ky100-36・1
【古代進と森雪100題-shingetsu版-】 御題 by 古代君と雪のページ
36. 古代君!
58. さよなら
65. 海へ
75. 旅行
78. 温泉
目次です。実は残りはこれだけなのですが、このうち「さよなら」「旅行」は、パラレルAなので(しかも少々問題ありあり)此処には掲載いたしません。
まずは、「古代君!」からスタートです(あとらんだむです)。
短いですが連載になる予定です。
★オリジナル・キャラクターが登場します。お厭な方はお読みにならないで飛ばしてください★
・・・
【36. 古代君!】
= 1 =
「こだいくんっ!」
大きな声で道の向こうから呼ぶ声がして、わりあい急いで前を向き、歩いていた彼は立ち止まった。
ちょっと、いやだなぁ。いつも思うこと。
「……古代くんってば」
たった、と駆けてきて、横断歩道を渡って近寄ってきた少女は、そう呼ばれた少年より少し背が大きい、いわゆるちょっと早熟な美少女だといえるだろう。
くるり、と呼ばれた彼――古代守、は向き直って相対した。
「なに。向山(むこうやま)さん――僕、急ぐんですけど」
その物言いは生意気といえないわけではないが、だいたい、塾に行くため急いでいるのを呼び止める方がいけないんだ、と彼は口をへの字に結んで見返した。
少女の方――向山葵は、古代守より1級上の小学校4年生。
目立つグループの1人で、この向山含めた3人組は、上級生からも人気がある。
だが彼女は廊下を挟んで隣の教室に当たる3年F組の古代守が気に入っている――興味をもっている。
端的に言えば、小学生なりの感覚だが、“好き”なのである。8歳――守はまだ7歳になったばかり。
育った環境から年齢よりは少し大人びた子どもだったが、それでもまだ女の子に興味などない。
だが――それはこの葵だけではなく、上級生同級生を問わず、注目を集めてしまうのが仕方なかったといえる。
地球の大きな危機が去り、地軸のゆがみも矯正されつつある現在だ。
もともと愛くるしい子ではあったが、今年になって急激に目鼻立ちが整ってきた。
両親の美質を受け継ぎ、特に“ヤマトの女神”と呼ばれ、地球を植民地化しようとした敵将校まで虜にしたといわれる母親に似た容姿は、十分に美少年で通る。
ただ、やんちゃ好きで元気――そして優等生の彼は。
そういう呼称を許さなかった。
――男らしくありたい。
それが、ヤマトの英雄・古代進の長男として生まれてしまった彼が自覚的に持っているすべての基準でもある。
それに彼は。
「古代くんって呼ばれない方法は、ないの?」
ある日、リビングでおやつをいただきながら、一緒に紅茶を飲んでいた母親に、伸び上がって守はそう聞いた。
母は楽しそうに首を傾げながら、
「あら。どうしてそう思うの?」
母親――便宜上仕事では森ユキを通している彼女は、自分が長らく結婚しても夫のことを“古代くん”と呼んでいた。
稀に現在でも、何かの時は“古代くん”と言うことがあり、そんな時は夫は目を細めるようにして、懐かしげに微笑むのが常だ。
――そんな様子でも聞いてたかしら? ユキは息子の深刻な悩みに気づいていない。
「古代――って苗字、珍しいでしょう?」
守がそう言って、やっとユキは、ははぁ、と頷いた。
「誰でも知ってるみたいで――なんだか。あの、きゅう? くつなの…」
そうか……そうよね。
ユキは少し困った顔をして、息子をみやった。
テーブルの上のクッキーをつまみ、口に放り込むと彼は、一人前の動作をして。
「まぁ、気にしないって思ってるの。でもね――やっぱり」
古代守です、って言うと。皆が、いろんな顔をする。
「あぁ、あの…」
って言う人もいる。
父さんがその辺の芸能人なんてメじゃないくらい、地球的に有名な人なのは知ってるし。
僕だって宇宙戦艦ヤマトのことも知ってる。
僕はその子どもなんだから仕方ないって思う――父さんは大好きだし。でもね…。
やっぱり、イヤだなぁって思うの。
「知らない人から、知ってるみたいに思われるの? なんか気持ち悪くない?」
上級生の女の子とかから声をかけられたり、今日みたいに待ち伏せされたりするのは、自分自身の人気もある、なんていうことに気づいてはいなかった。
ユキはそう思い至ると微笑ましくなって、
「私は、好きよ?」と息子に言った。
「好きって?」
「“古代”、って苗字のこと」
うふふ、と少女のように笑う母である。
――それにどんな意味が含まれているのか。幼い息子にはまだ理解できていない。
(続く)
36. 古代君!
