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2011_08
11
(Thu)09:50

tit:龍の棲む29 [回天-開戦前夜]

 龍の棲む 【回天-開戦前夜】
= 0 = 序章
= 1 = 戦闘空域へ
= 2 = ワープアウト
= 3 = 初陣
= 4 = 邂逅
= 5 = 救出・1
= 6 = 拉致
= 7 = 救出・2
= 8 = 救出・3
= 9 = 再び
= 10 = 作戦始動
= 11 = 合流
= 12 = 怪我
= 13 = 隠された宙港
= 14 = 潜行
= 15 = 突入

= 16 = 占拠
= 17 = 過去
= 18 = 戦闘開始!
= 19 = 入電
= 20 = 回天
= Epilogue =

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

= Epilogue =

 古代進は戦艦アクエリアスの艦長室に居た。
 基地のドッグに出発を待つ艦(ふね)は静かで、現在はまだ人の気配もない――。
全天ドームの向こうに土星の輪が、何重にも、細く、蒼く、縦に見えた。

 そうして古代は艦長席に座ると、傍らの小さなパネルを操作する。
目の前には赤いワインと、グラスが置かれていた。
 ぴぃん、と微かな音がした。『――古代司令、ご準備よろしいでしょうか。入電、つなぎます』「あぁ……つないでくれ」
 古代は椅子にゆったりと背を持たせると鋭い眼差しで前方のスクリーンを眺めた。そこに白い光が差したと思うと、突然、空間がつながったように別の宇宙空間が写る。
ある意味、懐かしい光景だった。

 『――古代か……』
「デスラー……」
『老けたな――いや、貫禄がついたというべきか。あれから何年になる』
次男・聖樹の年齢の分――17年が経っていた。
「17年――直接お会いしたのは、あれが最後だったか」
『――そうか』デスラーは相変わらず端正な顔立ちをしていた。年齢の片鱗は感じられたが、老いたという印象はない。地球人年齢で図れるものではないと知りながら、その胆力と気力に、古代は知らず体に力が入るのを感じていた。
 『君は、幾つになった――』
「――40を過ぎた。地球人の年齢では人生半ばというところだろう」
『……』ふっとデスラーは笑い、だがその表情は微笑みというようなものを湛えている。
『――“ヤマトの坊や”も、立派になったな』「なにをいまさら」古代も笑い、デスラーと顔を見合わせた。
 再会を祝して乾杯といこうか。通信のあちらとこちらには何万光年もの隔たりがある。銀河系中央域の対蹠点に新帝国を構えるガルマン=ガミラスは、第二の地球探査の時代より、さらに地球から遠くにあり、だが確かに大きな帝国星団の一方として銀河を統べていた。だが以前と異なるのは、ただ力で征服するだけでなく、連盟とでもいうようなものを形成している。もちろん中央政府を占める二つの民族の直接統治国家は、元のガルマン=ガミラスの性質を持ってはいたが――平和裏に繁栄しているといっても過言ではない。
 少なくとも地球と帝国星は盟約を結び、それは17年間保たれてきたのだ。“大遠征”と名づけられたそれは、元のヤマトのメンバーと中央政府の代表者、通商の大手が船団を組み、半年かけて本星まで交渉に及んだ。それ以降、互いの盟約は護られて来、地球を含むオリオン腕は彼らの政治力によって、銀河系の争いから外されてきたといってもよい。
 地球は――そういった意味では、まだ弱い。
 そうして強くなるべきなのかどうか、古代進には答えがないままである。

