんあった。
怒り、安堵、そうして安心と喜び。それらが交錯し、また(めったにないことだが)自分と相手の立場も混乱して、そのままだったのだ。
――無事だった。これまでならどんな場面でも、父は息子をかき抱き、彼はその父の腕に包まれることを躊躇したことなどなかったのに。
 「どうした? 艇長兼作戦リーダーとして、存分な働きをした。よく統率し、作戦を成功させた。初陣としては立派な士官ぶりだったと聞いている。――だから、おめでとう」
 そうだ、初陣だった、と古代守は改めてその実感を感じていた。

 古代進を守れる男になりたい。
防衛軍に身を投じた理由として、それが最も大きかった。
まさに初陣でその機会に恵まれ(?)たこと、感謝しなければならないのだろう。
確かに、守れた。彼は無事、目の前に居る――だが。だけど。
 「古代司令……」口をついたのは低い声のつぶやき。
「……私は、怒っているんです、わかりますか」他人行儀な言葉が出た。
訓練学校へ入ると、親子兄弟だろうが地位が違えば上官下士官である。
ましてや“雲の上の人”古代進――こうした口調に慣れて、もう何年にもなる。
母がその場にいたら驚いたかもしれなかった。
 「……守」
今度もその“約束”を破ったのは父の方だった。
「勘弁してくれ――心配をかけた。済まない」
素直に彼は頭を下げる。守は怒りと動揺で、何故か、今頃からだが震えてきた。

 「……ひどい、よ」
古代が顔を上げたとき、息子は顔を伏せ、手を震わせていた。
「――どれだけ。僕たちが、どれだけ、心配したと思ってるんだ。いくら父さんが危地に強いからっていっても――僕たちは全滅したって父さんを助けなければならなかったんだよ? 自分でゲリラみたいな真似するなんて。艦隊司令だろ? 父さん」
「……」
古代は初めてゆっくりと笑った。
――息子に叱られたのが嬉しかったのだ、といえば、また守の怒りは倍増するだろうか。
「――大きく、なったな」
「ふざけないでっ」
「……ふざけてなど、いない。お前は立派な艇長で、艦隊のリーダーの一人で、立派な、宇宙の男だ。それを喜ばない親父がいるか?」
「――僕は。僕は、父さんが無事ならそれでいいんだ。……だけど、貴方の勝手な行動で、どれだけの人が心配したと思ってるんだ」
 くすりと古代は笑い、すまんすまん、と言いながら椅子からゆっくりと立ち上がった。

 慌てて守は彼に近づく。
怪我してんだろ? そうして腕を取って、もう一度椅子に座らせる。
「――守。お前こそ無事でよかった。私の無茶な行動で皆を混乱させたのなら、済まん。だが、私にも使命があった」
(わかってる――だから)
誰よりも、それについてはわかっている古代守なのだ。
それでも。もっとほかの方法はないのか? だが、こういったときに、そう動くからこその古代進なのだと。
――守は母・ユキの気持ちがいまさらながらによくわかった気がするのである。

 「守――抱かせてくれ」
すいと手を伸ばし、守はその腕の中に包まれた。
「大きくなった……立派になったな。もう、私がお前を頼りにしてもいいようになったんだな――」
「父さん……」
 ぎゅ、と抱きしめられて。もう何年ぶりのことだろう?
 はっと気づいた。古代は守が訓練学校に正式入学してから、こういう行動を取ったことは無かったのだ。
そういうことにも今、初めて気づいたのだった。
「嬉しいよ……だが。俺がこういうこと言うのは矛盾してるからな、内緒だが…」
古代の声は少しかすれているようだった。温かさが体にしみた。
「――死ぬな。初戦を成功させた、なんていうのが一番危ない。お前自身もだが、大切な人を失うことにもなる。臆病でいいんだ――慎重でいろ。それが良い上官だ」
「父さん!?」
 古代進がそんなことを言うなんて、意外だった。
「死ぬな――生きて、無事で務めてくれ。私や、母さんを悲しませないで」
「はい……」
守は手を伸ばして父の背中に触れた。大きな、追いかけているときは果てしなく遠く、大きな背中だった。
いま、こうして向き合うことも触れることもできる背中だった。

            ★
 古代は丸2日ほど養生すれば大丈夫だというので、その夜だけ守はそこに同宿することにした。

 日向と古河が戻ってきたときは、テーブルを挟んで仲良く酒を酌み交わす2人の姿があった。
「艦長っ! まだお酒はダメですっ!!」
日向が慌ててつかつかと近づき、グラスを取り上げる。
「おぅっ!? いいだろ? 息子の凱旋祝いだ。1杯くらい飲ませろ」
「だめですっ。1杯なんてもうとっくにお飲みになったでしょ?」
ね、と守の方を向いて日向は言う。守も苦笑して頷いた。
 良い人々に囲まれている父だった。
「なぁ守。こいつはお前より口うるさくておせっかいなんだ。人の面倒ばっかりみてないで、早く嫁でも世話してやれって言ってんだが」
「艦長ぉ~~。そんなこと仰っても出ていきませんからねっ。俺は、皆さんによぉっく見張っててくれって頼まれてんですから」
「――それが率先して艦長と一緒に飛び出してんだから世話はねぇや」
古河に茶々入れられて、泣きそうな顔になった日向である。
 わはは、と笑いながら、
(父さんの下で働くっていうのもいいな――キツそうだけど)と思った守である。
だが自分は絶対にそういう立場になることはない。――この命令を与えた風間巳希もそうだったが、遠くから見守り、いざとなった時に守れる立場でいること。
その方ができることが多いと思うからだ。
(――日向さん、頼みます)
こっそり胸の裡に言って、飛ばした目線が、たまたま日向と合った。
――通じた、のかもしれない。守より少しだけ年上の彼は、微かに頷いたような気がしたからだ。
目に光があった。