58. さよなら
65. 海へ
75. 旅行
78. 温泉
目次です。実は残りはこれだけなのですが、このうち「さよなら」「旅行」は、パラレルAなので(しかも少々問題ありあり)此処には掲載いたしません。
まずは、「古代君!」からスタートです(あとらんだむです)。
短いですが連載になる予定です。
★オリジナル・キャラクターが登場します。お厭な方はお読みにならないで飛ばしてください★
・・・
【36. 古代君!】
= 1 =
「こだいくんっ!」
大きな声で道の向こうから呼ぶ声がして、わりあい急いで前を向き、歩いていた彼は立ち止まった。
ちょっと、いやだなぁ。いつも思うこと。
「……古代くんってば」
たった、と駆けてきて、横断歩道を渡って近寄ってきた少女は、そう呼ばれた少年より少し背が大きい、いわゆるちょっと早熟な美少女だといえるだろう。
くるり、と呼ばれた彼――古代守、は向き直って相対した。
「なに。向山(むこうやま)さん――僕、急ぐんですけど」
その物言いは生意気といえないわけではないが、だいたい、塾に行くため急いでいるのを呼び止める方がいけないんだ、と彼は口をへの字に結んで見返した。
少女の方――向山葵は、古代守より1級上の小学校4年生。
目立つグループの1人で、この向山含めた3人組は、上級生からも人気がある。
だが彼女は廊下を挟んで隣の教室に当たる3年F組の古代守が気に入っている――興味をもっている。
端的に言えば、小学生なりの感覚だが、“好き”なのである。8歳――守はまだ7歳になったばかり。
育った環境から年齢よりは少し大人びた子どもだったが、それでもまだ女の子に興味などない。
だが――それはこの葵だけではなく、上級生同級生を問わず、注目を集めてしまうのが仕方なかったといえる。
地球の大きな危機が去り、地軸のゆがみも矯正されつつある現在だ。
もともと愛くるしい子ではあったが、今年になって急激に目鼻立ちが整ってきた。
両親の美質を受け継ぎ、特に“ヤマトの女神”と呼ばれ、地球を植民地化しようとした敵将校まで虜にしたといわれる母親に似た容姿は、十分に美少年で通る。
ただ、やんちゃ好きで元気――そして優等生の彼は。
そういう呼称を許さなかった。
――男らしくありたい。
それが、ヤマトの英雄・古代進の長男として生まれてしまった彼が自覚的に持っているすべての基準でもある。
それに彼は。
「古代くんって呼ばれない方法は、ないの?」
ある日、リビングでおやつをいただきながら、一緒に紅茶を飲んでいた母親に、伸び上がって守はそう聞いた。
母は楽しそうに首を傾げながら、
「あら。どうしてそう思うの?」
母親――便宜上仕事では森ユキを通している彼女は、自分が長らく結婚しても夫のことを“古代くん”と呼んでいた。
稀に現在でも、何かの時は“古代くん”と言うことがあり、そんな時は夫は目を細めるようにして、懐かしげに微笑むのが常だ。
――そんな様子でも聞いてたかしら? ユキは息子の深刻な悩みに気づいていない。
「古代――って苗字、珍しいでしょう?」
守がそう言って、やっとユキは、ははぁ、と頷いた。
「誰でも知ってるみたいで――なんだか。あの、きゅう? くつなの…」
そうか……そうよね。
ユキは少し困った顔をして、息子をみやった。
テーブルの上のクッキーをつまみ、口に放り込むと彼は、一人前の動作をして。
「まぁ、気にしないって思ってるの。でもね――やっぱり」
古代守です、って言うと。皆が、いろんな顔をする。
「あぁ、あの…」
って言う人もいる。
父さんがその辺の芸能人なんてメじゃないくらい、地球的に有名な人なのは知ってるし。
僕だって宇宙戦艦ヤマトのことも知ってる。
僕はその子どもなんだから仕方ないって思う――父さんは大好きだし。でもね…。
やっぱり、イヤだなぁって思うの。
「知らない人から、知ってるみたいに思われるの? なんか気持ち悪くない?」
上級生の女の子とかから声をかけられたり、今日みたいに待ち伏せされたりするのは、自分自身の人気もある、なんていうことに気づいてはいなかった。
ユキはそう思い至ると微笑ましくなって、
「私は、好きよ?」と息子に言った。
「好きって?」
「“古代”、って苗字のこと」
うふふ、と少女のように笑う母である。
――それにどんな意味が含まれているのか。幼い息子にはまだ理解できていない。
(続く)