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2012_10
04
(Thu)14:17

狙い撃ちされるヴァイオリン!?

 著名ヴァイオリニスト(日本人として初めてエリーザベト王妃国際コンクールで優勝、以降、世界的な活躍をしている)の堀米ゆず子さんのヴァイオリンが、フランクフルト空港の税関で「持ち込み税を払え」と法外な金額を要求され、取り上げられた事件は先日、大きく報道されたばかり。
 われわれ周りでは、事件発生の2時間後にはFBを通じて応援ページが立ち上がり、世界中で波紋を呼んだ。
 「骨董品とはなにごとか(勝手に値付けするな)」「音楽家の命にも等しい楽器を取り上げるなんて」「そもそも無理難題」……etc.

 演奏家の多くは怒りと同情、それ以外の人間は別の意味での怒りと戸惑い。そうして具体的に何が問題なのか? ドイツというのは何を考えているのだ? と様々な想いが飛び交い、私自身も失望や怒りにとらわれた。
 その頃たまたま来日&帰国していた何人かと話すと皆、一様に書類(常に仕事に使用している、という証明や、購入場所の履歴、所有者など、、、らしい)だけは常時携帯していようと考えたりもしていたらしい。
 だが実際は、「何を持っていれば安全」で、「どんな場合がマズ」いのか? という結論もわからないし、なぜ彼女がそこでそんな目に遭ってしまったのかもわからないため、対処のしようがない、というのが実際だ。

 その時の空港税関の言質を借りれば、PCやカメラ、その他われわれが持って歩く機材もその対象に含まれかねないし、実際に私たちが今回、ふだん利用するフランクフルト経由を避けたのも、その理由が無いとはいわない。仕事で渡欧する人間が戦々恐々としたことは言うまでもなく、少なくとも何割かは「フランクフルト空港は避けよう」としたことも事実である。
 本当に皆でボイコットできれば良いのだが、それにしてはかの空港は大きすぎ、ヨーロッパ便への利便が良すぎるのである。

 ある親しくしている若い演奏家曰く(彼はストラドやグァルネリほど高いものではないが、3本ほど持ち歩く演奏するための楽器を持っている)、書類はスキャンして持ち歩こうと行ったあと、「音楽家というのは世界中を旅する人種で、最も飛行機を利用する人間たちでもある。そんな上客を敵に回してどうするんだ」と怒っていた。
 ビジネスマン諸氏はどうしているんだろう。関係がない、と思われるのかな。

 そうして各方面の努力の末、堀米サンの楽器は9月の末週に無償で手元に戻ったわけだが、、、これを一般化できる方策かというと、そういうわけではないらしいのだ。

 昨日は、私も怒りで頭が沸騰して書けなかった。

 有希=マヌエラ・ヤンケ、という演奏家がいる。堀米さんほど著名ではない若い演奏家だが、非常に才能があり、今後活躍していきそうな女流である。ところがこの彼女、9月28日、ドイツ・フランクフルトの税関で、所持するストラディヴァリウス「ムンツ」を押収されていたとわかった。

 記事を読んでいただけばわかるが、このストラディヴァリウスは彼女自身の楽器ではなく、日本音楽財団から貸与されたもの。
 音楽家にとって良い楽器は必須のものだが、皆、お金があるわけではない。家屋敷を売ったり、膨大な借金をして購入するか、スポンサーを見つけて貸与していただく(そのためにコンクールに出る人もいるくらいだ)。それを組織的に行っているのが日本音楽財団で、多くの名器を持ち、国籍を問わず、才能を認めた若手に数年間の期限を付けて楽器を貸与している。

 私が先日、「ちょっと贅沢なパーティと演奏会」と書いた記事が、この演奏会だった。彼女の演奏をここで聴き、その帰り道にそういう目に遭ったというわけだ。

 記事からわかるとおり、こんどはもう「なんのことかわからない!」のである。
 税関の論旨も破綻している。
 『貸与されているからといって、転売しないという可能性はない』……って、なにそれ? 転売した段階で横領だったり犯罪だよね? そんなことするわけなかろ?
 しかも、この時、“書類は完璧”に揃っており、それでも「税金を払え」という。

 前回の時も、ベルギーの税関が「何故ドイツがそんなこといってくるんだ?」という反応だったし、今回は、楽器を所持しているのは日本の機関である。マジで“通っただけでお金を取る”つもりか? 財産なのは財団にとって・人類にとって、であって、音楽家にとっては、音楽を伝える道具でありツールなのだ。命とお金の次に大切な、ね。

 ついでにいうと、堀米さんはベルギー在住(そちらで結婚してご家族もある)の日本人。
 ヤンケさんは、父親がドイツ人・母親が日本人のハーフでドイツ在住だ。国籍がどちらかわからない。

 どうも、海外在住の邦人の、ヴァイオリンが、狙い撃ちなのだろうか? この場合、ヤンケさんはドイツ国籍の可能性があり、そうなると、どうなるんだろう??? 外交筋からのアプローチはしにくいかもしれない。

 しかし1回目の件で、ドイツは非常に諸外国に対して信頼を失っている。国としての“格”や対面の問題である。
 そうして今回は、あの方を怒らせた。これは許してほしくはない、と個人的には思う。正面切って騒ぎ、国際問題に発展するとかいうオロカなことではなく、財界人・女性のトップならではのコワさを、こういう時こそ発揮していただけると良いと思う。
 なによりも、楽器が早く戻ってくることを祈りたい。

                      ・・・
 読まれる方の中には、楽器のあまりの高価さに、関係ない気分を持たれる方もいると思う。だが楽器は生活の糧でもあり、音楽を提供するツールであり道具であり、皆、心身を削ってそれに仕えるのだ。当人にとって、けっして贅沢品ではない。良い楽器に巡り合うまでに、どれだけの苦難を舐めるか。早くに良い楽器に出合い、それと寄り添うことができた者は、それ以上の幸せはない。
 11月公開の映画で、「チキンとプラム」という、楽器を壊されてしまって死を選ぶヴァイオリニストの映画が来るが(フランス映画で、フランスのコミックが原作。現地でもだいぶ話題になった)、その気持ちに共感しない音楽家はいないだろうと思う。

 踏みにじる、という言葉がこれほど実感されたこともない。
 大阪方面で文楽の話が出ているが、これに共通するものも感じるのだ。

コメント

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おかえりなさいませ。
御身も荷物も共に無事帰国がなによりですね。

2012/10/06 (Sat) 09:52 | 伊助 | 編集 | 返信

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2012/10/06 (Sat) 12:16 | | 編集 | 返信

ただいまです>伊の字どの

>>伊助さま

コメントでのお見送り・お迎えをありがとうございます。
お土産は気持ちだけ……(^_^)。

なぁんか弱っておりまして、会社におります。
このあと21時に東劇までたどり着けるかどうか自信がありません(^_^;) またどっぷり仕事じゃ【ない】モードになっちまったらどうしよう。。。

この三連休でなんとか通常ペースにまで追いつきたいのですが、本当は休みたいです(_ _;)

2012/10/06 (Sat) 18:57 | 管理人 | 編集 | 返信

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