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2011_08
28
(Sun)00:15

ky100-36・2

古代進&森雪100題, shingetsu版

36.古代くん! ・1/・2/・3/・4/・5
65. 海へ
78. 温泉

☆オリジナル・キャラクターが登場する話です。こういうお話を好まれない方はお読みにならないでください☆
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                ★
 「守がそんなことを?」

 部屋着に着替え、くつろいでソファに体を投げ出しながら帰宅した古代進は言った。
しばらく訓練学校の冬期講習・臨時教官を引き受けて地上勤務である。
毎日、早くはないが遅くもない時間に自宅へ戻り、遅い夕食を摂っている。
平和な時期で、古代は毎日、息子の顔を見て学校の報告を聞くのをとても楽しみにしている――いま、手許に置くことのできない2人の子どもたちの分も。
 「えぇ」
 はい、アイスティ。と渡してくれたグラスから一気にそれを飲み干した夫にユキは答えて言った。
「――珍しい苗字で皆が知ってて窮屈、なんですってよ?」
くすりと笑う様子は、深刻な悩みというわけではないらしいと古代は思う。
「まぁなぁ……確かに俺たちの所為で多少、窮屈な思いはさせることになるよなぁ」
それも一生、と、ちょっとかげりのある表情を見せて、それからふい、と腕を伸ばすとソファの横に立っていたユキの首を抱え込んで、ちゅ、とキスした。
んっ。――まぁ。進さんたら。
 えてして子どもの悩みの深刻さと大人の価値基準というものは食い違うものらしい。

 そうして、古代進はまた、艦上の者(ひと)となった。


= 2 =

 日々は平和に続いていくはず、だった。

「え? 守が?」
帰還した途端、ユキの困った表情に迎えられて、古代進はお茶、と差し出しかけた手を止めた。
「えぇ……学校に行きたくないって。――ごめんなさい。今回は短いのだから、あまり心配かけたくなかったんだけど…」
 年が明けてそろそろ節目にかかろうという時期になっていた。
新年度は何故か(この23世紀でも)4月からだったりしたので、古代の艦隊にも若干の人員入れ替えがあり、そのための一時帰還であった。現在、古代の艦隊はガニメデ就航へ戻り、自宅へ戻れる時期は短い。

 「もう、長く行ってないのか?」
ううん、とユキは首を振った。
「ここのところ……1週間になるか、というところ」
「――何故、知らせないんだ? 星間通信でも、基地への伝言でもできるだろ?」
古代は一瞬、感情的になって“らしくない”癇癪を起こしてみせたが、次の瞬間、は、と気づいて眉間の皺を解いた。
「――ごめん。ユキだって忙しいのにな」
ううん、と妻はまた首を振った。
「そういうこと、じゃなくて…」
 微妙なことを通信でいちいち報告するのは気が引ける。
子育て期間中であり、古代が守をこよなく愛している――思った以上に子煩悩でユキの方がびっくりしたほどだ――とはいえ、“宇宙の男”である古代は、星の海へ出てしまえば“便りのないのが良い便り”と思うことにしている……というのが、戦艦勤務の士官を連れ合いに持った者たちの処世術である。
 たまたまユキは防衛軍秘書室、などというところにあり、航路管理も業務の一環で、そのデータも扱う。
だから夫の航行する旅の行く先や、その任務のおおよそまで見当が付く。
本来なら、どこで何をしているかすら、機密の対象となるため、「これから帰る」という連絡を自宅へ入れることもタブーな場合が多いのである。
 そんな“宇宙の出先”へ、家庭のこまごましたことなど通信できるはずもない。
ましてや戦艦乗り。拠点をかすめるタイミングを見計らうのも、ほとんどユキの場合は“職業特権”なのだ。
多くの者たちがそれ無しになんとかしている宇宙時代なのである。

 夕食にも降りてこようとしない息子に、古代は眉間の皺を深くした。
家に戻り、妻と子の顔を見るのを何よりもの喜びとしている古代でもある。
だから、違和感――これであった。
 「原因は?」
ううん、とまたユキは首を振る。
「わかった……俺が話してみよう」
古代は立ち上がり、2階への階段を上っていった。

             ☆
 「守――守。父さんが帰ったぞ。どうした、『おかえりなさい』は言ってくれないのか」
なるべく普段どおりに声をかけ、部屋の中でごそごそと動く気配があった。
 教育方針もあって完全な個室ではない。その気になれば半分だけのパテーションを超えて中に入ることもできたが、そこは古代である。
「守――父さん、寂しいな。出てこないか」
少し柔らかく声をかけると、かすかに小さな声がした。
 「……お帰りなさい。お迎えに、行きたいけど。だめなの。……なんだか、だめなの」
耳をつけてみると、様子が妙だった。
「守! 入るぞ」
緊急対応(エマージェンシー)であると、古代は判断した。

 わしわしと境目を踏み越えると、守のプライヴァシー・エリアを見……そこに、ベッドの上に膝を抱え、壁に背をつけて蒼い顔をした自分の息子を見つけた。
「父さんっ!」
わし、っとしがみつくように飛び掛られて、それを抱きかかえる古代である。
 どうした? お母さんには言えないことか?
ぱふぱふと背中を大きな手でさすり、撫でてやると少し落ち着いて、古代の膝の間で丸くなった。
――幼い頃はよくこうして古代の膝で遊ぶのが好きだったが、大きくなってからはもうしなくなったと思っていたのに。……何か、不安定になっているのだと古代は思う。
なんとなく、わかるのだった。

(続く)

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