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2011_08
31
(Wed)19:40

ky100-36 ・5

古代進&森雪100題, shingetsu版

36.古代くん!・1・2・3・4/・5
65. 海へ
78. 温泉

☆オリジナル・キャラクターが登場する話です。こういうお話を好まれない方はお読みにならないでください☆
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                 ★
 「あの……」
階段の手すりあたりから小さな声がして、リビングの4人は振り返る。
そこに、おずおずと隠れるように、その日の主人公の姿があった。
「守っ――寝てなくていいのか」
「古代くん」
「古代君、あの…あの私」「ごめんなさいっ」
皆がいっせいに声をかけ、彼はびくりとして固まってしまった。
 「守――降りてきたなら、こっちへ来なさい。ほら、ここでいいから」
進は自分の傍らを示し、守はおずおずと近づくと、おびえたような顔をして古代の膝に触れるように椅子に座った。
「わざわざ来ていただいたんだ――何か、言うことはあるかい?」
進が促すと、守は、
「あの……」と言ったまま、うつむいてしまった。だが、小さな声で「どうも……ありがとう」と。
ううん、と彼女は首を振った。
「ごめんなさいっ、私。あなたを苦しめるつもりなんてなかった」
「――」おずっと体を引く守である。
「そ、そんな……別に君のせいじゃ」
守はなんとか体制を立て直そうとした。
 古代が守の背に手を当てて、息子は其処から熱を感じた。
そうだ、僕。逃げてちゃいけないんだ――理由も理屈もわからない。
まだ混乱していたが、目を上げて、はっきり言った。
「――明日から、学校に行きます。だから、気にしないで」
小さな声だが、それはきっぱりしており、また同時に、ある種の拒絶を含んでいた。
 「古代くん?」
びっくりした目をして葵が守を凝視する。
「――僕はあなたたちのこと、よく知らない。なのになんで、好きだのなんだのいうの。考えたらわからなくなった。この間のことなら、ごめんなさい、一緒に遊園地とか行けない」
 その答えで古代進は、告白されて遊びに行こうと誘われたのだと理解した。
 だが、女の子たちにも、もしかしたら深い意味はなかったろう。
もっと仲良くなりたい―― 一緒に遊べたら。見目良い相手にキャァキャァと盛り上がるのはスターに憧れるのとたいして変わらない。女の子同士なら普通のことだ。
だが守にしてみれば、青天の霹靂ともいうことだったのかもしれないのだ。

 「守」
小さくだが父の声に込められた意味に気づいて、守は「ごめんなさい」と言った。
「わざわざ来てくれてありがとう――僕、もう大丈夫だから」
無理をしている、とわからないわけではなかった。だが守にはこの会見を早く切り上げたい。もう構わないでほしいという意思が見える。
 「ね、でも」
このあたりが限界だろうと進は思った。
「――守。わかった、御礼だけ言ったらあとは部屋へ戻っていなさい。皆さんも、今日はわざわざありがとう」

 守は階上へ上がり、3人は立ち上がった。
これ以上、此処にいても仕方ないと思ったからだ。

 玄関を出るときに、葵は古代進を見上げ、問いかけた。
明らかに落ち込み、悩んでいる風を見せている。
「あの……お父様。古代、進さん……」
「なにかな」古代は柔らかく微笑む。
彼女たちの真っ直ぐな気持ちを傷つけたくないと思った。
「――私、いけなかったんでしょうか。でも、古代くんは……」
泣きそうに見えて、泣きはしなかった。だが、少し震えている葵の両肩に、古代は柔らかく手を置いた。
「彼もいまはまだ調子が良くないからね――人が誰かを好きになるのは自由だよ。それがあなたのような人が、うちの息子に、というのは光栄なことだ。ただあいつはまだ子どもで、その気持ちには答えられないらしい。――あなたもね。もっといろいろな人や仲間と、いろんなことを話したりするといい」
「古代さん……」
「これから皆、まだまだいろんなことがあるよ。うちの息子もね、幸せものだ。私からも礼を言わせてもらう、ありがとう」
だがしばらくそっとしておいてやってくれ、とも言い添えるのを忘れなかった。
 「しばらく……しばらくって、どのくらいでしょうか」
「そうだな――ヤツが自分から、貴女に話しかけるまで、かな」
あいつのことだ。放りっぱなしにはしないと思うよ――まだガキだけどね、そういう教育はしていないからね。
少しウインクするように言って、送り出された3人は、ぽぉっとした気分のまま家路へ向かった。官舎の厳しいセキュリティを越えるときも、行きはあれだけ緊張したのに、帰りはいつの間にか通り過ぎていた。

