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2011_09
21
(Wed)00:15

"夜明け前"・1-01

夜明け前 -before dawn-

【プロローグ:西暦 2195年】
00 prelude・・・新入生

【第一章】(2007-06)
01 入寮
02 食堂01
03 食堂02
04 入学式

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【一.入寮】

 ぼん、とずた袋のようなナップザックを机の上に置き、ジャケットを掛けて上着を脱いでしまうと、もうすることがなかった。
 進はどさりと壁際の机の前の椅子に腰掛けると、はぁと息を吐いた。
 ぼぉっとしていたに違いない。
 ここ数日間の、めまぐるしいような環境の変化は――望んで入ったものとはいえ、
まだ現実味を伴ってはこなかった。

 (訓練学校の、寮に――いるんだなぁ――)

 何も、考える気力がない。

 (疲れた――)


- ☆ -

 ガタン、と扉が開いて、小柄な姿が視界に入ってきた。

 「あっ。……とと。済みません、先客が居るとは思わなかったものですから」
 やはり肩にザックを背負った男が立って、一歩部屋に踏み込んできていた。

 最初からきちんと説明書を読んでいればわかったことだったはずだった。
訓練学校の寮は2人~4人部屋なのだ。
古代進は、2人部屋をあてがわれていた。
同室者がいる――そんなことにも気が回っていない進である。

 病院から出、兄と別れ、そうして宇宙へ出て留守をするため住む者の無くなってしまう地下都市のアパートを出てくるのは、それなりに気を遣うものだったのだ。

 (( 私物は制限があるからな――本当に大事なものだけにしろ))

 兄の守にそう言われて、進は、小さなフォトスタンドと、いつも持ち歩いている少し厚手のノート。そして様々なチップカードだけにした。

(( おいそれでいいのか? 生活必需品はいいんだぞ))
(( 備え付けがあるんでしょ? いいよ――訓練生が贅沢言ってられないから))
それでも、服の何着かくらいは持っていけ。
そう言われて。
そうだな、ついでだから――お前はいくら子どもだからって格好に構わなさすぎだ。
俺が見立ててやる――そう言って買い物に引っ張り出された挙句の入寮だった。

 時間、一番遅かったんじゃないかしら。
 もう夕食になろうかというところ。

 進はギリギリに動くのは嫌いだった。
早めに行って、余裕を持ってゆっくりしたい。
わりあい几帳面な子どもだったことと、焦るのが嫌いな所為。
その点、兄の守は、いつもなるべく時間を有効に使おうとし、無駄が出るのを
嫌うような傾向があった。必然、ギリギリ。
またはオンタイムになる。


- ☆ -

 「古代、進くんですね――」

 まだぼぉっとしていた進に、侵入者が声をかけた。
 最初は謝ったくせに、つかつかと入ってきて、反対側のベッドに荷物を放り出すと
「島、大介――同室です。よろしく」
 そう言って、手を出し、握手をうながした。

 まだ椅子に座ったままだった進は
「あ、あぁ――よろしく」
 そう言って目を上げると、立ち上がって手を差し出した。

 「ふぅん……君か。古代守さんの、弟って」
 人懐こい笑みを浮かべてその島大介はまっすぐ人を見る。
 からかうようではない――。

 (育ちの良さそうな坊っちゃんだな)

 進の側の、第一印象はそれである。
 きっちり櫛の入った髪。やわらかな素材のコットンの上下に身を包んで。

 「兄貴はそんなに、有名なのかい?」
 軍にも世間にもあまり興味のなかった進である。
「あったり前だよ。もう、憧れさ――俺、ラッキーだな」
島は邪気のない笑顔でそう言うと。
「君、そっち側でいい? 俺、こっち使わせてもらうよ」
そう言って、バタンとロッカーの扉を開け、またデスク上のPCにカードを差し込んだ。

 あ。と――。

 夕食、なんだってさ。皆、もう集まってるみたいだから、行かないか?
 島がそう言った。
「あぁ。そうだね。……どんな人たちが集まるんだろうな。これから、
よろしく、島くん」
 進が言うと。
 「島、でいいよ。さ、行こう、古代」

 頷いて、2人は少年宇宙戦士訓練学校、第一日を踏み出した。

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