ky100-36 ・3
古代進&森雪100題, shingetsu版
36.古代くん!・1/・2/・3/・4/・5
65. 海へ
78. 温泉
☆オリジナル・キャラクターが登場する話です。こういうお話を好まれない方はお読みにならないでください☆
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
= 3 =
「名前が、イヤ?」うん、そうなの。と守は言った。いっそ僕。お母さんの名前にしちゃうか、お婿にいっちゃうっていうの、どうだろう? とごく真面目な顔で言った。
「古代君。って誰も彼もがなんだか……怖い。僕、そう呼ばれると気持ちが悪くなるの」
「――もうじきバレンタインだしな」
うわーん、と守は顔を古代の胸に伏せた。「それ、言わないで。そんな日、無くなっちゃえばいいんだっ!」
おやおや。
女の子は、守は嫌いかな?
こくりと頷く感じがした。本当か? 意地悪だったり、困らせたりするのかな?
ううん、と腕の中で彼は少し動いた。――そんなこと、ない。ただみんな。言うんだ。
ぐずぐずと古代の胸に顔を押し付けて、彼はその柔らかな子どもの感触に、本人にはわからないようにこっそりと微笑んだ。大きな手で髪を撫で、背中をぽんぽん、と叩くと、息子は少し落ち着いたようだ。ぐったり、というように古代に体を預け、ぼそりと言った。
「……なんだか、頭の上にぐるぐるする、かんじなの……」
圧迫感、を感じているのかな。精神的なものだったら、少しまずいかもしれない。
「耳がうわんうわんしたり、声が聞こえたりするのか?」ううん、と守は首を振る。ただちょっと胸のあたりがギュン、となるんだよ、と。朝、頭が重くて、なんだか外に出たくないの。――あれだけ学校や、お友だちの好きな子なのにな。
う~ん、と古代は考えた。
これは、学校の先生に相談するか、医者へ連れていった方が良いのかもしれない。……この(少し大人しいが)利発で明るい子が、1週間も不登校だなんて…。
もう少し楽観していた古代進は、少しリラックスした顔になって自分の膝で丸くなっている息子を見た。
☆
リンゴーン!
玄関のベルが鳴った。
「はぁい?」ユキの答える声が聞こえ、セキュリティロックの解除される気配があると、玄関に誰か訪ねてきた様子だった。
内線のインターホンが鳴り、古代はそれを取り上げた。
『あなた。学校のお友だちが……』
「ん? ……あぁ、俺が出る」
ありがたい。こちらから訪ねようかと思ったところだった。
守はまた緊張がよみがえったのか、少し怯えた様子で身体を硬くした。そのままベッドの片隅に貼りつく。
「ちょっと、待っててな、守」
こくりと頷く息子の頭を、古代はもう一度撫でてやった。
「向山、葵といいます」
ランドセルを背負ったまま、玄関に立っていたのは、3人の少女たちだった。
古代進が突然現れたので3人ともとても緊張しているのだろう。
先頭にいた美少女といえる葵は、少し紅潮した頬をして、それでも物怖じせずはっきりと古代を見上げた。
「――私たち……わたし。古代守くんが学校に来ないので……それで。あの……」
「心配して来てくれた、というわけかな。ありがとう」
古代進はくつろいだ様子でいたが、人を取り込むような柔らかな笑顔を少女たちに見せて言い、彼女たちはあきらかにホッとした表情になって、だがまだ顔は赤いままでいる。
「そ、それで。古代くん、あの。私たちの所為で来なくなっちゃったんじゃないかって、あの」
「――誰かにそう言われたのかな?」
古代は柔らかく微笑んだまま、少女たちを見返した。
その笑顔にはどぎまぎしたものの、この大人はわかってくれている、という気持ちを起こさせたのだろう。
「私、私の所為じゃないって思いたいんですけど。で、でも、それだけじゃなくって。やっぱり来ないと心配で……クラスも学年も違うんで、図々しいかなとは思ったんですけど。でもやっぱり…」
いくら気丈でもまだ8歳。理路整然と話したい気持ちと、自分の所為じゃないといいたい気持ちと。真剣に守自身を心配している気持ちもあってまとまらなく、それは古代進という人物と相対していることもあったのかもしれなかった。
古代は柔らかく微笑むと、
「息子も良い友人を持って幸せです。お嬢さんたち、ともかく玄関先ではなんだから。おあがりください。……守は少し気分が悪くてお会いできるかどうかわからないが。それでもよろしければ」
大人――しかもすこぶるつきの有名人――に、まるで大人に言われるように丁寧に対されて
「えっ」「は、はい」「で、でも…」
3人3様の反応をしたが、一瞬顔を見合わせて、葵がきっと目を上げると。
「はい、お邪魔します。ごめんなさい」と言った。
(続く)
36.古代くん!・1/・2/・3/・4/・5
65. 海へ
78. 温泉
☆オリジナル・キャラクターが登場する話です。こういうお話を好まれない方はお読みにならないでください☆
= 3 =
「名前が、イヤ?」うん、そうなの。と守は言った。いっそ僕。お母さんの名前にしちゃうか、お婿にいっちゃうっていうの、どうだろう? とごく真面目な顔で言った。
「古代君。って誰も彼もがなんだか……怖い。僕、そう呼ばれると気持ちが悪くなるの」
「――もうじきバレンタインだしな」
うわーん、と守は顔を古代の胸に伏せた。「それ、言わないで。そんな日、無くなっちゃえばいいんだっ!」
おやおや。
女の子は、守は嫌いかな?