 無事は伝えた。
 報告書も簡単だが、送った。作戦は成功だ――。
だが、詳しく逢って話さなければならない人々がいる。皆、彼らの無事を祈っている者たちだ。
 母・ユキにはどこまで話しても良いのだろう? いやきっと、何も言わずにおくのかもしれない、と思う。
父が話すだろうから。
 風間少佐――自分を信じ、擁護してくれる先達。そうして父を遠くから護る人。
あの人には、伝えておかなければならないことがたくさんあるような気がした。

 古代守は、近づいてくる時代の足音を確かに聞いている。
宇宙にうごめく不穏な気配と、地球の周りでのざわめきを。
 銀河系へ出向く時期が来ているのかもしれない――遠く、彼方へ。
 父(かれ)や、大切な人々を守るために、自分はより遠く、宇宙へ向かうのだと。
それは守の直感だった。

= Epilogue = へ)
◆ ◆
すいません、まだ終わりません(_ _;)…あと1回です。

コメント

No title

はじめまして!
まだ全部見ていませんけど、アニメのヤマトが好きです。このブログには初めて来ましたが、連載小説を読んでも、よく分からない登場人物がいるのでとまどいます。
矢印で繋げた人物相関図のようなの、ありませんか?イラスト付きなら分かりやすいと思います。アニメシリーズのどのエピソードで登場していたかも添えてもらえると助かります。
期待しています^^

2011/08/10 (Wed) 21:21 | 遥 | 編集 | 返信

ご訪問ありがとうございます。

遥さま。

ご訪問とコメントをありがとうございます。
わかりにくかったですか。でもお読みいただいたのですね、ありがとうございます。

はい、内輪受けかもしれませんね。

私は基本的に、物語の内容について「説明」はしません。いままでもしませんでしたし、今後もするつもりはないです。
物語そのものがわかりにくいのであれば(つまり面白くなければ)、それは書き手の力量、つまり私がヘタっぴだということだろうと思うからです。だから「面白くないし面倒だから読まない」と捨てていただければいいのかなと思います。

誰がどうだかわからなくても、読んでいるうちに関係性が見えてくる。それを楽しんでいただきたい気持ちもありますし、うちはオリジナル・キャラクターが多いので、それのすべてを説明することは本末転倒になると思っています。
(もちろん、そういったことを説明することが目的の話もありますが、この連載はblogだということもあり趣旨が違います)

登場している古代守、という古代進と森雪の子ども、がすでに本編では存在しない登場人物です。

左のリンクから飛べる「時系列」をご覧いただくと、このワールドに存在する人々の人間関係は、ある程度わかります。
それと、「矢印で繋げた」とかビジュアル化するのは、けっこうな技術が必要なので、もともと技術を持っていない私は現在、そういった方面に割く時間がありません。絵は苦手で、ビジュアル化するのも得意ではありません。
ですから確かに「わかりにくい」かもしれませんね。

人物相関図につきましては、以前、きちんとサイトを作っていた頃に作ったものがありますが、現在はアップしていません。少しずつアーカイヴのような形で整理をしていますので、そのうち引っ張り出してつないでおきますが、すぐには難しいかもしれませんのですみません。

どのアニメシリーズで登場していたか、とかも一種の“説明”になるので、あまり添えたくないですね。わかる人にはわかるし、わからなければ、そのシーンそのものを楽しんでいただければいいかと考えています。
また、この連載そのものが、自分の書いたものに対する、読者の方にリクエストで始まったものですから、古代進以外はすべてといってよいほどのオリジナルで、本編のアニメにはほとんど登場しません。

西暦でいえば、2220年~25年ごろです。
『復活篇』を無視した世界ですので、もし「アニメに沿った話を読みたい」ということであれば、この連載そのものが不適切で、「二十の甘いお題」などの方がわかりやすく、「あとがき」をご覧いただければ解説もしてあります。そちらをお読みいただけましたらと思います。

お答えになっていないかもしれませんが、どうもすみません。
「よくわからない人物」の出てこない話を書かれている方もたくさんいらっしゃいますので、イヤにならずにまたご自分に合った場所を見つけられてくださいね(^_^)。

書き込みありがとうございました。

綾乃

2011/08/10 (Wed) 21:44 | 綾乃 | 編集 | 返信

次のアーティクルに…

遙さま

 追記です。
 あれではあんまり不親切なので、少しフォローしておきました。
もしご興味があれば、次の「続きを読む」をご覧ください。
この連載のことについては書いておきました。簡単にですが。
 それでは、おやすみなさい(_ _)★

2011/08/11 (Thu) 02:04 | 綾乃 | 編集 | 返信

コメントの投稿

非公開コメント

トラックバック