                ★
 その夜。
 遅く帰ってきた森ユキは、息子がすやすやと古代の膝で寝息を立てているのを見つけた。

「おう、ユキ――お疲れ様。すまんな、こういう状態で動けなくって」
お風呂沸いてるよといい、ありがとうとユキが答え。
「どう? 守の様子は」そう横に膝をついて尋ねると、
「ばっちりさ。任務完了も間近だな」とおどけた調子で答えた。

 「今まで、君が何故、俺のことを“古代くん”って呼ぶか、話していたんだよ」
ユキはぽっと赤くなった。
「ま。……いまさら何を――特に何故とか理由なんかないでしょうに」
「ん?」古代は目を細めて笑った。
「まぁ、そうだな」そう言って守の髪に手を置く。
「だけど、君の“古代くん”は、何よりもの薬だったし――時には俺の命を救った」
そうじゃなかったか? と古代はユキをもう一度じっと見つめた。
「そう? そうかしら、ね……そんなこともあったかもね」
うっとりと、古代にだけ向ける笑顔を向けて。

 守はもう大丈夫だ。
 自分の力で殻を抜けて、外へ出てきた。――優しくて、強い子だよ。
 明日はどうやらクラスのお友だちが、朝、お迎えに来てくれるそうよ。
 そうか。仲間にも恵まれてるんだな。――それとも君の采配か?
 まっ。どうかしら?

 ユキは嫣然と微笑むと、守を抱えてベッドにそっと運んだ古代を促し、二人でベッドサイドに寄り添った。
 「大事な、子よ――私たちの、守」
「そうだな」
今日よりも、明日。明日よりも、未来に――より幸せが待っているように。
あぁ。失った命の分も――この地球(ほし)そのものの恵みも。
そうね――本当ね。

 古代くん……。
 古代、くん!?

 ユキが呼ぶ。
 守も、そのうち、そう呼ばれるようになるのだろうか。
愛しい娘の声で。――そうあればいいと思いながら、それはいつのことだろう、もしかすると、ずっと先なのかもしれない、と思う、古代進だった。

【Fin】
――30 Aug, 2011
◆ ◆ ◆
[余談]
 翌朝。守は迎えに来た同級生と一緒に、元気に登校していった。

 そして放課後、クラスの何人かと一緒に帰ってきたのだ。
しかもそのうち数人は、喧嘩したらしい様子。
「上級生から古代君を守る会、なんです」
訊ねるとそう言い、男女5人くらいのメンバーの中には、斉藤千穂もいた。
 「おねえちゃんたら、ひどいの。私たちの古代くんなのにっ。クラスの仲間、一致団結して、上級生なんかに負けるものかって宣言したんですよ」
おやおや、と古代とユキは苦笑して顔を見合わせる。
「ぼく、別に守ってもらわなくても大丈夫だよ。そんなんで喧嘩なんて、やめてって言ったのに――」
心底困ったように。だが頼もしげに級友を見る古代守の姿を、母親はどこかで見たような気がして、父親を見た。
守は良い仲間がいる。良いクラスだ、と進は思った。
 戦争や喧嘩といっても、よくあるクラス同士の抗争である。ちょっとしたライバル意識、お祭り騒ぎのネタ。仲間を取られたくないという“大事に思う気持ち”は本物だが。でも、こういった争いごとは、陰湿にならなければ良いのだ。そして、それを導くのは大人の役割だったろう。
 「――守のためにあんまり暴れたりしないでくれよ?」
古代がそう言うと、「大丈夫だよ、お父さん」
と当の守が言った。
「みんな、“りょうしき”ってもんがあるからさ。僕、もう大丈夫なんだ」
その言葉を誰よりも頼もしく聞いたのは、古代進だったかもしれない。

 しかし彼女(あおい)たちも可哀相だなと一方で思ったが、当人たちは案外メゲてはおらず、しかも別の“憧れ”も出来たことを古代進は知らない。

 「守くんも素敵だけど――やっぱり古代進さんて、本当に素敵だった」
 こういう噂が上級生を中心に駆け巡るのに、一日はかからなかったという。

【本当に、おしまい(_ _)】

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