 『……このたびは世話になった。礼を言わなければと思ってな』
デスラーからの会話依頼が入ったのだった。古代と2人で話したい、と。
古代進側にも、連絡を取りたい意志がある。それはこの先、もしかしたら太陽系の平和を続けていくための重要な会見になるかもしれなかった。
――そうして、まるでごくプライヴェートな通信のような、この会見はセッティングされている。
「こちらこそだ、デスラー総統。われわれの政府に反発を持つ者との内輪もめであると認めていただいて、感謝している」
デスラーはじっとこちらを見ていたが、グラスに口をつけると微かに首を振った。
 背後には彼が新・スターシア星と名づけた星が今でも見えていた。
当時のガルマン=ガミラス総統府とは異なるため、その窓から見える景色は異なっている。実際、古代たちが訪問した時の新帝国は、巧妙に似せてはあったが違和感があった。だがそこにデスラーはもう20年以上も君臨し、着実に帝国を築いてきたのだ。
 その繁栄ぶりを見る限りにおいて、彼がただの暴君ではなくなったことが察して取れる。そうして外交手腕や宇宙全体を見通す目も――。
 生き様は相容れない。これは古代進がいかなデスラーに心を寄せたとしても、譲ることのできないものだった。だが武人として、認めざるを得ない力量や、人の大きさとして。古代はデスラーを尊敬しているといってもよい。
『――私たちの方は、“不問”というわけにはいかなかったよ』
え、と古代は顔色を変えて見上げた。
「われわれには――地球には、私心は無い!」
此処が肝心だった。地球は現在、他の星系とことを構える気などないのだ。
デスラーは片手を上げてそれを制した。
『わかっている、古代』まぁ飲みたまえ、と酒を促し、古代は一口、グラスを口に運んだ。
『――もともと不穏な動きのあった地域で、監視をつけてあった。今回のことで対処ができる。情報を感謝する』
 以前のデスラーなら、その星ごと吹き飛ばし、担当の者など指の一振りで銃殺にしてしまっていただろう。それだけでも、抱えているものの大きさが違うと古代は理解している。

 『――事前に防いだのは貴方の息子だそうだな』
「デスラー……」話題を転じた彼に古代は驚いた。どこからそのような情報を得るのか。もしかして、あの戦い自体、すべて監視されていたのではないか、そのような恐れさえ覚える。呑まれてはいけないと思いながらも。
『古代、守。――といったか』「あぁ、そうだ。長男で、今年、そちら方面へ向かう艦隊に所属になった。アリオスという艇の艇長だ。お見知りおきいただけると嬉しい」
そうか、と頷くデスラーは満足げに言った。『ユキとの子か――ユキは元気か』
「あぁ。ぴんぴんしてるよ、地球でだがね」
立派な息子だなと言い、そう言ったのは。『――私の子らも艦隊指揮官として各地へ出ている。今回は次男の窮状を救っていただいた結果になった。多くは言えないが、そういうことだ。感謝している』
それではデスラーにも子どもがいるのかと古代は思った。
『――わが星に留学しては来ないか。近々そういう制度を作ってもよい。地球人も、宇宙の隅っこで護られてばかりいないで、こちらへも出てくる義務がある――次世代にそれを託す人材がいれば、送ってもらえば、優遇する』
デスラーのその言葉は、多くの意味を含んでいた。

多くの情報が提示され、古代は一筋縄ではいかない、と思った自分の思いが間違いでなかったと実感する。
「デスラー。……ひとつ、聞きたい」
『なんだ』
画面上のデスラーは、饒舌だった。その言葉と裏腹に少し寂しそうに見える。王者の孤高は彼の特徴の一部ではあったが、さらにそれが色濃く見えたのは古代の感じすぎだっただろうか。
「――そちらは、平和なのか。戦いの種は、無いのか」
じっと黙ってデスラーは古代を見た。
 『――いまは、まだ。数年はもつだろう。地球にも影響があるとは思わない。だが、私たちが成功しても10年以内に。もし失策をおかせば数年内外には――戦いになるだろう』
「デスラー!」それはあまりにもありがたくない予測だった。
『銀河の状況は芳しくない。……ひとつの勢力が力をつけつつあり、われわれはそれを、武力で押さえようか、それとも政治で取り込めるか、真剣に議論している。われわれは大きくなり、もはや以前の武力星間国家だけではいられないからだ』
護るべきものができた――そうしてデスラーはもう二度と。あの、ガミラス本星崩壊から消滅に至るまでの絶望と、新しい大地・ガルマン=ガミラス喪失のような想いを、自分たちの国民に味わわせたくはないに違いなかった。
 開戦前夜――。
 今回の事件は、その火種にはならなかった。古代も、デスラーも。それを回避することができたのだ。
 だが次は――?

 第三次星間戦争への予感が、まだ形無く、古代進の胸の裡に広がっていた。
「デスラー……われわれは」
画面の向こうで彼は頷く。
『時間が、ないのだ。――古代。協力してほしい』
古代進は頷かざるを得なかった。
 自分勝手といわれようが、地球をそこから引き離しておきたかった。できるだけ長く、できるだけ遠くに。銀河系中央で済むものならば、そこで。
銀河系中央域へ飛ぶ遠洋航海艦隊と、自分たち――太陽系外周艦隊。新しい時代が近づいてこようとしていた。 

【End】
――09 Aug, 2011

= あとがき = へ)

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