こくりと頷く感じがした。本当か? 意地悪だったり、困らせたりするのかな?
ううん、と腕の中で彼は少し動いた。――そんなこと、ない。ただみんな。言うんだ。
ぐずぐずと古代の胸に顔を押し付けて、彼はその柔らかな子どもの感触に、本人にはわからないようにこっそりと微笑んだ。大きな手で髪を撫で、背中をぽんぽん、と叩くと、息子は少し落ち着いたようだ。ぐったり、というように古代に体を預け、ぼそりと言った。
「……なんだか、頭の上にぐるぐるする、かんじなの……」
圧迫感、を感じているのかな。精神的なものだったら、少しまずいかもしれない。
「耳がうわんうわんしたり、声が聞こえたりするのか?」ううん、と守は首を振る。ただちょっと胸のあたりがギュン、となるんだよ、と。朝、頭が重くて、なんだか外に出たくないの。――あれだけ学校や、お友だちの好きな子なのにな。
う~ん、と古代は考えた。
これは、学校の先生に相談するか、医者へ連れていった方が良いのかもしれない。……この(少し大人しいが)利発で明るい子が、1週間も不登校だなんて…。
もう少し楽観していた古代進は、少しリラックスした顔になって自分の膝で丸くなっている息子を見た。
☆
リンゴーン!
玄関のベルが鳴った。
「はぁい?」ユキの答える声が聞こえ、セキュリティロックの解除される気配があると、玄関に誰か訪ねてきた様子だった。
内線のインターホンが鳴り、古代はそれを取り上げた。
『あなた。学校のお友だちが……』
「ん? ……あぁ、俺が出る」
ありがたい。こちらから訪ねようかと思ったところだった。
守はまた緊張がよみがえったのか、少し怯えた様子で身体を硬くした。そのままベッドの片隅に貼りつく。
「ちょっと、待っててな、守」
こくりと頷く息子の頭を、古代はもう一度撫でてやった。
「向山、葵といいます」
ランドセルを背負ったまま、玄関に立っていたのは、3人の少女たちだった。
古代進が突然現れたので3人ともとても緊張しているのだろう。
先頭にいた美少女といえる葵は、少し紅潮した頬をして、それでも物怖じせずはっきりと古代を見上げた。
「――私たち……わたし。古代守くんが学校に来ないので……それで。あの……」
「心配して来てくれた、というわけかな。ありがとう」
古代進はくつろいだ様子でいたが、人を取り込むような柔らかな笑顔を少女たちに見せて言い、彼女たちはあきらかにホッとした表情になって、だがまだ顔は赤いままでいる。
「そ、それで。古代くん、あの。私たちの所為で来なくなっちゃったんじゃないかって、あの」
「――誰かにそう言われたのかな?」
古代は柔らかく微笑んだまま、少女たちを見返した。
その笑顔にはどぎまぎしたものの、この大人はわかってくれている、という気持ちを起こさせたのだろう。
「私、私の所為じゃないって思いたいんですけど。で、でも、それだけじゃなくって。やっぱり来ないと心配で……クラスも学年も違うんで、図々しいかなとは思ったんですけど。でもやっぱり…」
いくら気丈でもまだ8歳。理路整然と話したい気持ちと、自分の所為じゃないといいたい気持ちと。真剣に守自身を心配している気持ちもあってまとまらなく、それは古代進という人物と相対していることもあったのかもしれなかった。
古代は柔らかく微笑むと、
「息子も良い友人を持って幸せです。お嬢さんたち、ともかく玄関先ではなんだから。おあがりください。……守は少し気分が悪くてお会いできるかどうかわからないが。それでもよろしければ」
大人――しかもすこぶるつきの有名人――に、まるで大人に言われるように丁寧に対されて
「えっ」「は、はい」「で、でも…」
3人3様の反応をしたが、一瞬顔を見合わせて、葵がきっと目を上げると。
「はい、お邪魔します。ごめんなさい」と言った。
(続く)